メモリー7 意外に話すこの子
ヘッドパレスでの手続きも終わり、とうとう冒険者試験が始まった。希望を胸に乗せたリゲロンとスミトはカルホットに同行してもらいラカの森を目指す。リゲロンとスミトは何事もなく冒険者になる事ができるのだろうか。
「あぁー遠いよぉ!」
「確かに1時間以上歩いたな……」
今僕リゲロンとスミトとカルホットは、この長ーい平原を歩いていた。冒険者試験はラカの森って言うところでやるらしくて、サーガラド王国から歩いて2時間くらいかかるみたい。
「そうだね、早く帰りたいねー」
「なんかカルホットって冒険者なのに抜けてる人だよね」
カルホットは冒険者試験の監督役でついてきてくれている冒険者。Cランク冒険者らしいからしっかりした人なのかなって思ってたけど、ずっとぼーとしててなんか顔もだるそうというか眠たそうというか。
「同年代だとしても会ったばかりの人にそんなこと言うなよ」
「はいはーい」
スミトは固いなぁ。いいじゃん、ギリギリ失礼じゃないことならさ。まぁ抜けてる……じゃなくて優しい人のほうが試験も甘めに見てくれそうだからいいんだけどね。あとあの見た目で意外に話すの好きそうだし。
「そういえば二人は何で冒険者になりたいの?」
カルホットがそう質問してきた。あ、でも本当のことは言っちゃダメってスミトが言ってたっけ。なら答えるのはスミトに任せよう。
「俺たち家への帰り方を忘れてしまって、冒険者っていろんなところに行くんだろ?だから冒険者になれば家の帰り道もわかるかなって」
確かパティモースさんにも同じ嘘をついていたのを思い出した。別に本当のことを隠す必要ないと思うけどなぁ。
「ふわぁぁん、あごめん。あくびして聞いてなかった」
「この……」
「まぁまぁ」
話が好きそうって言ったの前言撤回。やっぱり印象通りの人だ。感情的になったスミトが必死に拳を抑えてる、スミトは怒りんぼうだな。
「そういえばカルホット、ストラセスって花はどんな見た目してるの?」
試験内容にあったアンジャル討伐とストラセス採取。アンジャルは豚のような見た目のかわいい魔物らしいんだけど、ストラセスの見た目が想像できないんだよね。ほら、見た目わかんなかったら発見しても気付けないし。
「ストラセスの見た目か……俺は言葉で表すのは苦手だから紫色の花としか……」
少しの沈黙のあと、カルホットがこう言った。
「でも何故冒険者試験でストラセスを採取するのかにはしっかりした理由がある。ストラセスには薬剤だとか食材だとかの用途はない。ただ花言葉があってね、ストラセスの花言葉は『始まりの空』、あまりに鮮やかな紫なものだから真っ赤に燃える太陽と雲一つない青空を混ぜたのではないかってとある冒険者がいったことからついた花言葉だよ」
「その冒険者は詩人みたいなことを言うんだな」
なんか難しいことを言ってる。太陽の赤と空の青……なるほど、赤と青を混ぜたから紫ってことか。こういうのってわかった時の達成感がいいよね。
「何ニヤニヤしてんだよリゲロン、気色悪いな」
「あ!誰が気色悪いだって!?」
どうやら嬉しかったのが顔に出てたみたい。でも流石に気色悪いは言い過ぎだよ。
「これから冒険者になる人のいいスタートを祝うという意味があって、だから冒険者試験で採取させるんだ」
なんかストラセスの説明する時のカルホットは楽しそうに見えた。それにしても何でこんな花に詳しいんだろ。
「何でカルホットはそんなストラセスのことを知ってるの?」
僕がそう質問した時、カルホットは悲しそうな顔をしていた。
「生前親父が好きな花だったんだ、いっつも帰ってくる時は家族分のストラセスを摘んできてもう家はストラセスだらけだったよ」
「生前ってことは……」
「リゲロン」
スミトは僕の顔を見て顔を横に振った、多分これ以上質問するなと言いたいのかな。それは深堀りしちゃいけないことだって。
あれから1時間くらい歩いた。
「ここが試験場所のラカの森だよ」
「はぁ疲れたー」
「どっちかって言うと今から疲れるんだけどな」
ここまで長かった、やっと冒険者試験が始まるんだ。
「確認するけど……各受験者はアンジャル5体を倒すこと、ストラセスを1本採取することで合格になる。注意事項は互いに攻撃しない、むやみに森を破壊しないとかそれくらいだ」
