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あんたら、未練ありすぎでしょ  作者: おときち
第1章 この土地、痩せすぎでしょ
4/4

4話

 ニコはノーグルスタチカに必死に助けを求めた。

 彼女は何度もノーグルスタチカに誤解の弁明をしていたが、嘘をつくことが下手な彼女の言葉には、何1つ誤解なことはなかった。


「連れて行ってください」

「了解しました!」

「ノグヂザーン!!」


 ノーグルスタチカの即答と自警団の迅速な行動によって、村の騒ぎは一瞬で収まった。




 騒ぎが徐々に大きくなり、異変に気付き駆けつけた自警団は、到着するなり迷うことなくニコを連れ出そうとした。





 後に残った者は、ノーグルスタチカとノーグルスタチカにしか見えないクリフだけだった。


 クリフは彼女の背中に張りつくように、彼女の後をついて行こうとしたため、彼女は気持ち悪い視線と圧迫感に耐えかねて思わず怒鳴ってしまう。


「私は睡眠を邪魔されることが1番嫌なの! 今日はもう疲れたから寝させて欲しいわ!」

「いや、儂の願いを聞いて欲しいのだが……」

「せめて明日にして! 私は今日この村に来たばかりで、疲れたの!」

「明日……明日……」


 ノーグルスタチカはクリフをきつく睨み、彼が消えるまでずっと待った。

 クリフはどうしても彼女に願いを聞いて欲しく、彼女の周りをひとしきり彷徨った後、溜め息と共に彼女の背中から離れた。


 気付いた頃には彼女から圧迫感は消えていた。




 周囲に怪しい人影がないかをつぶさに確認して、安心した彼女は走ってベッドへ向かい、シーツに潜り込み、その夜は終わった。






 夜が明けて、ノーグルスタチカはすぐに昨晩の思い出を起こした。


 現実とかけ離れたそう遭遇することはないであろう出来事に、彼女は夢であると疑った。

 夢であったことにして片付ければ、彼女の生活は彼女の思い描く堕落生活の軌道に乗るからである。




 しかし、自警団の団員2人が彼女のもとを訪れたことにより、彼女の現実逃避は脆くも打ち破られてしまう。


「ノーグルスタチカさん。村に来ていただいて早々悪いのですが、昨晩のことについてお話がありまして」

「ニコという娘についてなのですが」

「あ、やっぱり昨日のことは夢ではなかったのね」

「信じ難い出来事だったので、夢だと思うのも無理はないと思いますが、残念ながら現実です」




 彼女は団員に連れられて自警団の詰め所に向かった。


 彼等は始めに彼女に謝罪をした。

 なぜ、ニコではなく彼等が謝るのか、不思議に思った彼女は素直に理由を尋ねた。


「村長の娘とはいえ、困った子ですよ」

「ちょっと……抜けてるところがあるというか。はっきり言ってしまうと馬鹿なんですよ」


 2人のオブラートに包まない言い方に彼女は愛想笑いをした。

 彼女自身も、1日だけではあるがニコと接して思うところはあった。


 おっとりや天然では片付けられない異様な感覚のずれと、ニコの時間だけ他に遅れているかのような妙な間の伸び方には、ノーグルスタチカも不思議に感じていた。


 村の特色として時間に甘い慣習があるなら、村人全員が同じような感覚を持つだろうが、この村ではニコだけがずれている。

 2人の話からノーグルスタチカはそう察することができた。




「ニコは悪い奴ではないんですがね」

「突拍子がなさすぎることを突然するので、村の仕事は何1つ任せられない」

「それなら私は酷い対応をしたかも。彼女には謝らないと」

「いやあ、ノーグルスタチカさんは気にしないでください。あいつが馬鹿なのがいけないんです」

「そうそう。面倒だと思ったら、話しかけられても無視してくださいよ」

「あ、私のことはノグチと呼んでください」


 2人との会話を円滑に進めるために、ノーグルスタチカはあくまで2人の冗談に笑いながら接した。

 しかし、彼女の内心は作られた笑顔とは逆の心情であった。


(平気でそう言うってことは、この村は彼女のことを無視するのが当たり前なのね)


