メモリー6 第一印象と信用は比例する
パティモースのオススメの料理『青いサイコロステーキ』を食べる二人だったが、想像以上の不味い料理だったためにスミトはトイレへ駆け込んだ。
飲み込めば命に関わると思った俺はトイレでリバースした。俺はあんな物を料理とは認めないぞ。もしかしてパティモースさん嫌がらせで俺たちに食わせたのか?……問いただすか。
「ア……アア……」
「こんな美味しいのに何でみんな食べないんだろなぁ」
俺が戻るととんでもない光景が広がっていた。リゲロンは白目のまま泡を吹いていた、まぁ原因は言うまでもなく先程の料理もどきだ。正直こうなるだろうとは思ってたので驚かなかった。だが次は信じられず目を何回も擦った。なんとパティモースさんはあのサイコロステーキをバクバクと美味しいそうに食べていた。
「昼から仕事尽くしで夜飯も食べれないから今食べておかないとね〜」
こんなの見せられたらパティモースさんが人外か何かだと疑ってしまう。
「あ……あの……」
リゲロンのところにあった皿をパティモースさんが食べている……ということはリゲロンがギブアップしたということ。ならその雰囲気に乗って俺の分もパティモースさんに食べてもらおうと思いお願いすることにした。
「どうだ?この料理美味しいでしょ?」
なわけあるか。あの味を思い出しただけで胃の中身全て出しそうになる。でもこの人こんな目をキラキラさせてるから食べれないって言い出しにくいな。
「俺も……この料理少し苦手で……」
「もしかしてスミ坊もベジタリアンだったか」
ベジタリアンは肉食っても悶絶しないだろ。
「なんかリゲ坊も苦手らしくてさ」
あの絶望してる顔見たら苦手どころじゃないってわかる気がするが……。
「スミ坊のやつも俺が食べていいかな?」
どうぞどうぞ、というかむしろもらってください。うわぁむしゃむしゃと凄い速さでパティモースさんが平らげていく。あれは痩せ我慢なんかじゃない、本当に美味しいと思っている顔だ。なるほど、今回の事件で一つわかったことがある。それはパティモースという男はバカ舌だということだ。
「『雫の杖』か、置換するタイプの杖じゃ魔術式を覚えなくちゃいけないけどこれならスミ坊でも扱えるね」
「そうですね」
なんかぶつぶつ聞こえる。雫の杖?アイテムショップの会計で確か聞いたぞ。あれ、というか何で僕は寝てるんだろ?確かあの料理を食べてから…………。
「もうそろそろ1時間経つんじゃないかな?少し行ってみよう」
「おーいリゲロン生きてるかー」
この声はスミトだ、なんか揺さぶられてる。まぁでももう少し寝ていたいから寝ようかな。
「なかなか起きないな……そうだ、起きないとあのサイコロステーキ食わすぞ」
「起きる!起きるから!」
ひぃぃそれだけは勘弁してよ!
「リゲ坊も起きたみたいだね。よし、受付に行くよ」
あ、もう1時間ぐらい経ったのかな。僕らは受付に向かった。
「皆様!手続きが終わりました!」
受付のお姉ちゃんが大声で声を掛けてきた。
「スミト、どんな人なんだろうね?」
「気になるな」
スミトも気になるよね、Cランク冒険者が僕らの試験を監督するって感じらしいから優しい人だといいな。
「ということで今回同行していただく冒険者の方をご説明します。カルホットさん出てきてください!」
「カル坊?」
パティモースさんがその名前を聞いて驚いている。もしかして変な人なのかな?奥から人影が出てきた。
「どーも皆さんこんにちわ、カルホットです」
なんか凄いだるそうな顔してるー!挨拶棒読みじゃん!
「カル坊が試験の監督役になるなんてなぁ」
パティモースさんが感慨に浸ってる。よく知ってる人みたいだ。
「パティモースさんもおひさしぶり、遠征はどうだった?」
「遠征中ずっと報告書は何かこうか考えてたよ」
別の事考えれるぐらい余裕だったんだ、パティモースさんって騎士団長っていうぐらいだから強いのかな。
「あ、報告書……すっかり忘れてた!えーと、とりあえず冒険者試験の手続きが済んだみたいだしこれで職を見つけるっていう約束は果たせたね?」
なんだかパティモースさん凄く焦ってる。
「はい、ここまで丁寧に紹介してくださりありがとうございました。ステーキも…………奢ってくださりありがとうございました。」
結局パティモースさんが全部食べたけどね。
「じゃあ俺用事あるからーー!」
「うわぁ!」
一瞬でパティモースさんが風圧になった。建物の外をみても姿はない。
「はっやー」
早すぎて見えなかったんだ、あれじゃ馬車の全力疾走より早いんじゃないかな。
「んわあぁー、えーと名前がリゲロンさんとスミトさんで合ってるね、あと同年代だからタメ口でもオッケーだよ」
パティモースさんと入れ替わりの形でカルホットがついてきてくれることになった。まぁその本人は凄いあくびをかいてるけど。
「この人大丈夫かな」
「まぁなんとかなるだろ」
スミトはそこまで心配に思ってなさそう。まぁ試験は簡単らしいから大丈夫だと信じよう。
「頑張ってきてくださいー!」
「はーい!」
受付のお姉ちゃんに見送られながら僕とスミトとカルホットは試験場所に向かうことにした。
「冒険者試験がスタート!合格目指してれっつらごー!」
僕はそうやって大声で叫んだ。きっと楽しい生活が始まる、そう思ってた。でも考えが甘かった。それは悲しいことも辛いことも付き纏うんだって。ただもう一度選択できたとしても僕は冒険者になることを選んでいたと思う。これが始まりだったから。
ステーキで苦しむ二人が書けて楽しかったです、それとやっとでてきましたねCランク冒険者のカルホット。作中内で戦闘も書くので後でわかりますがカルホットは赤蒼の槍を使う槍使いです。ついでにCランク冒険者がどのくらいに位置するかというとちょうど真ん中ぐらいです(ABCDEで分けられている)これからリゲロン達の冒険者試験が始まりますね、やっと物語が進みました。自分でも思いましたがここまでギャグパートばっかだったのでいい加減戦闘させてあげたいと思っていましたよ。では次回はアンジャル(豚に似た魔物)退治とストラセス回収をするお話です。順調に進んでいた試験中、不穏な影が暗闇から三人を捉えた。さぁ三人はどうなってしまうのでしょうか!?