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ベフォレガイン  作者: ユービィ
サーガラド王国編 1章 マルクール村襲撃事件
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メモリー2 遅刻確定レース

リゲロンが寝坊したことで遅刻確定となってしまったリゲロンとスミト。店主の優しさでホカホカになった心も鬼して体を動かせ。

集合場所へ急げ二人共!


《???視点》


近くの主婦達がコソコソと何か話している。


「あれって騎士団長様よね?」


「昨日遠征から帰ってきたばかりで騎士団は皆忙しいって聞きましたよ」


「そういえば主人も今日から忙しくなるって言ってたわ」


「なのに騎士団長様はあんなところで何してるんですかねぇ」


「騎士団長様は暇なのかもしれないわ」


「位が高いって羨ましいわぁ」


(全部聞こえてるよ、俺……暇じゃないのに)


俺の名前はパティモース。

一応サーガラド騎士団の団長をやっている。

あのママさん達が言うようにこの間まで俺含め一部の騎士は遠征に行っていた。そして昨日サーガラド王国へ帰り、今日はやりたくない遠征に関する報告書やたまりに溜まった書類の消化をすることになっている。


じゃあ何でそんな忙しい人がこんな広場の中央にある木の下で座っているかって?


「お母さん、あの騎士さんあそこで何やってるの?」


「こらっ!失礼なこと言っちゃいけません!」


「だってさっきからずっと剣をゴシゴシしてるだけじゃん。暇なのかな?」


「シーーッ!」


(がっつり聞こえたよ!暇だから剣磨いてるの!あ、いや暇ってわけじゃないけど……あー!剣磨き辞めよ)


周りの目が気になるから剣を磨いていたが、かえって暇人に見えてしまうらしい。俺は剣を鞘にしまった。


話を戻すけど、俺がここで座っているのは暇だからじゃない。とある少年達とここで会う約束をしたからだ。



これは三日前のことだ。目的の調査を終わらした俺達遠征チームは、食糧の補給がてらとある森に寄っていた。


「あれ、騎士団長どうしました?そんなところで立ち止まって……」


「あぁミゼル坊、見てよあれ」


「あれは……子供?」


こんな深い森の中に二人の子供がいたのだ。


「はーよかった、俺の目がおかしくなったかと思ったよ」


「ははっおかしくなくて良かったですね……って何呑気なこと言ってる場合ですか!?早く保護しに行きますよ!」


その森の名前はスッモンの森。魔力量が多い故に危険な魔物が出現しやすく、子供達だけで出歩くような場所ではない。


「君たち何でこんなところにいるんだい?」


俺がそう子供達に聞いてみる。


「俺達、実は迷子で……」


すると二人の内、一人のしっかりしてそうな少年がこう言った。


「家への帰り方が分からなくて……」


何かを隠しているかのような顔だった。


「んー、どの村に住んでたかわかる?あとお父さんお母さんの名前も教えてくれるかい?」


俺がそう質問しても首を横に振られてしまう。


「困ったなぁ、家も村もわからないんじゃどうしようもないね」


「騎士団長……!」


部下のミゼルが俺の耳元でコソコソとこう言う。


「こんなところに子供達だけがいるなんて変じゃないですか!しかも親の名前もわからないだなんてどう考えてもおかしいですよ!魔族の罠かもしれません」


この森はサーガラド大結界の外だ。魔族による攻撃があっても全く不思議ではない。


「でも子供をそんな理由で見捨てることはできないよ」


「危険ですって騎士団長……」


ミゼルの言う事を押しのけて俺は子供達にこう言った。


「君たち……名前は?」


しっかりしてる方の子が名乗ろうとした時だ。


「俺はスミ……」


「僕の名前はリゲロン!」


もう一人の子がその子の自己紹介に割り込んだ。


「あぁ他人の自己紹介に割り込むな!」


「自己紹介が遅いスミトが悪い!」


(仲良いな)


