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【新連載】エトゥールの魔導師 閑話集〜大災厄の後始末〜  作者: 阿樹弥生
報告書1 閑話:正しい猫の飼い方
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正しい猫の飼い方⑤

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。

おかげさまで、完結した本編がいつのまにか注目度ランキングで3位にランキングインし、読者様が増えました。

いつも読んでくださる皆様ありがとうございます。

(喜びのあまり現在、養い子のお話をコツコツと書いております……もう少しおまちください)


現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

 カイルはすぐに封印されている網籠(あみかご)麻紐(あさひも)をほどきにかかった。


「僕には曖昧(あいまい)な指示しかできなかったのに」

「まったく曖昧(あいまい)すぎた」


 アードゥルは腹を立てているようだった。


東国(イストレ)の造り酒屋が何件あると思うんだ?」

「知らない。何件なの?」

(みやこ)の周辺だけで千軒以上だぞ」

「え?!」


 さすがのカイルも驚いた。


「そんなに?」

「人口50万以上の東国(イストレ)(みやこ)に持ち込まれ消費もしくは輸出される。麦酒(エール)とともに米の発酵酒は需要があるからな」

「…………僕は大陸中の酒飲みの人口を確認するのが恐ろしいよ……」


 カイルをはじめとする研究員には体内チップの常備が義務付けられている。研究調査で環境の違う惑星に降下したときの負荷調整を目的とし、活動中の病気や怪我に対するある程度の応急手当が可能になる。


 一方、酒のようなアルコール分の摂取による酩酊(めいてい)は、毒と自動判別され、分解が体内で始まる。


 一般に、カイル達が飲酒効果によるほろ酔い気分を味わいたいなら、シルビアから薬か皮下注射接種により体内チップを一時停止させるしかなかった。

 そのためカイルはロニオスが常に熱く語る『酒の魅力』をいまだに理解できない。美味しいか不味いかの判断はできてもそこまでだった。

 

「で、まさか千軒全部をあたったの?」

「いや、どうせロニオスは味にうるさいから、評判のいい高級酒の店に絞った」

「賢明だ」

「それでも半年近くかかったぞ」

「時間外請求はロニオスにしてね」


 カイルは先手をうって言った。請求をしようとしていたのか、アードゥルはチッと舌打ちをした。


 ようやく麻紐と封印がわりの布をとくと、網籠(あみかご)の中で気絶している白猫のウールヴェがいた。


「…………アードゥル?」


 気絶状態に、カイルはやや問いただすような視線をアードゥルに向けた。


「ロニオスが気絶状態になるってどういうこと?」

「能力が枯渇(こかつ)して転位(テレポート)できない、という彼の主張を確認してみた」

「はい?」

「私の移動運搬が乱暴であっても本当に転位(テレポート)しないのか、実験してみたんだ」

「……………………」


 つまり丁寧な運搬はしなかったという宣言だ。

 ロニオスの元支援追跡(バックアップ)対象者は手厳しかったが、ロニオスを熟知しているとも言えた。


「ロニオス?」


 二人の会話を聞いていたディム・トゥーラとエルネストは愕然(がくぜん)としていた。


「その白猫がロニオスだって?」

「うん、ディム、ロニオスを見つけたよ」

「シャトルの爆発で死んだのでは、なかったのか?!」


 そのシャトルの爆発に関わっていたディム・トゥーラは驚きの声をあげた。彼は爆発前に、ロニオスによって強制的にシャトル内から地上に転位されて命拾いしていた。


「死んだというか……狼のウールヴェの素体を失った。だから世界の番人の力で新しいウールヴェの素体を与えてみたよ」


 世界の番人と同化しているカイルがさらりととんでもないことを言う。


「「「……………………は?」」」


 3人は問題発言をしたカイルを凝視(ぎょうし)した。

 カイルは呑気に語り続ける。


「世界の番人は、人々の願いごとをかなえようとする本質があるから、ちょっと願いごとを変更して叶えてもらったんだ」

「意味がわからない」


 ディム・トゥーラはカイルの抱く純白の毛並みをもつ白猫を見つめた。確かに猫の尻尾は複数あった。

 ウールヴェの特徴だ。


「それがロニオスの新しい素体とでもいうのか?しかし、なぜこんなことに?」

「だって、ディムは、ロニオスの死を自分が原因と後悔していたじゃないか」


 指摘に絶句したのはディム・トゥーラだった。そしてそれは認めたくないが、正しかった。


「ロニオスの死を一生悔やんですごしてもらいたくなかった。だから世界の番人と妥協点を探ったんだよ」

「……妥協点?」

「ロニオスの願い事が、惑星文明が存続する様を境界線の向こうで亡き伴侶とともに平穏に眺める――だったんだよ」

「――」

「でね、その願いごとは、今じゃなくてもいいじゃない?そもそも復興に大変だから、猫の手も借りたい状態なわけ」

「………………まさか、それで素体を猫にしたわけじゃないだろうな?」

「………………違うと思うけど、なんで猫なんだろうね?はい」


 カイルはディム・トゥーラにその身体を渡した。

 ディム・トゥーラは呆然と猫もどきを受け取った。

 そのまま、しばし立ちつくしてから、はっとカイルに問いただす。


「まて。なぜ、俺に身柄を渡す」

「………だって、ディムは意識がない状態を回復させるのが、上手いじゃないか。僕によく水をぶっかけてたよね?」


 明らかに、カイルは観測ステーション時代の定番の起こし方を根に持っている。


「それはお前が馬鹿だからだ。ウールヴェとはいえ、動物にそんな残酷(ざんこく)な待遇ができるか」

「えっ?ちょっと、待って、観測ステーション時代の僕の扱いって、ウールヴェもしくは動物以下?」


 カイルは衝撃を受けたように、ディム・トゥーラに抗議した。

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