正しい猫の飼い方⑥
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ディム・トゥーラはカイルの抗議を、完全に黙殺した。
手元の気を失っている白い猫を見つめる。問題のウールヴェは猫に擬態しているが、細かいところが違った。
骨格や胴が細長くすらっとしているが、体高が平均的より大きく、何よりも毛並みは短毛種と長毛種の中間という長さだった。耳が大きく、ヤマネコの特徴が強い。何よりも尻尾が長く、二股に別れている。
それでも一般知識しかなければ、純白な毛並みと尾の特徴があったとしても、ただのネコとして見逃していただろう。アードゥルの発見、保護した功績は多大だった。これはアードゥルとロニオスの絆の強さの証明かもしれない。
ただこのウールヴェは野良猫というには、美しすぎた。純白な毛並みは、外にいたにもかかわらず貴族の飼い猫のように整いすぎていた。野良猫独特のボサボサな毛並みやノミのような外部寄生昆虫と無縁なのは、ウールヴェだからだろうか?
「……本当にロニオスなのか?」
ディムは猫を抱きながら、発見者のアードゥルに対して困惑気味に問いかけた。アードゥルは肩をすくめた。
「念話も交わしたし、こんなふざけた性格の男が他にいるものか」
「ひどい言われようだ……」
「理解していると言ってくれ」
「……まあ、確かに」
わかり合ったかのような二人の会話にカイルは思わず突っ込んだ。
「そんなにロニオスはふざけた性格だったの?」
カイルよりも、支援追跡対象者のアードゥルと、弟子入りしていたディム・トゥーラの方が、ロニオスと過ごした時間は遥かに長い。交流が少なかったカイルは興味津々のようだった。
血縁者の質問にディム・トゥーラとアードゥルは一瞬黙り込んだ。
「カイル・リード」
アードゥルが珍しく優しくカイルの両肩を叩いた。口調に慰めの色がこもる。
「はい?」
「世の中には知らない方が幸せってこともあるんだ」
「…………………………」
「俺も同意する」
ディム・トゥーラもアードゥルの意見に賛同した。
ディムは昔、中央の担当者をやりこめたイーレの言葉を思い出していた。「世の中には知らない方がいいことがいっぱいあるのよ」とあの時のイーレは言った。
本当にそうだと、ディムは思った。
カイルには、ロニオスのような狡猾な計算高い人物になってほしくない。あの性格に癖があるロニオス・ブラッドフォードに似てほしくは、なかった。
カイルはお人好しの素直な性格のままでいて欲しい。馬鹿で、人に利用されるお人好しさを腹立たしく思った時期もあったが、ロニオスのような知恵と狡猾さをつけてほしいか、そのままでいて欲しいかという究極の選択を突き付けられるなら、圧倒的に後者だった。
例え、ロニオスと同じ規格外の能力をもち、周りをどんどん魅了していく人たらしだとしても――。
ウールヴェは起きる気配がなかった。
こうなると、能力が枯渇しているというロニオスの証言が信憑性を帯びてきた。だいたい輸送の振動で気絶することが、イレギュラーだった。
以前のロニオスなら簡単に網籠から脱出できただろうし、そもそも捕獲するのが困難だろう。
結局、ディム・トゥーラは優しく起こすという選択をした。
アードゥルとカイルは、そろって『バケツに水を張ってそこに顔を沈めろ』という動物虐待のような起床方法提案したが、中身がロニオスだとしてもディム・トゥーラはその提案を却下した。
「僕には水をぶっかけるくせに」
カイルは、なぜか拗ねていた。
「単に効率の問題だ。ずぶ濡れになったウールヴェの毛並みを誰が、乾かすんだ?」
そばにいた歌姫が世話役としてうずうずと立候補をしたそうにしていたが、「だめだ」の一言とともにアードゥルはミオラスの手を握ることで、三次災害の発生を未然に防いだ。
見知った人々の前で手を繋がれるという行為に、百戦錬磨の娼婦であったミオラスの方がウブな少女のように照れた。今までのアードゥルにはない大胆な行動だった。
アードゥルの意外なスキンシップの公表に、エルネストやカイル達の方が目を丸くした。それがどんなに珍しいことか、彼等の方も理解していた。
「アードゥル?」
「すでに事故が発生している。ミオラスに世話役はさせない」
「事故?」
「カイル・リード。君はロニオスが同調しているこのウールヴェが、エル・エトゥールの胸に強く抱かれるのが平気かね?なんだったら、君の支援追跡者であるディム・トゥーラが虎に同調して姫に強く抱きしめられ愛でられることを想像してもらってもいい」
「………………想像する前に卒倒しそうだよ……」
「理解してもらえて、何よりだ」
アードゥルはそっけなく応じた。
「俺を勝手に想像のネタにするな」
ディム・トゥーラはカイルとアードゥルを睨んでから、ロニオスを起こしにかかった。
「ロニオス」
思念と肉声で呼びかけたが反応はなかった。
「ロニオス・ブラッドフォード」
ウールヴェは気絶したまま、目をさまさない。
「……本当に能力が枯渇しているのか。こんな状態で放置したら簡単に四ツ目に食われるな」
エルネストがぼそりと感想を述べ、内容に周囲の人間の方がぎょっとした。
カイルが首を傾げて、しばし考え込んだあと、手を伸ばしてディムが抱いている白猫の頭に触れた。