正しい猫の飼い方⑯
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できれば、早急に世界の番人との同調を解かせたい――ディム・トゥーラはずっとそう思っていたが、同調を解消した場合のこんなデメリットが発生することは想定していなかった。
ロニオスの目には、カイル・リードのこの状況がどう映っているのだろうか?
『は?そんなことは、どうでもいいことだ』
「…………………………………………」
後日、ロニオスに質問する機会を得たディム・トゥーラが、受け取った答えは想像の領域から外れていた。
ロニオス・ブラッドフォードは血縁者であるカイルが『世界の番人』と同調していることを、まさかの『どうでもいいこと』に分類した。
「……ロニオス」
『同調しているものを無理に剥がせば歪みが生じることは、君も支援追跡者として理解しているのだろう?カイル・リードの同調して世界の番人を保護する考えは、間違っていない。優先順位の問題だ』
純白の猫の姿をしたウールヴェは、息子と同じ金色の瞳でディム・トゥーラを見つめてきた。
彼が何を要求しているのか、ディムは察していたが気づかないふりをしていた。無論、ロニオス相手にかなうはずもなかった。
念動力を使えないウールヴェのために、専用の小皿に高級酒を注ぐ。
これらの高級酒は、ウールヴェ達に貢ぐことが趣味かと疑ってしまう歌姫の手土産だった。数日おきの訪問に同行しているアードゥルも文句がないようだった。
「では、貴方のどうでもよくない問題はなんです?」
『やがて始まる内乱、もしくは他国の侵攻をいかに手間暇をかけずに食い止めて、私の造り酒屋を死守することだな』
深刻な未来予想と個人的な欲望が、均等に混在していた。
「……ロニオス」
『なんだろうか?』
「勘違いしてはいけないので、貴方の優先順位を教えてもらえますか?」
『1 造り酒屋の建設。2 縁側付き平屋の建設。3 酒米の収穫。4 杜氏の確保――』
己の欲望に忠実な安定の優先度項目の選択だった。
「……そこらへんの上位に、血縁者の精神的救済とかを入れる余地は――」
『ないな』
「……ロニオス」
『カイル・リードには君がいる。だから、私は心配はしていない。心配する必要もない。優秀な支援追跡者がついているのに、救済が必要なわけもない』
「――」
『だから、私は安心して酒を飲む。そういうことだ』
凶悪だ。予想外の殺し文句を投げられ、ディム・トゥーラは絶句した。
カイルの人たらしの遺伝子の源泉がそこにあった。
ウールヴェは、ディム・トゥーラに対してにやりと笑う。
『もちろん、不安になった君への助言は惜しまない。こうやって、酒の酌をしてくれれば、いつでも応えよう。まさか能力が枯渇して、手酌ができないとは計算外もいいところだ。早く回復せねば……』
「…………………………………………」
猫はズル賢く、人を隷属させ、振り回し、マイペースで己の欲望に忠実に行動し、四六時中惰眠を貪る傾向がある。そして他者を魅了する凶悪な存在だ。
まさにロニオス・ブラッドフォードそのものだった。
ディム・トゥーラは、諦めの深いため息をつき、凶悪な人たらし親子に奉仕する道を選ぶしかなかった。
続編の新連載も、始まっております。
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続編と閑話の交互更新かなあ、とぼんやり考えてます。
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