メモリー21 お出かけ行くだけ
サーガラド王国へ無事生還出来たリゲロン達。しかしリゲロンは記憶を失くし、スミトとカルホットは怪我をして、マトアは意識が返ってこなくなる。そしてサーガラド王国の王も裏で何かを企てていた。
《スミト視点》
(え?どこだここ……)
目が覚めると見たことがない天井が目に映った。体を動かそうとするとあちこちが痛くなる。まぁあれだけ無理をして、こんだけの痛みで済むならむしろ感謝しなくてはいけないのかもしれない。頑張れば体を起こすことはできるが、決して楽ではないな。
(あいつは……良かった)
隣のベッドにはリゲロンがいた。大きな鼻提灯を作るくらいに爆睡しているようで、体に傷もなさそうだ。
にしてもここはどこだ?サーガラド王国なのはわかるが……多分病院だとしかわからない。くそっ頭がガンガンする……これもイザールとか言う奴のせいだ。そういえばあの後どうなったんだろうか?
リゲロンとマトアはゲンライトという魔族に追われていたし、マルクール村の村人の安否も分からないし、何よりカルホットは生きているのだろうか。気がかりでしょうがない……。まぁとりあえずリゲロンが生きている、それだけで十分だと思うしかない。
(頭痛も酷いし、また寝るか)
俺の意識はまた暗闇に溶けていった。
《リゲロン視点》
「ん〜!たくさん寝たぁ!」
昨日、パティモースさんとこの部屋で別れた後、すぐ寝てしまった。どこも痛くないけど、一応僕怪我人らしいからたくさん寝てもバチは当たらないだろう……がずっとこの寝室で1日を過ごすのも僕らしくない。ワンチャンに掛けてスミトが起きてるか確認した。
「寝て……るね」
二日前の宿屋の時はあんなに寝坊した僕に対して怒ってたのに、今じゃ逆の関係になっている。
「僕はスミトなんかより睡眠に詳しいから、寝ている人を起こそうなんて言う邪悪な事はしないもんね!」
そんな感じで勝利に浸っていた時だった。スミトの近くにあるものが置いてあった。
「眼鏡だ」
今寝ているスミトを見て僕は違和感を抱いていた。
(この違和感の正体は眼鏡を掛けていなかったからか!)
しかしこの眼鏡、バキバキにレンズが割れている。
「こんなの使い物にならないでしょー……あ!」
この時、僕にいいアイデアが浮かび上がった。
「いつもガヤガヤうるさいスミトが寝ている今こそ……このサーガラド王国を見て回るチャンスじゃない?理由ならこれ!」
僕はバキバキの眼鏡を上に掲げる。
「もし一人でどっか言ってることがバレても眼鏡を買いに言っていたからって言えばスミトも何もいえないはず!」
自分のために動いてくれた人を咎めたりするなんてこと、できるわけがない。こうして外へ出掛ける口実ができたわけだが……。
「眼鏡を買えるほどのお金……持ってないんだよね。あと自分で言うのも何だけど」
僕とて自分を知らないわけじゃない。
「絶対街中で迷うと思うし……道案内してくれる人がどっちみち必要なんだよね」
この大きな関門に頭を悩ませる。
「パティモースさんは今日忙しいって言ってたし……あ、あの子に頼めばいいんだ」
っと思った以上に僕の頭は冴えていたようだ。ということで考えたなら即行動!
「……なるほどね。スミトの眼鏡が割れたから買いに行きたいと……」
「うんうん!」
僕はカルホットに街案内を頼むことにした。カルホットはスミトより動けそうだし、説得もできそう。
「んー、そうだね。俺も怪我はだいぶ治ってきたし、実は俺もちょうど外に行かないといけない用事があるんだ。いいよ、街案内するよ」
(よぉし!)
僕は思いっきりガッツポーズした。
「ただ気になるんだけど……いい?」
「ん?どうしたの?」
カルホットには何か疑問があるらしい。
「聞いた話だとリゲロンも重傷だって聞いたんだけど、随分と治るのが早いよね。もしかして自己回復とかそういう魔術が使えるのかなって思っちゃって……」
「ジコカイフク?」
わからず聞き返す。
「あーいや、やっぱり聞かなかったことにしてくれ」
するとカルホットが質問を撤回してしまった。一体何だったんだろうか?
ということで僕たちは外に出た。
「うぐっ……」
カルホットが立ち止まってしまう。
「大丈夫!?」
カルホットは背中を抑えて苦しそうだ。もう早速お出かけ計画の崩壊の危機か!?
