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【新連載】エトゥールの魔導師 閑話集〜大災厄の後始末〜  作者: 阿樹弥生
報告書1 閑話:正しい猫の飼い方
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正しい猫の飼い方⑩

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。

現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

『私は時間研究の学者ではないが、ある程度の不可逆性は管理されているものだと考えている。その証拠に時間逆行装置(タイム・マシン)は未だに開発されていない。そもそも不可逆性が否定されると過去の歴史が簡単に覆される可能性があるということになる』

「俗に言う空想小説上のタイム・パラドックスだね」

『私に対する干渉はそれに等しい』

「だから必ずしも不可逆性ではないんじゃない?時間が不可逆性なんて誰かが証明したわけじゃないでしょう?世界の番人が時間に干渉できる可能性をどうして見落としたの?」

『――』


 ロニオスはカイルを見つめて論じたが、ディム・トゥーラの腕に抱き上げられた状態では、ディムの指摘通りいささか威厳と迫力に欠けていた。

 事実、そのギャップの酷さに、必死に笑いをこらえているのは、旧知であるアードゥルとエルネストだった。

 感慨深そうに腕を組み、しみじみと言ったのはエルネストだった。


「ロニオスを可愛いと思える日が来るとは、長生きをするものだな」


 いつもと違いアードゥルもその意見に同意した。


「まったくだ」

「私でさえ、このウールヴェの喉をなでて甘やかしてみたくなる」

「ある意味凶悪さが増している。女性達は騙されて、絶対に抱き上げて可愛がる」

「究極の詐欺師の誕生だな」

『うるさいぞっ!!君達!!』


 ロニオスが好き勝手に言ってる元同僚達に吠えたが、それはまるで白猫が尻尾を太くして怯え、シャ〜〜っとかなわぬ敵に威嚇しているように傍目から見えた。


 ついに笑いに耐える沸点を超えた二人は、珍しく声をあげて笑った。


「ロニオス、弟子の言葉は正しいぞ。猫では威厳や迫力が皆無だ」

 アードゥルが揶揄った。

『威厳や迫力が、この問題を解決してくれるのか?!』


 さらに白猫もどきは、いきりたった。そのまま金髪の青年を睨んだ。


『カイル・リード、君はいったい私に何をした?!』

「さあ?僕がしたかもしれないし、世界の番人かもしれないし、他の何かかもしれない」


 カイルは首をかしげた。


「僕もはっきりとした確信があるわけじゃないよ。僕は世界の番人と同調して過去と現在と未来をみた。俯瞰してみるとそれは精巧に織り込まれた布のようにも見えたし、ファーレンシアがよく編むレース布にも見えた。もしくは、研究都市の夜景にも似た光の軌跡にも見えた。あらゆる点と線が光で結ばれている。だけど、その光の道が途切れていたんだ。それがロニオスの存在点だ」


 聞いていた全員が黙り込んだ。


「僕はその光の道を紡いだんだよ」

『…………どうやって?』

「ファーレンシアの侍女達って、すごく器用なんだよね」

『は?』


 カイルの言葉が唐突に飛んで、皆が口をぽかんと開けた。


『エトゥールの姫の侍女がなんだって?』

「だから器用なんだよ」

『それとこれがどう関係するんだね?』

「すごく関係するよ。彼女達は、針と糸と当て布で、破れた布地を修復する技術に長けている。穴の空いたレース布も綺麗に修復するんだ。まるで穴がなかったように」

『だから、それがなんの関係が――』


 言いかけたロニオスが何かに気づき黙り込んだ。


「僕はね、ロニオス、ファーレンシアのそばで、彼女や侍女達がいろいろなものを作り出し、なんの苦もなく、修復する姿を見ていたんだ。だから、当然、ロニオスの存在点も修復できると思ったんだ」

『………………認知か……』

「貴方がよく言っていた理論だよね?僕も認めるよ」


 にっこりとカイルは笑った。


「素体を失ったなら、素体を与えればいい。これはクローンの原理となんら変わらないから、難しい認識ではなかったし。だから世界の番人にあなたがたくらむ引退を遅らせてもらったんだよ」

『遅らせるって――』

「言わなかったっけ?僕の主義って、『立っている者は、親でも使え』だから、ロニオスの負荷が多少増えても許されるよね?」

『――――』 



「ロニオスをやり込める勇者の誕生だ」

 ぼそりとエルネストが言った。

「素晴らしい。未来が明るいものに思える」

 アードゥルは真顔で答えた。




『いや、まて、ではこの姿の理由はなんだ?』

「猫?ああ、それは僕にもわかんないなあ」


――――猫になりたいと言ったではないか


「……………………」

「……………………」

「……………………」

「……………………」

『……………………』


 空耳のような言葉の降臨に、今度はカイルを含めて全員が黙り込んだ。

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