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第95話 平和な小夜

 エデルの屋敷は普通の見た目ではあるが、それなりに大きい屋敷だった。


「エデルも引き取られたんだよね」

「うん。でもここは僕の屋敷だから、僕の他は使用人しか居ないよ」

「そうなんだ」


 さすが官僚と言うべきか。

 義両親に貰ったというよりは、自分の稼いだお金で買っていそうだ。


「今夜はこうなることを見越して準備はしてあるんだよ。…一人増えたけど」

「あはは…」


 何の知らせもなく突然現れたノーヴァのことだろう。

 前から来るつもりだったのなら、事前に宿も決めておけば良かったのに。


 ノーヴァは義理の家族でもなく、ただの友人なのだから。


「身内じゃないのに泊めてもらうのは悪いと思ってますよ。ただ僕は一人で来ましたし、どこに何があるかもわからないんですよね」


 リヴェスとノーヴァが乗っていた馬車も屋敷に到着し、ノーヴァがそんなことを口にしながら出て来た。


「ヴィズィオネアのことを調べていたんじゃないのか?」

「人や情報収集をするだけで、ヴィズィオネアの街に何があるかまで調べてませんよ」


 確かによく考えてみれば、ノーヴァは自分で直接探すことは少ないなと思った。

 人を使って調べたり、詳しい人に聞き込みをして情報を集めるのがほとんどだろう。


「そうそう、姉さんの部屋はあるけど客室は二部屋しか用意出来てないから、考えといてね。僕は準備があるし、案内は彼らに任せるよ」


 エデルはそう言い残して、先に屋敷の中へと入って行ってしまった。


(私の部屋、用意しててくれたんだ)


 ルーペアトがどんな人物なのか詳しく知らなかったはずなのに、姉だからという理由で部屋まで用意してくれていたことに嬉しくなる。


「なら、俺とハルトが一部屋で良いな」

「そうだね」


 リヴェスの意見にはルーペアトも納得だ。

 しかし、何故かノーヴァが不満そうな顔をしている。


「そこは夫婦なんですし、一緒に寝たらどうですか?」


 ノーヴァの言葉にルーペアトとリヴェスは固まってしまう。


 言っていることに何も間違いはないのたが、そのことを今言われるとは思いもしなかった。


「聞かなくてもわかるだろ」

「結婚した理由は知ってるよ。まだ一緒に夜を過ごしてないとは思わなかったけどね」

「人様の家で手出しはしないからな」


 リヴェスの言葉の意味を理解したルーペアトは、恥ずかしさに居た堪れなくなって、別の話題を切り出す。


「そ、そういえば、二人共仲直り出来たんですね」

「ああ、ルーとハルトには迷惑かけた、すまない」

「やっとかぁ。この日をどれだけ待ちわびていたことか」


 リヴェスとノーヴァの仲が拗れてしまったのは、リヴェスが両親を手に掛けたことが大きな理由だからこそ、ティハルトは罪悪感を抱いていたのだろう。


 二人のことを一番よく気に掛けていたし、誰よりも二人が元の関係に戻ることを望んでいた。


(…良かった)


 ルーペアトは三人の仲睦まじい姿を見て、自分も嬉しくなり心の底から安心した。



 それから、それぞれ部屋に案内された後、暫くして準備が出来たとエデルに呼ばれ、食事をしに向かう。


 真っ先に視界へ飛び込んできたのは、大きな机に置かれたたくさんの豪華な料理だ。

 見たことのないものから、懐かしいものまで、種類豊富に料理が並べられている。


「まだ終わってないけど、今日はお祝いみたいなものだから、盛大に準備したんだよ」

「凄いね。義両親が昔作ってくれたものもある」

「それはヴィズィオネアの伝統料理だからだね」

「そうだったんだ」


 緊張したりで全然食事を取っていなかったし、たくさん動いたからかなりお腹が空いている。

 これから食べるのが楽しみだ。


「食材も僕らが育てているものがほとんどだよ。国民に作り方を教える前に、まずは自分で作ってみないとだからね」

「そうなの…!本当にエデルは凄いね、私は花のお世話でいっぱいいっぱいだから」

「なんか姉さんらしいね」


 剣術以外のほとんどはエデルが受け継いでいるのかもしれない。

 どちらかというとエデルは母親に似ていそうだ。


 エデルと話をしていれば三人も入室してきて、それぞれ自分の席へと座った。


「じゃあ、今日一日お疲れ様!」

「「お疲れ様でした」」


 ティハルトの言葉と共にグラスを交わし、硝子の良い音が室内に響く。


 その後はミランなど仕事や事件に関する話は一切することなく、ただ楽しく会話を楽しみながら食事をしていた。

 ハインツでは当たり前だった平和の時間が、やっと訪れたという感じだ。


 ヴィズィオネアに来る少し前からずっと気を張っていたから、ようやく何も気にせず落ち着ける。


(これからもこんな日々が続いていくと良いな)


 難しいかもしれないが全て終わったら、ウィノラやイルゼも呼んで皆で食事がしたい。



 楽しかった食事の時間も終え、湯浴みと着替えも済まし後は眠るだけだ。


(疲れたし、明日に備えて早く寝ないとね…)


 今日という日は一生忘れられない日になる。

 楽しかったこと、辛かったこと、悔しかったこと、出来事の一つ一つを胸に刻み込むように、ルーペアトは静かに眠りについた。

読んで頂きありがとうございました!


次回は木曜7時となります。

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