「まだ怪我が突っ張ってるだけだよ……あの魔族の蹴りが深く刺さったからね……」
「あんまり無理しないで」
そんなやり取りをしている時、知らない声が聞こえてきた。
「ありりっ!大スクープの予感だ!」
こっちに向かって爆走する人間がいた。
「鬼人の息子でお馴染みのカルホット君に、今絶讃時の人である少年君じゃないか!お話を聞いても?」
騒がしいお姉さんだ。でも褒められてる感じがして嬉しいかも……じゃなかった!
「また今度でいい?カルホットがまだ怪我してて……」
今はカルホットのほうが先決だ。追い払おうとした時、カルホットが話し始めた。
「鬼人の息子なんて言われたことないでしょ……」
「そう!私が今考えたのさ!」
「お馴染みって言葉知ってる?」
何やらカルホットは知り合いのようだ。
「あー、リゲロンが知らないのも無理ないか。説明するよ」
カルホットが説明を始める。
「この暑苦しい人はオフィマナ。サーガラド王国唯一の新聞記者だよ」
オフィマナもそれに便乗する。
「どもー、新聞記者やってまーす」
しかし僕は新聞記者という単語を知らなかった。
「新分岐者?何か強そうな名前だね!」
「え?強そう?」
カルホットが困惑していた。
「おぉ、新聞を知らなさそうな少年君に一枚プレゼントしちゃう!」
僕はオフィマナから紙束を渡された。
(文字が書いてある?)
どうやら渡された紙束には文字が刻まれているらしい。しかし読んでみようとすると。
「あ~」
(文字が小さい長い多いっ!)
新聞というのは僕のキャパシティを超えるもののようだ。僕はショートした。
「頭から煙が出てる!?大丈夫かリゲロン!」
「なるほど、リゲロン君はおつむが弱いと、メモメモ……」
「メモしてる場合か!」
「うは〜」
僕に新聞は早かったみたい。
「あ、私も次の場所に取材しに行かなきゃ……それじゃまた会いましょうー」
オフィマナはそう言ってまたどこかへ走っていった。
「やっぱ嵐みたいな人だね……」
「うん……あ、もう動ける?」
「あぁ全然大丈夫だよ」
さっきまであんな楽しそうに話してたし、カルホットはもう大丈夫らしい。僕達はまた歩き始める。
僕たちは先にカルホットの用事を終わらせるため、ヘッドパレスに足を運んでいた。
(いつ来てもここ大きいなぁ〜)
「俺は今から依頼を探してくるよ」
まだ怪我人のカルホットがこういう。
「え!?まだそんな怪我してるのにもう依頼を受けるの!?」
僕はそれに大きく驚く。
「冒険者って職は大変なんだよ。ちんたらしてたら依頼がなくなっちゃうから、先に予約して取られないようにしとかなきゃいけないのさ。何よりC級以上の冒険者にしかできない危険な依頼が待っているからね」
「うーん、冒険者って大変なんだねー」
僕が思うより冒険者という職はハードらしい。
「でも依頼をやれば誰かが喜ぶ……そう思ったら怪我してても頑張れるってなるんだ。だから俺は冒険者って職が好きだよ」
「そういうものなのかな?」
「そのうちわかるよ、誰かのために頑張るっていうのは気持ちいいからね」
難しい話をした僕らは一時的に別れた。カルホットが依頼を探している途中は暇だ。だから少し中を探索することにする。
「まずは……アイテムショップに行こう!」
(あのおじさんに会えるかもしれないし……)
「おじさーん?」
しかしおじさんらしき人影は見当たらない。僕の声に気付いたアイテムショップの店員が声を掛けてくる。
「あー、君は一昨日の子か。サンテュスさんは今日ここにいないよ」
どうやらあのおじさんはサンテュスという名前らしい。
「えーとサンテュスおじさん?はどこにいるの?」
僕の質問に店員は答える。
「今日は武器屋の仕事をやる日だからだよ。あの人冒険者と武器屋を兼業してるから」
「おじさん冒険者もやってたんだ……」
やっぱりあのおじさんは只者じゃなかったようだ。
「合いたいなら彼の店に行くといいよ」
「ありがとうね、店員さん!」
武器を教えてくれた恩もあるし、おじさんの店見に行ってみようかな。なんて思ってる時、とても重要なことに気付いた。
(そういえば……武器どこ行ったんだっけ?)