喧嘩している二人には申し訳ないが、話を続ける。


「そうかそうか、スミ坊とリゲ坊だね」


「え……」


「リゲ坊?」


「家がわからないならサーガラド王国に来ないかい?仕事なら俺が一緒に探すよ」


そう提案した。すると二人は口を揃えてこう言った。


「うん(はい)!行きたい(です)!」



という出来事が三日前にあった。そして今日はその仕事を紹介するために俺は今ここで待っているということだ。


「あれってパティモースさんじゃん!座り込んで何してんだろ、お話しに行こうよツガーナ」


「ほっとけ、あの人また例のメニューでも食べてお腹壊してんだろ」


(…………)


若い冒険者二人が変なものを見るように俺を見た。そして棘のある言葉も聞こえてきて、俺は少し悲しくなった。


(俺何か悪いことしたかな……)


昼間っから座ってるってそんなに悪いことなのだろうか。そう落ち込んでいた時だ。


「あーやっと見つけました団長!」


若い女性の声が聞こえた。この声は秘書のヘガクラだ。


「げっヘガクラちゃん……」


(このタイミングで一番会いたくない子に会っちゃったよ……)


「何も言わずに事務室から抜け出して何してるのかと思えば!」


「ごめんごめんごめんっ」


俺は言い訳を全く考えておらず焦りに焦った。とりあえずの謝罪、でも彼女には届かない。


「あなたがいないせいで報告書のサイン待ちが渋滞してますよ。ほら早く帰りますよ!」


そうヘガクラが言うと俺の甲冑の首辺りを掴んで引っ張り始めた。力のままにグイグイと引きずられる。


「痛い痛い首!首ぃ!」


こういうのを首根っこを掴むと言うんだろうが。首元が押さえつけられてとても苦しい。


「ちょ!ちょっとまって一回引っ張るのを止めて!」


そういうとヘガクラはすぐに手を止めた。


「はぁ……はぁ……」


呼吸を整えて俺はこうヘガクラにお願いした。


「あと1時間……いや1時間半だけ待ってくれない?」


ヘガクラは不満そうにこちらを睨む。


「……1時に事務室に来てください。もし遅れたら」


一瞬悪魔なのではないかと思うほどヘガクラの顔が怖くなった。


「分・か・り・ま・す・よ・ね?」


ゴクリッ。思わず息を飲んでしまう。


「返事は?」


「は、はい……」


「ではまた後ほど」


それだけ言い残しヘガクラという悪魔は去っていった。


(はぁぁ)


心の中で大きく溜息をついた。話は戻るが、その子度達と会う予定は11時だ。


「もう11時半になるよ、あの子達まだかな……」


なのに彼らはまだ来ない。もしかして忘れていたりしていないだろうか。


(はぁぁ)


俺は再び大きく溜息をついた。




《リゲロン視点》


「はぁはぁ……これいつ着くの?かれこれ20分くらい走ってるよ!」


「それはリゲロンが何も考えず走って道に迷ったからだろ!」


僕たちは今爆走している。何故なら遅刻をしているからだ。


(うぅ、お腹痛い……)


食べた直後に激しい運動をしているから腹痛を起こした。でも今止まったら多分スミトに怒られるだろう。止まるわけにはいかない。


「あ!」


急にスミトが声を上げる。


「あそこだリゲロン!集合場所だ!」


スミトの指の先を見ると、そこは大きな広場があった。中央には大きな木が生えていて、目を凝らすとその木の下に鎧を来た人間がいる。そして見覚えのある優しそうな顔。


(パティモースさんだ……あれ?何かやつれてる?)


気のせいだろうか?少し表情が暗く感じる。


彼の名前はパティモースさん。優しい人で僕たちをこの国まで連れてきてくれたのもこの人だ。


「急ぐぞ!」


スミトが急に速度を上げた。


(あ!もしかして競争のつもり!?)


僕はこのスミトの行動を宣戦布告だと受け取った。多分本人はそんな考えじゃないと思うけど。


「うおおお!」


スミトと離れていたはずの距離がどんどんと短くなっていく。そしてスミトを抜かし前へ出た。


「なっ寝坊野郎に抜かされた!?ぐぅぅ負けるかぁ!」


抜かしたことでスミトの闘争心に火がついたみたいだ。スミトもギアを上げる。


「うおおお!」


「ぐううう!」


僕かスミト。勝利を手にしたのはー!