「よし頑張るぞぉ!」
そんな感じで僕らの冒険者試験が始まった。
「……この森の植物はやけに育ってるな」
ラカの森は思ったより緑で満ちていた。整備されている道の上しか日の光が見えない。俺の疑問にカルホットが答える。
「ラカの森は魔力植物が多く成長が早い。本来ラカの森の中心にあるマルクール村の人が定期的に整備をするはずなんだけど……」
「本来なら?」
リゲロンが反応した。
「ラカの森の村人は狩猟を中心とした生活をしている、魔物狩りをする時は今後の狩猟のためにも森の成長し過ぎた植物を切って整備するんだよ」
なるほど。カルホットの言いたいことがわかった。
「マルクール村だったか、その村に何かが起こっているとカルホットは言いたいのか?」
カルホットがコクリと頷いた。ドンピシャだな。
「冒険者試験の試験場所はこのラカの森だけじゃない、他に3ヶ所の試験場所もある。試験を開始する前に最寄りの村へ連絡することになっているんだけど、今回マルクール村からの返事がなかったんだ」
リゲロンが心配そうにこういう。
「それって村の人たちは大丈夫なの?」
「……その確認のためにも俺はマルクール村の調査という任務を任されている。だけどさっきも言ったけどマルクール村は狩猟ばかりしている人たちだ、危険な魔物の対処だってわかっているだろうしそんなに心配はしてないんだけどね」
そうやって話してる最中、突然リゲロンが叫んだ。
「あ!あの花って!」
カルホットがリゲロンの指差す方向を見た。
「あれこそストラセスだ」
そこには綺麗な紫の花が3輪咲いていた。
「わーい!」
リゲロンがストラセスへ全力疾走していく。
「ほらスミト見て見て!これでストラセス採取はクリアだ!」
俺もストラセスが見つかってホッとした。ここまで草と木しかなかったために見つからないのかと思い始めていた時だったからだ。
「よーし、早めに帰れる確率が上がったぞー」
カルホットは本当にめんどくさがりのようだ、まるで現代じ……ゲフンゲフン。
「花が3本あるから……最後の1本はカルホットにあげる
よ」
俺の分とリゲロンの分は確保したから、後の1本が余ってしまう。さっきのカルホットの話のこともある、これはリゲロンなりの思いやりだ。
「ありがとう、あんな話をよく覚えて……」
「あ!あれは!」
その人の話を遮ったりするのがなければよかったのにな。カルホットの話を遮ってリゲロンが叫んだ。カルホットも呆然している。
「あの豚っぽいのって!」
カルホットは顔をブンブンと振り、気を取り直してこう叫ぶ。
「あれこそアンジャルだ!」
しかしアンジャルはこちらに気づいたのかダッシュで逃げてしまう。
「追えぇぇぇ!」
思わず俺も叫んでしまった。だがしょうがないだろう、あの魔物を合計10体倒してしまえば冒険者になる事ができるのだから。
今回はあまり話が進みませんでしたごめんなさい。意外にスミトはお茶目なんですリゲロンよりもおっちょこちょいです。それを隠そうと頑張って真面目を装ってる姿はかわいいですね。冒険者試験の話が終われば各キャラの説明を載せますが、今の本編だけじゃあまりキャラをイメージできないですよね。ということで一言キャラ説明〜。
本作の主人公元気いっぱいアホっ子ショタ(17歳)のリゲロン君
トラウマ持ち豆腐メンタル真面目ガネのスミト君
貧乏舌苦労人糸目系お兄さんのパティモースさん
今にも眠りそう系親父大好き男子のカルホット君
武器屋にいた気さくなおじさん(後に名前も判明)
今の本編で出てきた特徴で説明しました。あ、リゲロンとスミトとカルホットは全員同年代です。ただ特段リゲロンの背が低いのでショタと書きました。よく見たら男ばっかだな……まぁヒロインも出てくるのでそれはご了承ください。あとあの武器屋のおじさんは後に物語に絡んでくれます。あと老けているように見えてあのおじさんは35歳です。本当はもっと説明したいところがあるんですがまぁ今はまだ本編で描写してないので伏せておきますね。では次回、アンジャルの大群を見つけたリゲロン達の戦闘が始まる。スミトの始めての魔法は成功するのか、合計10体のアンジャルを倒せるのか。お楽しみに!