メモリー1 朝からバタバタ
リゲロンとスミトが森で彷徨っていたところをサーガラド騎士団団長のパティモースが拾った。パティモースは遠征帰りでサーガラド王国に戻る最中だったため、リゲロンとスミトもサーガラド王国へ連れて行ってもらえる事になる。そして到着したリゲロンとスミトは宿屋に泊まり、サーガラド王国での初めての朝を迎えた。
リゲロン、スミトのサーガラドでの生活が今、始まったのだった。
《リゲロン視点》
その日はまたあの夢を見た。
「だ……も……く……し……し……さ……て……い……と……こ」
永遠とこの声が繰り返される。誰の声なのか、どういう意味なのか、いつ聞いたのか、何もわからない。でもこの言葉を聞いた時、胸の奥が温かくなるのを感じた。
カーンッ!
けたたましいと思えるような大きなベルの音が聞こえる。
(このベルはぁ……確か9時の合図だったかな。じゃあ約束の時間までまだ2時間もある……せっかくこんなふかふかのベットにありつけたんだ。もう少しだけ……)
そう二度寝しようとした時だった。
トンッ!
「んー」
トントントントンッ!
「さっきからなんだよ……?」
誰かがドアを叩く。その音で僕は起こされてしまった。
(誰だ?僕の快眠を邪魔しようとする奴は?)
「おーいっ!もう起きろ!」
部屋の外からだ。部屋越しでも聞こえるような大きな声が聞こえる。
「リゲロンッ!早く出てこい!じゃないと約束の時間に間に合わなくなるっ!」
どうやら僕の名前を呼んでいるようだ。しかもその声に怒りが混ざっている気がする。
(これはスミトの声!しかも何でこんな怒っているの?約束の時間?さっき9時のベルが鳴ったばかりじゃん!)
約束の時間は11時、なのに声の主は約束時間に遅れると脅してくる。まだ9時なのに。
(嫌だなぁ出たくない、少し怒りが収まるまで部屋のドア開けないでおこうっと)
そんな作戦を考えていた僕に不測の事態が降りかかる。
(あ、トイレ行きたい)
なんと便意を催してしまったのだ。寝起きの人間がトイレに行きたくなるのは当然だろう。
トントンッ!
「いい加減起きろー!」
トイレに行くためにはあの扉を開けないといけない。しかし扉を開けた先にはあの真面目鬼がいる。
(……どうしよ……)
そう絶体絶命に陥っていた時だった。
「この寝坊助!食いしん坊!怠け者!このチビィッ!」
スミトの暴言が僕の逆鱗に触れたのだった。
(あー、ムカついた!)
タッタッタ!
僕はベッドから飛び上がりドアへ突っ走っていく。そして思いっきりドアを開けたのだった。ドアの先には予想通りスミトが腕を組み怖い顔をして立っていた。
「僕はチビじゃなっ」
そう訂正するために怒鳴ろうとしたが。
「遅ぉぉいっ!」
あっさりと気迫負けしてしまった。あまりのうるささに思わず耳を塞いでしまう。
この眼鏡を掛けた背の高い少年の名前はスミト。
1週間前、僕が森で彷徨っていた時に助けてくれた恩人だ。どうやらスミトも記憶を失ってしまったらしく森で彷徨っていたらしい。目的は同じだったから、今日という日まで同行してくれた。馬が合うわけじゃないけど真面目でいい奴だ。
「こんな朝から叫んで何があったの!そのせいでせっかくの快眠が台無しだよ!」
そうだ。まだ朝の9時、こんな大声で叫んでいたら宿を利用してる他の客にも迷惑だ。
「寝ぼけているのかリゲロン、もう一度時計を見てみろ」
「だってさっき9時のベルが鳴ったばかりだよ?そんなの9時に決まっている……あれ?」
その時、背筋が凍っていくのを感じた。なんと短針が綺麗に11の中心をを指していたからだ。
「え?何で、だってさっき9時のベルがカーンってなったはずじゃ……」
「それは11時のベルだ」
「あ……」
サーガラド王国は奇数の時間になったら街の大きなベルが鳴って教えてくれる。僕は11時のベルを9時のベルと勘違いしていたのだった。
「で、パティモースさんとの約束時間は何時だ?」
「11時です…」
「何か、言い残すことはあるか?」
「今漏れそうだからトイレ行ってもいいですか?」
その時、スミトの頭が火山みたいに噴火した。
「まずは寝坊してごめんなさいだろうがぁぁ!!」
「ひぃぃぃぃぃ!!!」
僕は逃げるようにトイレへ駆け込んだ。
《スミト視点》
「ちょっとまって……モゴモゴ……まだ食べてる……モゴモゴ……途中だって」
