メモリー14 酷い魔族
魔族ゲンライトとの逃走中、突如現れた壁によって距離を離すことに成功したリゲロン達。一方スミトは魔族に囲まれていた。しかし驚いたことに優勢だった。リゲロン達はこの先どうなってしまうのか。
《スミト視点》
「苦しい……誰か助けっゴブッ」
「なんだよあの人族は……」
「お前ら!何をびくびくしてんだ!?ゲンライト様の命令だぞ?」
「だって、だって……」
「無理に前に出たらあいつらみたいになっちまう!」
「本当に同じ魔族か、魔族としての誇りはないのか腰抜けどもめ」
「はぁっ……はぁっ……こい、魔族……」
俺は何とか魔族達を抑え込んでいた。あの魔族から受けたダメージがかなり深刻だが、ここで踏ん張らなきゃ死ぬだけだ。息も絶え絶えだが、俺は力を限界まで酷使する。
「虫の息風情がぁッ!」
「ふんっ!」
一人の魔族がこちらへ突っ走ってきた。先ほどから仲間の魔族の士気を上げようとしていた魔族だ。剣を振りかざして猛突進、あと5秒で俺に刃が届く。しかし……。
「うぉっ、何が起こって……ガハァ!」
ドサッ
突如剣が魔族の意思に逆らうように軌道を変え、魔族の腹に深々と刺さる。そして力が抜けたかのように地面へ倒れた。
「ジキミルもかよ……くそっ!もう戦える魔族は8人しかいねぇよ……」
元々いた魔族は18人、それを俺は削ぎ続けた。ただひらすらにものを引きつけて戦局を乱した。
「はぁ!」
「地岩魔術『小石干渉』って……うわぁ!?」
「おいおま……ダハァ!」
魔族が魔術発動する直前に力を使って方向をずらした。それにより別の魔族へ魔術が当たり味方撃ちとなった。
残るは7人。
「なんだよまじであいつ……」
仕組みは全くわからない。だがわかる範囲で俺のこの力をまとめる。
俺は対象を二つ指定して引っ付けることができる。
鉄格子、壁、鎧、杖、剣、魔族までなんでも対象にできる。
引っ張らせる細かい場所も決めることができる。
ただし壁と壁のような重たすぎるもの同士に使うことはできない。
なんでこんな能力が俺にあるのかわからない。だが魔族の反応的に今まで隠していてよかったようだ。実はとてもレアな能力で希少だから国に捕まったりとか色々面倒になりそうなことを想定していたからな。
「もしこんなことがイザール様やゲンライト様にバレたら殺されちまう!お、俺はもう逃げるぞ!」
「お前だけ助かる気か!?」
「どうせここにいるのは報酬目当ての屑ばかりだろ?見捨てても良心が痛むかよ!」
どうやら仲間同士で言い争いをしている。連携がない方がこっちも対処しやすい。
「じゃあな!」
一人の魔族が大広間から逃げようとした瞬間、その魔族の首が吹き飛んだ。
トン……コロコロ
生首がコロコロとどこかへ転がっていく。
ブシャァ!
断面から噴水のように血が飛び上がる。その一連の流れを見て、俺は驚いて呼吸するのを忘れていた。
「前に忠告したこと、忘れたのか?次騒がしくすれば命はないと」
首がなくなった魔族の奥から出てきたのは堂々と大剣を構える魔族。大剣には血がべったり付いていた。それが姿を表した時、魔族達は震え上がった。
「なんだその状況は、説明しろ」
大剣の魔族は高圧的な態度をとる。
「ガフッ……あのガキがっ……ブフッ……ブッ……レスを……」
腹に剣が刺さり倒れた魔族が必死に説明を始めた。しかし吐血をして途切れ途切れの説明になっていた。
「俺は寝起きだ、もっと分かりやすく話せ」
だがその魔族の頑張りも大剣の魔族に否定されてしまう。あんな状態じゃまともに話せるわけがない。だが倒れた魔族は何も文句を言わず説明を始めた。
「ゲンライト様の……命令であの人族を……殺せと……ゴブハァァ……」
その魔族は説明しきることができた。しかし説明を終えた直後、吐血を我慢していたのか盛大に口から血が噴射される。確実に命に届いている。そしてその魔族は……二度と話すことはなかった。
「ガキ一体に何を戸惑っているというのか、これだから寄せ集めの魔族は話にならんのだ」
その大剣を持った魔族がこちらに近寄ってくる。それはゆっくり、散歩をするかのようにゆっくり歩いていた。だが俺としてはそのほうがありがたい。たくさんあの力が使える。
「ハァ……ハァ……食らえ!」
俺は地面にある様々なものを一気にその大剣を持つ魔族へあの力を使って飛ばした。魔族が着ていた装備や装飾品として置かれた花瓶、砕けた壁の一部など。
「稚拙だ、お前らはこんなふざけたガキに振り回されたのか」
だが俺の渾身の仕掛けも全て無に帰した。何と引き寄せられた全ての物を魔族は大剣で受けきったのだ。何事もなかったかのように魔族がまた歩き出す。まずい、あと数十秒で至近距離に入ってしまう。
「くっ!」
考えている暇なんてない。とにかく何でもいいからあの魔族にダメージを蓄積させる。何でもいい、そこら中の目に映るすべてのものに力を付与した。しかしあの魔族は済ました顔で受け流してしまう。相当の手練れ、カルホットと戦闘している魔族に並ぶくらいあるんじゃないのか。
「何故抗うのだ、増援や覚醒があるなんて考えてないよな。俺が目の前にいる、それだけがお前の生という可能性を潰す唯一の理由だ」
魔族は殺風景な顔をしてそういった。
「でかい口……叩くだけ叩いてろ、これをどうにかできるならな!」
俺の魂の雄叫び。俺はリゲロン達もカルホットも救わなきゃいけないんだ。絶対に死ぬわけにはいかない!