冒険者試験の最後の記憶は鎌の魔族との遭遇まで。それ以降の記憶を失くした僕は、買ったばかりの剣と盾の行方を知らなかった。
(どうしよう……)
もし失くしたなんておじさんに知られたら、多分おじさんは悲しむだろう。
(ま、まぁ少し経てば忘れるか……な?)
悩んでても答えは出てこない。とにかく会わない事を信じて、問題が解決するのを待つことにした。とりあえずアイテムショップにいても暇は潰せないから出ることにした。
「次はどこに行こうかな……あ!受付の人に会いに行こう!」
ということで今度は受付に来た。
(あのお姉ちゃんはいるかな?)
冒険者試験の登録をしてくれたあの女性を探した。
(そういえば僕達の冒険者試験はどうなったんだろう……)
僕の記憶がないけど、鎌の魔族と遭遇した後に何か大事件があったらしい。確か鎌の魔族と戦う前、ほぼ試験は終わらせたはず。だから冒険者試験の合否も知りたかったのだ。
「あ、いました!リゲロンさん!」
探している僕に声を掛ける女性の声が聞こえた。この声の先を見ると、僕の探していた人物トルサがいた。
「あ、受付のお姉ちゃん!」
僕は受付の女性の近くまで駆け寄る。
「心配しましたよ。あの日の夜に痛々しい姿で国に帰ったって聞いてびっくりしたんですから」
僕も起きた時、包帯まみれだった。相当の深手を負っていたらしい。
「もう怪我は平気なんですか?」
「うん、もうピンピンしてるよ!」
僕は怪我していないという事をアピールする。
「最近の医療技術は凄いですね!さっきカルホットさんも見かけましたし……あれ?そういえばスミトさんは?」
トルサにスミトの不在を問われる。
「何か大怪我しちゃったらしくてね、ほら」
僕は壊れた眼鏡をトルサの目に映る位置に置いた。
「あぁ、相当な事があったんですね……」
トルサは口に手を当てて悲しそうな顔をした。
「あ、お願いしたいことがありまして」
トルサの口調が変わった。
「もし、スミトさんも回復したらこの紙をご一緒に読んでいただけませんか?」
折られに折られまくり、握りしめれるくらいに小さくなった紙を渡された。
「何この紙?」
「何やら重要なことだと渡された時に言われました。なのでスミトと必ず読んでください」
そう言われた。次に僕は気になっていることをトルサへ質問した。
「あ、ねぇねぇ。僕達の冒険者試験ってどうなったの?」
それは冒険者試験の合否のことだ。しかし質問をしてもトルサの口は動かなかった。重たそうな顔をして、トルサは僕を睨む。
「すみません。そのことについてはお話しかねます」
そう言われ頭を下げられてしまった。追及するのも気が引けるし、僕はさよならとだけ言って反対へ振り向く。そのまま他のところに行こうとした時だった。
「あなたのことよね……パパが言ってたのって」
知らない少女がそう言って近付いてくる。身長が低く顔も若い、僕より年下だと思われる華奢な少女だった。
「君は誰?」
「あたし?何であなたに教えなきゃいけないのよ」
誰なのか分からないこの子は妙な態度を取ってくる。
「でも忠告しておいてあげる。あまり変な事をしないことよ、じゃないと……」
少女の目がより細くなる。
「パパが容赦しないわ。あたしのパパは最強なんだから!」
それだけ言ってその少女とすれ違う。
「変な女の子だね……」
言ってたことが気になる。僕はもう少し細かく聞いてみようとしていた時だった。
「あ、リゲロン!」
その時カルホットの声が聞こえる。
「待たしてごめんね。こっちのやることは終わったよ」
どうやらカルホットの用事が終わったらしい。
「ん?リゲロン、何かあった?」
カルホットがそう聞いてくる。
「……いや、何でもない。やること終わったなら眼鏡屋さんに向かおう!」
一体あの少女は何者なのだろうか。気になるが、その心はとりあえずしまっておくことにした。僕らは次のところに向かった。
忘れてるかもしれませんが、リゲロンって元気いっぱいの脳筋っ子なので普段からこんな感じです。あのゲンライトと戦ってるイキリゲロンは稀です。今回も下書きにない話で、全部ノリで書いてました。(オフィマナとか謎の少女とかは元々出す予定のキャラでしたが、出番を早めました)
後もう1話ぐらい書いて新年迎えたいですね。とりあえず今回も読んでくださりありがとうございます!