正しい猫の飼い方②
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ミオラスが階段を降りていったのを確認してから、アードゥルは抱いていた猫を乱暴にテーブルに向かって放った。これは八つ当たりの感情が多大に含まれていた。
猫型のウールヴェはその蛮行を読んでいたかのように、華麗に身体をひねりテーブルの上に着地する。
満点だろうと着地の採点結果を待つように、胸を張って金の瞳でアードゥルを見つめていた。
アードゥルはその悪びれない態度に頭が痛くなり、顳顬をおさえて言った。
「………………そのふざけた姿はなんだ?」
『ネコと言って、猫科猫属に分類される愛玩型家畜であり、その歴史については古代に遡れば――』
頭に念話が届く。その思念波は間違いなく、彼のものだった。人を煙に巻こうとしている癖も相変わらずで、彼であることを証明する一つになっていた。
「誰が猫の定義を語れって、言ったっ!」
殺気をこめて、猫が鎮座しているテーブルを右手で思いっきり叩く。
案の定、念動力の抑制がきかず、食卓の分厚い木製天板にピシリと無惨なヒビが走った。
『…………もったいない……』
猫は自分の真横に走った天板の亀裂を見下ろし、怯えることなく論じた。
『これはもうなかなか入手できない古代杉の一枚板ではないか。この傷でかなり価値が下がったぞ?』
「論点はそこではないっ!」
アードゥルは猫を見下ろし、睨みつけた。制御している思念波が放出先を求めてバチバチとプラズナの火花をアードゥルの身体の周囲に散らす。
ダメだ、娼館の建屋ごと破壊しかねない――アードゥルは深呼吸を数回繰り返し、制御を取り戻した。
『そうか、違ったか』
「ロニオス、いったい、何がどうして、今にいたるか説明してくれ」
『シャトルで恒星間天体に特攻をかけた。猫型のウールヴェになってた』
ウールヴェはしれっと答えた。
「………………間を端折りすぎだ……」
『むしろ、私の方が聞きたいぐらいだ。どうやって私を見つけたのだね?』
「カイル・リードの助言だ。貴方はきっと東国の造り酒屋のどこかに潜んでいると。本来だったら死んでいた貴方の『時間』に干渉して、同調した世界の番人の力を使い未来の道を紡いだと彼は言っていた」
『…………なんだって……?』
「ディム・トゥーラが貴方の死に責任を感じ悔いているから、干渉したらしい」
『…………いろいろ突っ込みたい。いや突っ込ませてくれ』
猫姿のロニオス・ブラッドフォードは、静かに問いかけた。
『大災厄時、恒星間天体の軌道はちゃんと変わったのだな?』
「貴方は見事に変え、地上にディム・トゥーラを無事送り届けている」
『おお、私もたいしたものだな』
猫は自画自賛した。
『で、変な話を耳にしたのだが?』
「どんな?」
『エトゥールが人を寄せ付けない天空の城になっている、と。ずいぶんファンタジックな表現だが』
「事実だ」
今度はロニオスの方が黙り込んだ。
『なぜ、エトゥールが残っているんだ?あの隕石衝突では軽減しても爆心地であるエトゥールは消滅しているはずだ』
「貴方の息子があまりにも非常識で規格外で考えなしだったからだ」
再び二人の間に沈黙が流れた。
好奇心に負けたのはロニオスの方だった。
『そこを詳しく』
「世界のほとんどのウールヴェに特攻をかけさせた」
『元々、私はそのつもりだった。カイル・リードがそんな非情な策を取れるとは驚きだ。だが、それでも王都は消滅するはずだ』
「残りの防御壁を地下1000メートルまで王都周辺に展開させたんだ」
再び長い沈黙が流れた。
『…………防御壁を多重展開して、強度がこのくらいと仮定して…………ウールヴェが質量を削ったと仮定する変数で質量を想定し…………突入速度を減速させたとして…………いやいやいやいや』
ロニオスのブツブツとつぶやくような思念が漏れ聞こえる。
量子コンピューターもなしに、暗算しているのか――アードゥルはロニオスの規格外の非常識さにドン引きした。
『あの衝突エネルギーを吸収するには無理がある』
「まあ、そうだな。だから、『エトゥールの魔導師の奇跡』なんて尾ひれがついてしまう」
『「エトゥールの魔導師」?ははは、魔導師か。おもしろいネーミングセンスだ』
「いや、笑いごとじゃないんだが?」
『いや、それよりエトゥールが残存している方がおかしいだろう?!計算値があわないっ!』
はじめてロニオスが動揺したように吠えた。
やはり情報は小出しで釣るのが一番か。エルネスト直伝の戦法をアードゥルは採用することにした。
「続きを聞きたいなら、私の質問にも答えてもらいたい。なぜ無事ならこちらに連絡しなかった?」
『連絡するも何も、この姿だぞ?てっきり猫に転生したと思うだろう?猫に転生したのなら、来世に望んでいた通りに、酒を飲んで一生を過ごしたいと思うのは当然じゃないか』
ガツリ!
アードゥルは猫の頭を殴った。
『い、痛いっ!暴力反対っ!』
「ほう……ウールヴェには痛覚もあると……」
アードゥルは手を組み、指をボキボキとならして準備運動をして悪鬼のように笑った。
アードゥルさんへ
この古狐(猫だけど)をボコボコにしてくれていいです。(作者許可)