正しい猫の飼い方⑨
お待たせしました。本日分の更新になります。
お楽しみください。
現在、更新時間は迷走中です。
面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)
それはミオラスにとって忘れることができない友であるウールヴェの声だった。
「トゥーラ……?」
ミオラスは恐る恐る名前を呼んだ。
――うん 僕だよ
大災厄の日に悲しい別れをした白い狼のウールヴェが小さくなってそこにいた。
小さい。狼の子供の姿だ。
まるで生まれて1ヶ月程度しかないような大きさだった。
ミオラスは指摘された自分のミスに泣き笑いをした。
「そうよね……犬と間違えちゃダメなのよね……」
ウールヴェはなぜか犬扱いされることを嫌う。とても大事なことだ。
――うん、そこ大事 犬じゃない
「これは……子供の狼の姿ね?」
――うん、子供からやり直しているの
やり直している――なにか、気になるフレーズだったが、それより重要なことがある。ミオラスはアードゥルを求めて振り返ったが、意外なことに彼は微笑みを浮かべていた。
「……あ、アードゥル様……この子はその……」
「知っている。馬鹿息子のウールヴェだ」
「アードゥル様……あの……お願いしたいことが……」
「そのウールヴェは抱きしめていいぞ。なんだったら、愛でてもいい。好きなだけ甘やかすがいい」
見守っていたアードゥルがあっさりと望みの許可をだして、ミオラスの方が拍子抜けをした。
「よろしいのですか?その……間違いなく愛でてしまいます」
「別にそれの中身はロニオスではない」
要点はそこなのだろうか?
ミオラスは許可と禁止の基準がわからず混乱した。
「でも……でも……他の方である時もあるのでは?」
「まあ、その可能性があるのは、この馬鹿くらいだが」
親指でエトゥールの妹姫の伴侶である青年を指さし、再び「馬鹿」扱いすることに、内心ミオラスは冷や汗をかいた。
「中身がこの馬鹿の時に、ミオラスがこのウールヴェを胸に抱きしめたら、こいつにとって別の意味での大災厄だろうな。それはそれで面白い」
「ちょっと、なんてことを言うの?!」
カイルの方が、アードゥルの言葉になぜか激しく動揺している。
いつの間にか、ファーレンシアがカイルの隣にたっており、アードゥルの言葉に対して、口に手をあて上品に笑った。
「まあ、面白い。その時は、やっぱりカイル様は胸の大きな女性が好きだった、と侍女ともども私が判断するだけですわ」
姫の目は笑ってなかった。
姫の反応にカイルの方は、凍り付いたかのように蒼白になっている。
「…………確かに大災厄以上の大災厄だな」
茶髪の男が、謎の言葉をつぶやいた。
ミオラスには、一連の会話の真の意味がわからなかったが、仔狼姿のウールヴェを見つめ、もう一度アードゥルに確認した。
「本当によろしいのですか?」
「抱きしめたいのだろう?お前がずっと待っていたウールヴェだ」
許可がでても、ミオラスはおそるおそる子狼の頭に触れることから始めた。
あの時のように消えてしまうのではないだろうか。
「もう……消えない?」
――消えないよ
「……本当に?」
――うん、まだ飛べなくて会いにいけなかったんだ。カイルは人がいるところには、行けないし、歌姫がアードゥルと来るのをずっと待っていたの
「ミオラス様達の話が一段落するまで、と引き止めておくのが大変でした。今日は朝から、はしゃぎっぱなしでしたのよ」
ファーレンシアが証言した。
それを肯定するかのように、仔狼の尻尾は喜びで大回転している。
トゥーラも再会を喜んでいる――ミオラスはほっとしたように思いっきり子狼を胸に抱きしめて、その存在を実感した。
友の帰還は、ミオラスの心を満たした。
「……お帰りなさい……お帰りなさい」
――ただいま
歌姫とウールヴェの再会は、順調になされたが、もう一匹とカイル・リードの交流は、はるかに脱線し難航していた。
『世界の番人に同調した点は、理解した。相手の同意があれば、可能と仮定しよう。だが、私に干渉したのはどういうことだ?』
「まさか、世界をこのまま放置するつもりだったの?まあ、そんな気がしたからアードゥルに探してもらったんだけどさ。貴方が酒を堪能し満足する頃には、10年ぐらい経過しているような光景が浮かんだからね」
『いや、そのことではない』
「時間って、過去から現在の直線で、不可逆性のものだと思ってる?」
カイルが言った。