正しい猫の飼い方⑦
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「ロニオス、造り酒屋の危機だ。大災厄より問題だろう?」
「…………………どういう起こし方だ……」
ディム・トゥーラはカイルの言葉に呆れたが、さらに呆れることに効果は絶大だった。
『それは大問題だっ!』
まさに飛び起きるという表現が正しいように、猫のウールヴェは身体を痙攣させて、意識を取り戻した。
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
ウールヴェはきょろきょろと周囲を見渡し、ようやく弟子の腕の中にいるという状況に気づいたらしく、シャトルで別れたきりのディム・トゥーラを認識したようだった。
『……………………やあ、おはよう、ディム・トゥーラ』
蘇生直後のカイルのようなふざけた挨拶に、これは遺伝か、とディム・トゥーラは眉を顰めた。
『それにしてもアードゥル。私はか弱い生物だから、もう少し丁寧に運搬してもらえないか?』
ウールヴェは、そばにアードゥルを認めると、不満たらたらに文句を言った。
「能力が枯渇しているというから試しただけだ」
『そうか。あのシェイク運搬は歌姫の胸を占拠した八つ当たりじゃなかったんだな。誤解してすまなかった』
「…………やはり窓から放り出すか、バケツの水に顔をつけっぱなしにするべきだったな」
「アードゥル、ここに四つ目を召喚するのはやめてね」
やんわりとカイルが、一人と一匹の間の不穏な空気に釘をさした。
ディム・トゥーラも二人の思念会話を拾っていたが、まだ手元の猫の正体を受け入れることができなかった。
ディムは恐る恐る尋ねた。
「…………本当にロニオスなのか?」
『私以外の候補名があるなら、ぜひ聞かせてもらおうか』
「…………飲んだくれの古狸」
「私は狐派だと何度言わせる?!エド・アシュルと一緒にしないでくれ!」
まごうことなきロニオス・ブラッドフォードだった。
ディム・トゥーラはしばし猫姿のウールヴェを見つめてから、意外にも安堵したようにウールヴェを強く抱きしめた。珍しい感情的な行動だ、と見守っていたカイルは思った。
『ディム・トゥーラ?』
「俺のせいで後始末の尻拭いをさせ、貴方を死なせてしまったと思っていた……生きていてくれてよかった……」
『……………………』
それはディム・トゥーラの本音だった。
ロニオスはその言葉に衝撃を受けていたようだった。
自分の死が一個人にこんなにも影響を与えていたという事実を突きつけられたからだ。
師弟関係は、カイルと地上を救うという利害関係から生まれた淡泊なものと思い込んでいたロニオスには、困惑する事例だった。
『……………………ディム・トゥーラ……』
「本当によかった……」
『……………………』
ロニオスが言葉を探している間に、ディム・トゥーラは顔をあげた。
「それにしても――」
ディム・トゥーラはウールヴェを軽々と視線が会う位置まで持ち上げ、しみじみと言った。
「この似合わない愛玩動物の姿になったのはどういうわけです?昔の狼の方が、はるかに威厳があったというのに、今の姿は残念すぎる」
『………………今、君は全世界のネコ愛好家を敵に回したぞ……?』
「威厳がないことの方が問題です。だいたい貴方に可愛いは似合わない」
ディム・トゥーラはきっぱりと言った。
「いったいどういうことです?大災厄後に、再生しているなら、すぐに俺達に連絡を取るべきでしょう?貴方、酒につられて、あわよくば、東国の造り酒屋で長期滞在を決め込むつもりでしたね?大災厄の後始末が面倒になったんじゃないですか?この件はジェニ・ロウに報告しますからね」
『や、やめてくれ』
猫はその宣言に尻尾を太くして怯えた。
「いえ、報告します」
ディム・トゥーラは容赦なかった。
「それに貴方は、カイルに対して、自分の口から言うべきことがあるでしょう?カイルには、俺から言ったし、カイルは知っていたと言うし、仕切り直しは必要だ。それによっては、ジェニ・ロウにとりなしてあげてもいいですが」
それはほとんど逃れようのない恐喝だった。
『………………思い出した。君はカイル至上主義のツンデレ属性だったな……』
「………………酒を禁じますよ?」
二人の会話は通常営業に戻っていた。