表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新連載】エトゥールの魔導師 閑話集〜大災厄の後始末〜  作者: 阿樹弥生
報告書1 閑話:正しい猫の飼い方
8/16

正しい猫の飼い方⑧

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。


現在、更新時間は迷走中です。 (金曜日から風邪をひいてダウン中(泣))

面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

 ミオラスは、メレ・アイフェス達のふざけているような会話を聞いていた。


 異国の言葉のはずの音声の意味は、すんなりと頭に入ってきた。おまけに純白の猫のウールヴェは()()()()()()

 加護を持たない人間には聞こえない『心の言葉』で周囲のメレ・アイフェスに、この猫のウールヴェは話しかけていた。

 それをミオラスも聞くことができた。


 この『加護』は、メレ・アイフェス達と交流できることについては、この上なく便利だったが、日常だとなかなかやっかいだった。

 問題は理解ができても、その言語をしゃべることや書くことができない点だった。



 そういう特殊な能力を『精霊の加護』と人は呼ぶ。

 王族や貴族がもつ能力とされている。ウールヴェを使役する単純なものから、未来を読む『先見』という貴重な能力まで、様々なものがあるらしい。


 ミオラスは歌と『心の言葉』を聞くことができる加護を持っている。


 ただ、エルネストとアードゥルは、これを別の名称でよんでいることを教えてくれた。心の声を聞いたり、話したりすることを『てれぱしー』といい、彼等の世界では珍しくない一般的な能力だという。


 「ミオラスの場合、それが歌と強く結びついている」と解説したのはアードゥルとエルネストだった。


 最初の頃は、彼等の説明がミオラスには理解出来なかった。


 歌は娼婦(しょうふ)のミオラスにとっての身体同様の商売道具で、必須な武器だった。

 それに対して、エルネストが半分道楽に近い形で、ミオラスに楽譜の読み方、声の出し方、腹式呼吸の仕方、声量の鍛え方などを伝授して、ミオラスがなんなくその知識と技術を吸収した。場末の歌い手が、「東国(イストレ)歌姫(ディーヴァ)」に化けた原因でもあった。

 

 鍛えられてしまった絶対的な歌唱力に『精霊の加護』が加わったのは、彼等も計算外だったのだろう。

 事実、彼等は困惑し、慌てていたことをミオラスは知っている。



 『加護』に目覚めたことの自覚がなかった頃は、相手が口に出した言葉か、心の本音を読み取ったものなのか区別がつかないことがあった。

 当時、アードゥルとエルネストが『遮蔽(しゃへい)』という訓練をしてくれなければ、当の昔に発狂していたか、『魔女』や『魔物憑き』として迫害されていただろう。


 アードゥルはミオラスが言語の壁を超えられるのは、持っている能力のせいだと説明してくれた。

 一方、導師(メレ・アイフェス)達は独自の『言語習得』という特技を持っていて、異国の人間と交流する能力に長けていた。


 それは(うらや)ましい能力だった。


 彼等なら大陸のどこへ行っても、生きていけるに違いない。

 ミオラスは異人である相手の言うことを加護の力で理解できても、(しゃべ)ることは難しい。意志の疎通は相手も加護を持っていることが条件だった。

 読み書きも一から学ぶ必要がある。エトゥールの言語を学ぶには、アードゥルやエルネストから絵本などを借りた。


 彼等はそういう努力とは一切無縁だった。


 ただ知識を吸収することに関しては底知れぬほど貪欲(どんよく)だった。

 暇さえあれば、書を入手し、それを読んでいた。


 アドリー辺境伯に化けていたエルネストなど、所蔵する書が尋常じゃない量になったため、そちらの収集家としてエトゥール国内で有名になっていた。


 その書を提供していたのは当時、風来坊だったアードゥルだったらしい。たまにアドリーの館に泊まる「宿泊料」だ、と言ってその「10倍」はする価格の書を数冊おいていくのが常だったという。


「彼は律儀(りちぎ)なんだよ。昔から私に対して素直じゃないが、そういうところは律儀(りちぎ)だ」

 

 エルネストは笑いながら、ミオラスに言ったものだった。




 確かにアードゥルは律儀(りちぎ)だ。

 金髪の賢者(カイル)に頼まれて、この猫姿のウールヴェになっている人物を東国(イストレ)の造り酒屋から探し出したのだから。

 猫姿とはいえ、このウールヴェを抱きしめてしまったことを、ミオラスは深く反省した。反省しながらも、アードゥルが嫉妬(しっと)してくれたことをミオラスは密やかに喜んでしまって、さらに反省の材料を増やしてしまっている。


 メレ・アイフェス達の再会の会合を、微笑みながら見守るミオラスのドレスの裾が、何かにひっぱられた。


「?」


足元に白い子犬がいた。子犬は前足でドレスの裾を器用に引っ張り、ミオラスの注意をひこうとしていた。


――犬じゃない


 懐かしい声を聞いて、ミオラスは驚きに目を見開いた。

 思わず、はしたなくも床にしゃがみこみ、子犬の正体を見極めようとした。


 ダメだ。期待してはダメだ。


 そう自分に言い聞かせながらも、子犬と視線をあわせる位置に顔をさげた。子犬は金色の瞳を持っていた。


――だから、犬じゃないってば


 懐かしすぎる声だった。


「嘘……本当に……?」


 ミオラスは声をつまらせた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