正しい猫の飼い方④
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アードゥル達は、滞在先の東国からエトゥールに移動しようとして、すぐに問題に気づいた。
500年前に衛星軌道上の観測ステーションから地上探索のために設けられた研究施設は、『拠点』と呼ばれ、大陸各地に地下に密やかに設置されていた。
ウールヴェと呼ばれる精霊獣は、なぜかこの科学地下施設に入ることが出来なかったのだ。
アードゥル達の所持している娼館の移動装置は、大陸の片隅にある隠れ里ともいえる場所にあるアードゥル達の屋敷の花園に繋げてあった。そのあとは、その屋敷の地下『拠点』に設置された移動装置で繋がっている各地の座標に向かって自由自在に飛べたが、今回その移動手段が使えないことになる。
今回は問題のウールヴェをエトゥールに送り届けることが目的なのだから、ウールヴェを置いていくことは論外だった。
だが、大災厄によって、東国からエトゥールへの地上人が使う一般的な道は、巨大な衝突痕で断絶されていた。
「東国にあるリル様の移動装置を使いますか?元はクトリ様のものだったとか、なんとか」
「ああ、物資運搬を目的とした商売用の移動装置があったな」
賢者の養い子で商人である少女リルが管理して使用している移動装置は、確かにエトゥール城の旧離宮に直接つながっていた。
「起動していればいいが……」
「私、『きどう』する権限とやらをもらっております。もちろんアードゥル様もです」
「は?」
意外な告白にアードゥルはミオラスをまじまじと見つめた。
「いったい誰が私達にそんな権限を付与したのだ?」
「シルビア様です。私達が東国に滞在している場合の、お茶会のための移動手段が必要だから、と」
大災厄後の混乱の中でも、お茶菓子付きのお茶会だけは忘れない――シルビア・ラリムの甘味に対する執着は、カイルから警告を受けたことはあったが、それは冗談ではなかったらしい。
甘味好きのまじめそうな銀髪の医療担当者は、エトゥール王であるセオディア・メレ・エトゥールの伴侶におさまっている。
しかし彼女と友情を築き上げているミオラスはともかく、過去に敵対していたアードゥルにまで権限を与えるとは不用心にもほどがある、とアードゥルは思った。
「お人好しにも、ほどがある。私がエトゥールを破壊するとは思わないのか。全くあの甘ちゃん共め……」
ミオラスは、アードゥルの言葉に、なぜかぷっと笑いを吹き出した。
「ミオラス?」
「アードゥル様、今更ですわよ。エトゥールのあれだけ広い『地下拠点』に自由に出入りが可能なアードゥル様の移動をなぜ、警戒する必要があるというのです?復活したあの拠点から、それこそいくらでも侵入が可能ではありませんか。とっくの昔に、彼等はアードゥル様を信頼しているのです」
「――」
伴侶の方が、賢明な知恵者だった。
「馬鹿息子はいるかっ?!」
エトゥール城の聖堂の重いはずの扉が左右に勢いよく開く。
聖堂の中にいた人々は、怒鳴りながら登場したアードゥルに一瞬驚いたものの、『馬鹿息子』に該当するであろう人物をいっせいに顧みた。
注目されたカイル・リードは、ディム・トゥーラとエルネストとともに、高級紙に描かれた精巧な絵の整理に追われているようだった。カイルはきょとんとしている。
少し離れた場所には、エトゥールの姫であるファーレンシア・エル・エトゥールが床を這い回っている赤子の子守を侍女達とともにしていた。
ファーレンシアの方がすぐに客人の来襲に対応した。
「まあ、アードゥル様、ミオラス様、いらっしゃいませ」
ファーレンシアは立ち上がり、二人を迎えいれた。荘厳な聖堂内部は、改装され、いまや完全に居住区と化していた。
「先触れもなしに申し訳ございません」
ミオラスは頭を下げた。しかも、アードゥルは姫の伴侶に対して『馬鹿息子』という暴言を吐いている。内心、ミオラスは冷や汗をかいていた。
「導師であるアードゥル様に先触れは不要です。もちろん、その伴侶であるミオラス様もです」
ファーレンシアは、にこりと微笑んだ。
「それに先ぶれは、ありましたのよ?カイル様がお二人がいらっしゃることを先見しておりまして、朝から楽しみにしていましたの」
「カイル様が先見?」
先見と呼ばれる予知能力は、エトゥールの姫巫女と称されるファーレンシアの加護のはずだった。
「アードゥル、今日の訪問はわかっていたけど、『馬鹿息子』呼ばわりは、予知できなかったな。なぜ?まだ、大災厄の件を怒っているの?」
カイルがアードゥルに首を傾げて尋ねる。
「今回、特別に『どうしようもない馬鹿野郎の血縁者である気の毒な息子』にしてやってもいい」
「それ略しすぎだし、評価が真逆のような気がする」
カイルの突っ込みに、アードゥルは抱えてきた網籠を彼に向かって雑に放った。
「土産だ。あとの飼育はまかせた」
カイルはなんとか網籠をキャッチすると、すぐに中身を察した。
「よく見つけ出したね?」




