メモリー4 過去を見る
冒険者の登録に必要な冒険者試験を始めるには、1時間待つ必要があった。パティモースは食事を頼みに、リゲロンとスミトは武器を買いに行く。しかしスミトの過去が思わない形で現れることに。
僕たちはあの受付のお姉さんに1時間持つように言われたからこのヘッドパレスの中で暇を潰すことにした。
「そういえばリゲ坊とスミ坊はお腹空いてたりしない?」
「スミ坊……?」
スミトが困った顔でパティモースさんを見ていた。あの〇〇坊って言うのはパティモースさん独特の呼び方みたい。
「あ!僕凄い空腹!」
「だよねだよね、よし!俺のオススメのメニューをみんなに食べてほしくて、今から注文してくるよ!」
「やったぁ!」
朝もそんなに食べてないからお腹鳴りっぱなしだったんだよ。この建物は色々綺麗だしきっとご飯も美味しいんだろうなぁ。
「あ、パティモースさん……聞きたいことが」
スミトが心配そうにパティモースさんに話しかける。
「あぁあのことか!忘れてたよ……武器は自分で調達するしかないから今すぐ買いに行かないと。えぇと……はいこれ」
武器は自前だから購入しなきゃいけないらしい。パティモースさんはまたドシャリと音の鳴る銭袋をスミトに渡した。そして指を差してこういう。
「あのアイテムショップに行ってごらん、あそこは比較的安いし武器の種類も豊富だから………じゃあ俺は注文してくるからね」
「そうじゃなくてこれを……」
スミトがパティモースさんの目の前に出したのはもう一つの銭袋。そういえば朝のあのおばあちゃん結局お金受け取らなかったんだね。
「わかった、あの婆さんか」
そのおばあちゃんのことをパティモースさんは知っているみたい。
「まだそんなことやっているのか……まぁこの金も使っていいからうんといいの買ってきなよ!じゃあ」
何かパティモースさんは忙しそうだ。小走りでどこかに行ってしまった。
ということで僕とスミトは席を離れてアイテムショップに来た。
「うわぁトキントキンだー」
「勝手に店のもの触って傷つけたりするなよ」
何か武器がたくさんある!剣、弓、槍、ほかの武器は名前わかんないけど強そうなのがたくさんあった。それに縄や包帯とか武器だけじゃなく冒険に必要なアイテムまで揃っていた。
「うおーなんだこれ針が勝手に動くー!」
「コンパスも知らないのか」
そうやって色々なものを見て楽しんでいると、一人の男が声をかけてくる。
「よう兄ちゃんら、ここは始めてか?」
「おじさん誰?」
それはヒゲが生えてるニコニコした知らないおじさんだった。
「今日来たばかりで……俺達はこれから冒険者試験を受けるのでそのために武器を……」
スミトが話してる最中におじさんが食い気味でこういった。
「その感じは武器わかんねぇって感じだろ!?なら兄ちゃん達と相性の良さそうな武器を持ってきてやるぜ」
そう言っておじさんはどっかに言ってしまった。
「どっか行っちゃったね」
「まぁ悪い人ではなさそうだし、教えてくれるなら店員に聞く手間も省けたな」
確かに冒険者になるってなった時は期待で胸がいっぱいだった。でもこのアイテムショップに来てから俺は気分が優れなかった。その理由は自分でもわかっていた、だがそれは思い出すだけで吐き気がする。おかしな話だ、昔の俺なら何とも思わなかった事が今ではしっかり恐怖として認識してしまう。
「いやぁすまん、待たせたな!」
先程の男性が帰ってきた、それも大量の武器を抱えている。
「おじさんが兄ちゃん達に合いそうなもん見繕ってきたぞ」
弓、槍、盾、杖、ハンマー……剣。その武器の多さにはいかにこの店が多種多様な物を扱っているかがわかる。
「よし、そこのちっちゃい兄ちゃんは前衛!」
「あーちっちゃいって言ったー!」
「そっちの眼鏡の兄ちゃんは……後衛だ!」