「うわぁ!?」
「ヒィィ!?」
「ほう……」
今大剣の魔族に近い魔族4人に力を付与した。付与したとたん、魔族4人は大剣の魔族に向かって飛ばされる。まるで極の違う磁石のようにガッチリと大剣の魔族と魔族4人が引っ付いた。
「その状態……動けないだろ」
魔族4人が邪魔で大剣の魔族はその場から動けない。ゲームセット、これで無力化することに成功した。おそらく大剣の魔族も炎魔術の魔族のように下っ端魔族を指揮する司令塔なのだろう。その司令塔が行動不能になった今、フリーに動ける他の3人の魔族も降参すると願いたい。例え攻撃しようとしてもこの力があれば何とか……。
「ィ……イザール様……お助けを……」
「お願いします……どうか……」
「俺達……死にたくないんです!」
「許してください……」
あの大剣の魔族はイザールというらしい。イザールに引っ付いた魔族達が震えながら祈り始めた。どういうことだ?何故この状況でイザールにビビっている。ただ怒られるとかのビビり方ではない。まるで今から殺されるみたいな雰囲気じゃないか。
「お前ら屑が犯した罪……ひとーつ、俺の眠りを邪魔したこと。ふたーつ、ゲンライト様の命令を遂行できなかったこと。みぃーっつ…………俺の足を引っ張ったことだ」
ジャシンッ!
信じられない。イザール……悪魔だ。
「お前、同じ魔族なんだろ……?」
「このような屑と一緒にされては困る」
イザールは力ずくで魔族を振りほどき、大剣を振り回す。するとくっついてた魔族4人が次の瞬間には……胴体が上下に分断されていた。即死だ、生きているはずがない。イザールは部下を自らの手で殺戮したのだ。仮にも魔族同士仲間のはず、なのにその殺戮に躊躇の欠片もなかった。よくよく考えてみれば逃げようとした魔族の首をはねたのもこいつだ。なら部下の命なんて重んじるはずがない。テンパってそこまで頭が回ってなかった。
「元はといえばお前のせいだ。俺が起こされたのはお前が悪い」
気づけば俺の目の前にイザールは立っていた。もうすでに大剣を振り上げている。どうすればいいこの状況!とにかく体を捻ろ!
ジャシンッ!
腕を掠ったもののその大剣は俺を捉えれなかった。そう、俺は避けることができたのだ。首の皮一枚繋がった!大剣なら振り下ろした後の隙がでかいはず、俺はすぐさまバックステップをして距離をとろうとした。
だが奴の行動は終わっていなかった。
「光魔術『虚光満積』」
激しい光が俺の視界を奪ったのと同時、あの炎魔術と似たような衝撃が全身に走る。後方へ吹き飛ばされ、そしてまた……壁に打ち付けられてしまった。
「ゴフッ……」
何故、俺は大剣を避けたはず。奴は杖なんか持っていなかった。杖無しで魔術を?でもそれは相当高度な技術だと……カルホットが言っていた。
「やっとくたばったか」
あぁ……もう動けない。視界がだんだん真っ赤に染まっていく。そうか……また頭から壁に衝突したのか。頭の出血がひどい、どおりでさっきからめちゃくちゃ痛いわけだ。もうダメなのか、リゲロン達を助けることもカルホットと約束したこともできずに俺はまた死ぬ。
「俺はまた寝る……本当は終始何もしなかったお前らも殺したいが、今は殺意よりも睡眠欲のほうが勝っている。助かったな。それとその人族の首も落としておけ、念の為だ」
「ありがとうございます!イザール様ぁ!!」
「我が神よ!俺を救ってくれたのか!」
「俺が人族を殺す、ジキミルの仇だ。せめてあいつの剣であの人族をぶっ殺してやる」
何か聞こえてくる。でももうどうでもいいんだ。俺は死ぬ、それに変わりはない。変えられないことだから。
「死ねよ、人族」
仇討ちをしようとする魔族が仲間の剣を強く握り俺に向かって歩いてくる。
「来世は魔族になって、生まれてこいよ!」
俺の命を断つためにその魔族は剣を振り上げる。そして剣は斜めに落下していく。
《リゲロン視点》
「ハァ……ハァ……」
「ボフ……ハァハァ……」
「マトア……また吐血してる……」
「へ、平気よこんなの……」
あの魔族から距離を離せたのはいい、だが僕たちには次なる不安があった。それはこの廊下がどこに繋がっているのかということだ。ずっと真っ直ぐだから同じところに戻るなんてことはないと思うけど、もし行き止まりだったらそれこそ積みだ。僕はもうまともに動けないしマトアも今にも倒れそうだ。限界はすぐ目の前にある。どうにか、早く隠れる部屋か何かに辿り着きたい。