「ゴォール!僕の勝ちだ!」


先にパティモースさんの元へ辿り着いたのは僕だった。


「はぁ……はぁ……負けた……」


後からスミトも追いつく。だが僕たちは全力で走ってたから息を切らしていた。


「…………」


息を整え頭を上げる。すると無言でパティモースさんが僕たちを見ていた。ニコニコしながら。


「はっ」


それを見たスミトは我に返ったかのような反応をした。


「あ……パティモースさん!遅れてすみません!こらリゲロンも!」


「あぐふ!」


スミトは僕の頭を無理矢理下げさせながら謝った。


「あ、うん。いいよ、俺気にしてないから……」


パティモースさんが棒読みでこう言う。


「実はリゲロンが寝坊してしまって……」


スミトが言い訳を始めた。


「えぇでもスミトがもっと早く起こせば良かったんじゃ……」


僕もそれに反論する。


「いい年してんだから自分で起きろぉ!小学生かお前はぁぁ!」


スミトが怒声を上げながら僕の首に腕を巻きつけて締めた。


「いてててて!痛い!痛いから!ストップストップー!」


そんなふうにいつもの喧嘩をしていると。


「まぁまぁ過ぎたことはしょうがないしさ……はは」


パティモースさんがそう言って僕らを止めた。


(やっぱりパティモースさんから生気が抜けてる感じがする。誰かに怒られたみたいな感じで……)


僕は彼を見て少し心配してしまう。


「とりあえず二人、行こうか」


僕らは彼の後ろを歩いていく。


「そういえばスミト、パティモースさんは僕らに何の仕事を紹介してくれるんだっけ?」


ふと思ったことをスミトに質問してみる。するとスミトは深く溜息をついた。


「はぁ、お前は忘れん坊だな。サーガラド王国へ行く途中の馬車の会話思い出してみろ」


(どんな会話してたっけ?)


少し頭にある記憶を蘇らせてみる。



あれは二日前の馬車の中だった。


「パティモースさん、注文が多いかもしれないですけどいいですか?」


スミトはパティモースさんへどんな仕事をしたいかを言っていた気がする。


「えーと、俺らみたいな子供でもできて、生活できるくらいの金も稼げて、サーガラド王国の外にも頻繁に行けて……あとブラックじゃない職場がいいです」


それを聞いたパティモースさんはきょとんとした顔をしていた。


「ブラックじゃない環境?聞いたことのない言葉だね」


でもこれを言う時は口角が上がっていた気がする。


「でもいい仕事を知っている。かなり危険の伴う仕事だけど、強くなれるし、稼げるし、子供でもできるし、何より楽しい仕事がね」



話は今に戻る。


「二人共、見えてきたよ」


「大きいな、リゲロン」


「立派な建物だね〜」


僕の目に映ったのは大きな建物だ。サイズも雰囲気もこの国で見た建物とは違った。近くにムキムキで強そうな人達もいる。驚いている僕らにパティモースが口火を切った。


「この建物はヘッドパレス。今ではサーガラド王国を支える3大組織の一つ。そして君たちが出入りすることになる施設でもある」


パティモースさんが僕らのほうを見てこう言った。


「魔物退治から素材回収に環境調査、腕っぷしも知識も仲間との連携も何もかもが要求される、しかしいつも国を守るために最前線を張って、未知を冒険する。

そんなツワモノ達の仕事……それが今日からの君たちの日常にもなる。その仕事の名を……」


スミトが被せるようにこう言った。


「「冒険者という」」


僕とスミトは今日から冒険者になるのだ。この選択をして良かったと僕は本当に思う。

2024年12/26にこの話を改造しました。

セリフが軸になって長文が減りました。あと後の話を理解しやすいように回想も付け加えました。パティモースの可哀想な感じが伝わってくれたら嬉しいです。

次はメモリー3を改造する予定です。良ければまた読みに来てくださいね。では〜。

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