「もとはと言えばお前のせいで遅れたんだ。30秒も飯食う時間やっただけ感謝しろ」
俺の名前はスミト。約束に間に合わないのが確定して超焦っている普通の17歳だ。どれもこれも爆睡してたこのリゲロンのせいだ。
「ゴクンっあんまりお腹膨れないや」
「お前本当に反省してるのか……?」
こんな無礼モンスターがもうすぐ働くと思うととても不安になる。
「一階に降りるぞ」
とりあえず宿に泊まったからには宿泊代を払わなくてはいけない。だから俺達は今、宿屋の受付に向かっている。
「あ、受付の奥におばちゃん発見!」
あの受付の奥でくつろいでいるのがこの宿屋の経営者だ。この宿屋はあの老婆一人で経営しているらしく、チェックアウトをする時はあの老婆に声を掛けなくてはいけない。
「あのー、すみません」
俺は老婆に声を掛けた。しかし老婆は新聞とのにらめっこに夢中で気付いてくれない。俺は大声で声を掛けることにした。
「あのー!チェックアウトしたいんですけど!」
「ほえ?」
やっと老婆の耳に届いたらしい。これで約束の場所へ向かうことが。
「チェックメイト?あんた何チェスやっとるんだい」
……会話のキャッチボールが失敗したようだ。
「チェックアウトです。宿泊代を払いに……」
「わしにチェックメイトなんて100年早いわぁ!わしは昔国内最強の棋士だったのさ、若造め!」
「え!おばちゃん最強の騎士だったの?ヨボヨボで弱そうに見えるのに!?」
(ヨボヨボで弱そうだなんて年上に言うなよ。というかこいつ騎士と棋士を勘違いしてるんじゃないよな、あーリゲロンのせいで話がごっちゃごちゃになる。早く口を封じてば)
「リゲロンは静かにしてろ!これ以上ややこしくするな!」
外に出る前から体力を使わさないでほしい、頼むから。
(これ以上こんな茶番をしているわけにはいかない……)
ジャラジャラッ
そう思った俺は昨日の夜、パティモースさんから貰った宿泊代が入っている袋を老婆の目の前に出した。
(この袋を強引にでも渡してすぐここを出る!)
「店主さんすみません、俺ら急いでるんで!では……」
そう老婆へ宿泊代を渡そうとした時だった。
「あぁ金は要らんよ」
老婆はその銭袋を手で押し返したのだ。
「いらないって言われても、代金を払わずに店を出るなんてこと……」
「いいのよ〜わしは要らんから。若い子にとってお金は大事じゃ、あんたらで自由に使いな」
「そんな無法なことできません!これは店が受け取るお金です!」
(無銭飲食なんて真似、俺にできるわけがない)
俺は老婆の提案を頑なに拒否する。
(今までルールや法は守ってきた。それを曲げるなんてことできない……)
「いいのかい?お友達の姿が見えなくなっちまうよ?」
「あ!あいつ、いつの間に!」
横にいたはずのリゲロンがいなくなっていた。
「あんたが宿泊代を出した時からもう店を出ていったよ」
「そんな前から!?」
俺は急にリゲロンのことが心配になる。
(あいつ集合場所の行き方知ってるのか?というかあいつ昨日サーガラド王国に入る前からずっと寝ていたから知るわけがない。断言できる、リゲロンは100パー迷子になる!こんな馬鹿広い場所で迷子になったら探すのに1日はかかるだろ!)
そう俺は確信した。
「早く行かねぇとはぐれちまうよ!金に余裕ができたら払いに来ればいいからさぁ」
老婆はリゲロンの方向を指で指す。
(どうする?)
俺が選んだ選択は。
「また今度払いに帰ってきます、絶対に」
リゲロンを追うことだった。俺も宿屋を飛び出す。振り返ると老婆は、満面の笑みで手を振り見送ってくれた。
(優しい世界だな)
俺はそう思い温かい気持ちになった。
《店主視点》
「あの子らを思い出すねぇ〜」
それはわしがよく泊めていた兄弟のことだ。
「これでもかってくらい元気で仲良しで笑顔な二人で、わしが孫のように思えるくらい可愛い子供じゃった」
その思い出を思い返すと、少し寂しくなった。
「世の中は残酷、甘えれる時に甘えたほうがいいのじゃよ」
わしはまた新聞を手に取った。
2024年12/24にこの話を改造しました。
もう少しテンポよく分かりやすくそしてコミカルな内容になるようにしました。一部展開も違うと思いますがご了承ください。
メモリー2も改造予定なのでよろしくお願いします。