「あ、リゲロン……あそこ……」
「何か、あった……?」
マトアが何か発見したらしい。でも僕は大量の失血で目の前が暗かった、だからマトアの言うものもわからなかった。
「部屋だよ、牢屋の時とか大広間の時の扉と雰囲気が違うわ。もしかしたら……」
キィィィン
きしむような扉を開ける音がまわりに木霊する。
「何だここ……とても……」
「酷い腐臭ね……まるで大きな獣が腐ったあとみたいな……」
扉を開けるととても酷い臭いが漂ってくる。ここに長くいれば本当に鼻が曲がると思う。そのくらい酷い臭いだ。この感じは生ゴミが腐った時に似てる。あのヘッドパレスで食べたステーキでももっと良い臭いしたよ。
「生ゴミを捨てる場所か何かかな……」
「とりあえず行ってみましょう」
どのみちこの部屋以外の道はもうない。僕たちはその部屋に入ってみることにした。
「中は暗いね……」
照明も何も無い。日常的に使う場所じゃないのかも。
「私はしっかり見えるよ」
あ、そっか。僕の視界がおかしいだけだった。本当に僕たちは無事に帰れるのかな。カルホットもスミトもマトアも村人も、これ以上何も失いたくないよ。進むたびに臭いも強烈になっていく。この大本へ近付いている証拠だ。マトアが曇った表情をしたままこう語り始める。
「私はね、村のみんなが大好きなの」
ポタッ
「私の誕生日がわからなくても、毎日毎日少しずつ祝おえばいいって」
ポタッ
「トリシアおばさんはいつも料理を教えてくれて」
ポタッ
「へギルおじさんはジョークが上手で」
ポタッ
「ソルゴウおじさんはかっこよく狩りをして」
ポタッ
「エーヴィルもメゼックも兄弟みたいに接してくれて」
ポタッ
「ヴィッタおじさんは……」
開けた空間に出た。その空間はひたすらに静寂を突き通していた。そして……地獄だった。
「え……」
この部屋は既に事切れた村人達を置いておくための部屋だった。しかも雑だ、適当に放り投げたからだろう。200人余りの村人の死体が一気に腐れば確かにこの臭いになると納得できる。
「嘘……嘘ッ!」
実験の影響なのだろうか、多くはマトアのような皮膚が全身に広がっている。
「あの魔族は生かしてくれるって、村人は生きてるって!」
何でこんなことになるんだろう。僕が希望を信じ込ませたばっかりに……想像はできたはずだ。あの大広間での魔族の発言でわかっていたはずだ。
「ねぇ!みんな!ただ寝てるだけなんでしょ!?」
マトアが必死に死体を揺する。しかし死体は死体だ。死体は何もできないことが仕事なのだから。
「嫌ぁぁぁぁぁぁ!!!」
マトアの悲鳴が部屋全体に響き渡る。
メモリー14話を呼んでいただきありがとうございます!今回は少しモヤモヤする回だったですね。スミトはもう死ぬ直前で、マトアは村人全員の変わり果てた死体を目撃してしまう。いやぁマトアが村のことを語るあの感じ、いい感じの演出だったかなっと自分一人ニヤニヤしています。ただ今回の話を書いてて
「あれれ、こんな感じの話し方だったっけ?」
とキャラが若干ぶれていると思ったのでここらへんの話に区切りがついたら修正します。しょうがなくこんな駄作を読んでくださっている皆様に失礼すぎるので。
話は変わりますがブックマークってありますよね。ブックマーク欲しいって言ったほうがもらえやすいって聞いたので
是非ブックマークにしてください!
といっておきます。こんなゴミ作品につけるかアホォ!という方も是非お願いします!では次回予告しますね。
次回、絶望するマトアを慰めることができなかったリゲロン。そんなリゲロンにあるものが目に入りこんだ。それを見た途端、リゲロンの何かに火が灯され立ち上がった。そしてマトアを置いてどこかに言ってしまうのだった。
一方スミトは走馬灯を見ていた。悲しい過去が頭に過っていた中、ある記憶がスミトの何かを覚まさせる。
次回も呼んでくださいね〜……あのいつの話でしたっけ。後書きの下に次の話を読むボタンがあると思うんですけど、私てっきり後書きって読むボタンの下にあるものだと勘違いしてて後書き見たい人だけ見れるみたいな感じだと思ってたんですよね。だからメモリー8らへんで書いた小学生未満のバカアホ汚い文章も皆さんにバレてしまうと思うとなんだか恥ずかしくなりました。