後衛という言葉を聞いて心が落ち着いた。あれを見なくてもいいと思うと気分が良くなる。
「え、でも何で僕が前衛でスミトが後衛なの?」
「理由は単純、こっちの兄ちゃんは活発そうでそっちの兄ちゃんは冷静そうだからだ」
リゲロンが首を傾げる。俺も何故その理由なのかは分からないがきっとしっかりとした理由があるのだろう。
「前衛は基本剣士、盾使い、槍使い、鈍器使いが担う役割だ。どんな敵の攻撃もいなしてかわして怯ませるという仕事は図太い奴か暴れん坊な奴にしかできない。だからこっちの兄ちゃんは前衛が向いてる」
「僕は図太くも暴れん坊でもない!」
「暴れん坊ではあるだろ……」
確かにリゲロンは前衛が向いてると思う。あの魔族と相対した時もリゲロンは……。
「後衛は弓使いと魔術師の二つだな。細かく分けたら色々あるが……まぁこの二つがオーソドックスな後衛武器だ。前衛が作った隙に一発でかいのをぶち込む、これも後衛の大事な仕事の一つ。だが戦闘において例外は必然、前衛の隙間を通り抜けて魔物が攻めてくるかもしれねぇし前衛が魔物に押し負けることもある」
「もしそうなったら前衛はどうなるの?」
リゲロンが心配そうにその男性に問いかける。それも当然、今からその前衛にリゲロンはなる予定なのだから。
「心配か兄ちゃん!そんときこそ真の後衛の仕事だ、状況を冷静に分析して退路を作るか、それとも次の攻撃に繋がるように相手の注目を寄せるか。そういう意味ではそっちの兄ちゃんのほうが適任だと思うぜ」
あって数分、ろくに会話もしてないはずなのにこの男性は俺とリゲロンの性質を理解している。異常な観察力を持っていると俺は感じた。きっと只者じゃない。
「俺も戦術を熟知してるわけじゃねぇが基本的に前衛と後衛のバランスは整えてたほうがいい」
でも説明してる最中ずっとドヤ顔だから少し腹立つな。
「んーわかったから早く武器教えてよ!」
リゲロンは早く武器を使いたいみたいだ。
「わかったわかった、まぁ始めての前衛をする奴の装備はだいたい決まってるけどな」
男性は盾と剣を俺たちに見せつけるように持った。
「シンプルに剣と盾の二つ持ちだ、盾はしっかり構えてろよ。始めての戦闘なら被弾は当たり前と思っていい」
「ちょっと僕にも触らせて!」
「あいよー」
男性はリゲロンに盾と剣を渡す。リゲロンは楽しそうに振り回している。
「あれ、おじさんこの革取っていい?」
「鞘のことか?取ってもいいが買うまではまだ店のもんだ、傷つけたりするなよ」
男性は武器を床に散りばめて、武器を持っては置いて持っては置いてを繰り返している。それに集中してこちらを見ていない。
「中々これ取れないな……スミトこれ取ってよ」
「俺が?」
「おじさんは忙しそうだし……」
「…………わかった」
リゲロンに鞘が取れないから取れと剣を渡された。正直断りたかったが……あの時に守ると決めた誓いのこともあってか結局引き受けてしまった。
「…………」
俺は鞘を握ったまま固まっている。その横には目をキラキラとさせたリゲロンが待っている。そうだ、リゲロンが待っているんだ。ただ鞘を抜くだけ……ただ鞘を抜くだけなんだ、怖がることじゃない。
「うあぁぁぁぁ!!」
カタン……
「スミト……?」
鞘を抜き始めた時、隙間から見える刃が俺の苦い記憶を思い出させた。血に塗れたあの刃を、俺の不幸を最も象徴するあの鋭い光を。
まだ謎に包まれているスミトの過去、一体何があるのでしょうか。リゲロンの思わない行動がスミトのトラウマを抉るとは、まさにハプニングですね。次回のお話はとうとう冒険者試験のため、ヘッドパレスを離れることに……一体同行するCランク冒険者とはどんな人物なのか。お楽しみに〜。(ごめんなさい2話先の次回予告でした)
追記 : タイトル変えました、タイトルの意味は後ほどわかると思います。