正しい猫の飼い方③
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「アードゥル様、お酒はこのようなもので――」
下の店から高級酒の壺瓶を何本か、盆にのせて娼館の最上階に位置する支配人室に持ってきたミオラスは、息を飲んだ。
咄嗟に盆だけは、食卓の上に置いたのは、客が暴れた時に、割れやすい盃などをさりげなく避難させるという娼婦の知恵だ。
まさにアードゥルは、窓から白猫のウールヴェを放り出そうとしていた。
「いけませんっ!アードゥル様っ!」
ミオラスは駆け寄るとアードゥルの手から問題の猫をひったくり、アードゥルの言いつけを無意識なうちに破ってしまった。
つまりは、彼女の豊満な胸元に強く抱きしめるという行為をしたのだ。
猫もアードゥルも思わぬ二次災害に硬直した。
『……………………ぬっ殺す……』
『待てっ!これは事故だっ!不可抗力だっ!落ちつけっ!』
ミオラスは伴侶が本気でキレていることを感じた。
ウールヴェを胸に抱き、全身で庇いつつ、アードゥルに取りなすつもりだった。
彼女は火炎旋風に燃料満載の爆撃機を突っ込ませた事実に気づいていなかった。
「落ちついてくださいましっ!ウールヴェをここから放ったら、死んでしまいます。どうか、そんな残酷なことはおやめになってください」
「………………すでに私の忍耐が死んでいる……」
「アードゥル様?」
「………………頼むから、私にこの娼館を全壊させないでくれ……」
「アードゥル様?」
『あ〜〜、東国の名高い歌姫よ、私の忠告に耳を傾けてくれないかね。私の命はいろいろな意味で風前の灯だ』
突然のアードゥル以外の男性のはっきりした声に、ミオラスはおどろいて、猫を抱く手の力が緩んだ。
するりとウールヴェは、ミオラスの手から逃れると床に華麗に着地した。
猫姿にもかかわらず、ウールヴェはミオラスの前で優雅に頭を下げた。ウールヴェの瞳は、金色だった。
ミオラスは金髪の長身の貴族の男が、姫に対しての最高級の礼をする幻を見たような気がした。
『かばってくれたことに感謝をする。私はわけあってウールヴェの姿をしているが、そこのアードゥルと古くから縁があるものだ。名をロニオスという。解説すると、君の実に豊かな胸に伴侶の知人の男の頭を挟み込んでいるために、アードゥルがこの建屋を崩壊しかねないほど嫉妬している――これが現在の状況である』
ミオラスはぽかんとして、アードゥルを見たが、アードゥルは露骨に視線をさけた。
「……お初にお目にかかります…………?」
『正確に言うと初ではない。以前の私は狼に似たウールヴェの姿をしていた。覚えているかね?ああ、もちろん君が愛してやまない食欲魔獣の幼な子のことではないぞ。昔、成り行きとはいえ、君の伴侶であるアードゥルの指を全骨折させた元凶でもある』
「あれは私の自業自得だ」
思わずロニオスを庇う発言をして、アードゥルは口を押さえた。
猫のウールヴェからは、にやにや笑う腹立たしい波動が伝わってくる。
『とりあえず酒の壺瓶が無事で何よりだ。まあ、そんなわけで、アードゥルが言うように、今後私を抱きしめたり、愛でたりはしないでいただきたい。アードゥルが四ツ目を召喚して、私を八つ裂きにしかねない。私も命が惜しい』
「…………そうか……その手があったな……」
『まてまてまてまて』
物騒な同意にウールヴェは慌てた。
「だいたい転位をして逃れれば、いいだろうが。やはり故意にミオラスの胸に埋もれて――」
『私の能力が枯渇しているという可能性をなぜ信じないっ!!』
アードゥルは猫の首を摘まみ上げた。
手近にあった網籠にそのまま乱暴に問題のウールヴェを突っ込むと、上から布をかぶせ、逃げないように麻縄でグルグルに巻きつける。
会話に混乱して、ミオラスはその行為を止めることもできなかった。
「ミオラス、馬鹿達の巣に行くぞ。すぐに着替えて準備をしてくれ」
世界を救った導師が馬鹿集団扱いされている。いいのだろうか?おまけにアードゥルの同胞なのに――と、ミオラスは内心思ったが、アードゥルが網籠を叩きつぶすのも時間の問題だと賢明な判断をした。