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第90話 ミランの最終手段

 会場の外には貴族達が集まっていた。

 ヴィズィオネアの騎士は居らず、今は外の方が安全そうだ。

 問題はこの後ミランが何をしてくるか。


 出口から少し離れた所でリヴェスとルーペアト、そしてリヴェスの部下達が剣を構えてミランが出て来るのを待つ。

 すぐに後を追って来れなかったのか、なかなか姿を現さなかった。


「出て来ないな」

「そうですね…」


 中へ様子を見に行こうかとしたところで、ようやくミランが姿を現す。

 少し目元を押さえながら、物凄い剣幕をして出て来た。


 更には、かなり殺気立っているのがわかる。

 その殺気には思わずルーペアトも剣を強く握った。


「やってくれたな…。これ以上俺の邪魔をするなら、もうお前ら全員あの世に送ってやる」


 ミランが本気でここにいる者達を殺すつもりだと気づき、リヴェスがすぐさま斬りかかろうと、剣を振り上げミランに一歩近づいた。


「動くな。ロダリオ、これは何だと思う?」


 そう言ってミランが上着の中から取り出したのは、何かのスイッチの様だった。


「まさか…吹っ飛ばす気か?!」

「ご名答、さすがだな」


 ルーペアトはそれがどういったものなのか、全くわからなかった。

 そもそも機械を目にすることもほとんどないからだ。


 しかし、リヴェスはすぐにわかった。

 ハインツでは最近、火薬を使った武器を開発しているところであり、もう少しで初めての銃が完成するからだ。


 火に近づけず、しっかりと保管しておけば問題はないが、火薬は非常に危険で気をつけなければ爆発してしまう。

 恐らくミランが持っているスイッチは、爆発を目的として火薬を使っているのだろう。


「一応言っておくがこれは見せかけじゃなく、本物だからな」


 ミランがスイッチを押すと近くにあった山から破裂するような音が聞こえた。


「今のは本物だと見せつけるための物で、会場にあるのはあの何倍も強い威力がある。もう一度押せばお前らはお終いってわけだ」


(そんなものを作っていたとは…予想外だった)


 ヴィズィオネアに爆発物を作る技術があるとは思わなかった。

 勿論、他国の人間がヴィズィオネアに送った、あるいは買い上げたのかわからないが、それよりも早く解決策を練らなければいけない。


 皆を避難させたいところではあるが、今のミランは容赦なくスイッチを押すだろう。


「…それを押したらお前も死ぬぞ、良いのか?」

「ああ、構わない。皆殺しに出来ることに変わりはないんだからな」


 貴族達は死の恐怖から、叫んだり逃げようとする者が出始めた。


「皆さん落ち着いて、動かないように」


 ティハルトが声を掛けるも、声が掻き消されて離れた所にいる貴族には届かず、事態が良くならない。

 ミランを刺激するようなことをしてはいけないのに。


「おい、お前ら死にたいのか?俺はロダリオと話してるんだ、黙れよ」


 殺気立った目で睨まれ、貴族達は黙って辺りは静かになった。


 ルーペアトはただひたすらにスイッチを奪える隙がないか窺っているが、全く隙がない。

 隣にいるエデルも焦った表情をしていた。


「まずいな…、もしかしたら会場に皇帝と皇后が残っているかもしれない」

「え?」


 エデルの小さな呟きを聞いたルーペアトは、驚いて言葉を失う。

 確かにハインツの皇帝が来ているにも関わらず、ヴィズィオネアの皇帝と皇后は顔を出さないし、こんな騒ぎにもなっているのにと思っていた。


 それをミランの作戦だと思い込んでしまっていたのだ。


「あいつの騎士が少ないのもそれが理由だと思うんだ。皇室の騎士全員がミランの部下ってわけじゃないから、そっちに人員を割いているのかも」

「でも、もう救出のしようが…」

「爆発を阻止するしか方法はないね」

「そんな…」


 ミランに隙がない以上、今は言われた通りに動かずにいることしか出来ない。

 本当にほんの少しでも隙が生まれたら良いのに。


 とりあえずはリヴェスに任せるしかないだろう。

 ミランもそれを望んでいるようだから。


「ロダリオ、俺がスイッチを押さない条件は一つだ。お前が皇帝になることを諦めて降伏し、ルーペアトを渡せば良い」

「それは無理だな」

「おいおい、愛するルーペアトが死んでも良いのか?」


 ルーペアト達が冷や冷やしながら見守る中、リヴェスは表情を変えることなく、冷たくミランに言い放つ。


「公爵の俺が降伏をしても意味がない。そもそも、それはスイッチを押さない条件であり、俺達を殺さない条件ではないだろう」


 リヴェスの言う通りだ。

 スイッチを押さなかったとしても、リヴェスやエデル、ヴィズィオネアの貴族達が殺されないとは限らない。


「それに、彼女を渡してもお前は皇帝になれない」

「何を言っている?ルーペアトが皇族の血筋とはいえ、皇族になるのは俺だ」

「いや、お前は彼女に勝てないだろう」


 例えミランの望み通りにしたとしても、今ルーペアトがずっとミランに隙が生まれないか窺っているように、ルーペアトは一生ミランの隙を狙い続ける。


「お前は一生命を脅かされながら生きることになるぞ」


 ルーペアトはもう昔のように人を殺めたりするつもりはないが、リヴェスや大切な人達を殺されてしまえば、正直なところ自我を保てる自信はない。

 もう一度大切な人達を失ってしまえば、今度こそ生きる気力を失ってしまう。

 自分で自分の命を絶ってしまう可能性もある。


「あぁ…そうだったな。ルーペアトは本当に厄介だ。剣に興味があるなら良い駒にしてやろうと兵士にさせたのに、才能があったせいで面倒なことになった」


(兵士にさせた…?)


 ルーペアトが兵士になったきっかけは、義父に剣術を教えてもらっていたところを軍人に見られたからだ。

 ミランがさせたということはあの軍人はミランの部下で、ルーペアトを監視していたのかもしれない。


(ずっと手の平の上で転がされていたってことね…)


 兵士になったのも義両親が殺されたのも、全てミランのせい。

 あの日、ヴィズィオネアから逃げ出していなければ、今もミランに人生を狂わされ続けていただろう。

 

読んで頂きありがとうございました!


次回は日曜7時となります。

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