 打算で人間関係を作ろうとする彼女は、誰とでも程々に仲良くできる自信があった。

 そしてこれまでの経験から、知り合うことが無駄だと思える人間はいないと彼女は考えている。

 必ず利用価値がある。捨てるものなどない。


 例えどうしようもない馬鹿が相手だったとしても、その者の話を聞く価値がないと最初から決めつけることは、彼女にとってはできないことだった。

 更に彼女は腐っても村長の娘である。この先彼女が、村で円満に暮らしていくには、ニコとの繋がりは必要不可欠なものであると考えている。


 故にニコとの人間関係を諦めた村人たちのことを、彼女は勿体ないと思った。




 自警団の詰め所は、村の中心部と村の北側と南側の3箇所存在する。

 村の中心部にある詰め所は、いわゆる本部としての役割を果たしている。村のどの地点で異変が起きようとも、すぐに駆けつけられるように、北側や南側の詰め所と比較して、建物は大きめで団員も多く待機している。


 教会から僅か数分の距離であることは、ものぐさなノーグルスタチカにとって喜ばしいことであった。




「まあニコも反省していますし、もう2度とノグチさんに会わせたりしませんから安心してください」

「いえいえ。私も昨日は動揺していました。彼女を避けることは、神の教えに反しますし、これからも彼女と接したいです」

「さすが教会のお方です。若くても立派なお考えだあ」


 これでノーグルスタチカの印象は自警団に良く伝わるだろうと思った彼女は、彼等に見えないように悪い笑みを浮かべて喜んだ。




 詰め所に到着してすぐに、彼女は自警団の団長ラックとニコ、そしてニコの父親ヘンリーに出会った。


「ノーグルスタチカさん、ですよね?」

「はい。ノグチと呼んでください」


 ラックは案内役の団員が話したこととほぼ同じことを彼女に伝えた上で、ニコのしたことを許して欲しいと言った。ラックの説明に続いて、ヘンリーが彼女に何度も頭を下げて謝罪した。


 彼女はここでも度量が広い振りをして、寛大な心を持った女であることをアピールした。

 彼等は彼女の態度に対して、何と心の広い人であるかと感動する。彼女はまた喜ぶ。


 ニコは父が持ってきた衣服を着ていて、昨晩の変人振りとは打って変わって見た目だけは普通の人に見えた。

 頭を常に下げっぱなしであったが、目元を赤く腫らしていることをノーグルスタチカは見逃さなかった。


「お前も謝りなさい」

「……ごめんなさい」

「こちらこそごめんなさい。でも、私の知らない所で勝手に部屋に入って来ることは、びっくりするからやめてね?」

「……はい、もう2度としません」

「それなら良しっ!」


 ノーグルスタチカの笑顔を見て、周囲のヘンリーやラックたちはホッと胸を撫で下ろした。


 その様子を見たノーグルスタチカは不審に思った。

 ニコの不思議な行動の顛末として、ニコの謝罪の場を設けたにしては、やけに彼等が真剣である。彼等自身が、ニコの行動を日常的に起きる何気ないことだと言っていたにも関わらず、彼女が謝罪を受け入れてくれない可能性に怯えているようだと、彼女は感じた。


(私が怒って村から出て行くことを恐れていたのかしら?)




 一瞬は考察してみたが、考えすぎかもしれないと思ったノーグルスタチカは、ニコとの和解の場は丸く収まったと考えて、教会でひと眠りするべく足を帰そうとした。


 しかし、彼女は慌てたヘンリーに呼び止められる。


「あの、ご相談があるのですが、少しよろしいでしょうか?」


 神妙な面持ちのヘンリーに対して、ノーグルスタチカは内心焦った。まさか、今日も面倒なことが起きるのではないかと心配になった。


「何でも聞いてください!」

(ああ、私の昼寝の時間が……)


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