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第9話 恩人と名乗る男

 翌日になり目が覚めたルーペアトは風邪を引いてしまっていたが、リヴェスに昨日のことを話していた。

 話すにあたってルーペアトが暗殺者を殺したことは秘密にしなければいけない。


「昨日、私を殺す目的で暗殺者達が襲って来ました。助けてくれた方がいたのですが、暗くて見えず顔をよく覚えていません」

「そうか…」


 本当は助けてくれた人なんていないが、誰もルーペアトが殺したと思わないだろうから信じてくれるはず。

 暗殺者の中で一人残した男が何かを話せば嘘に気づかれてしまうかもしれないが、そんな男よりはルーペアトの話を信じてくれると思う。


「必ず誰が仕向けたのか、はっきりさせる。だからルーは今は身体を一番に考えてくれ」

「はい、お願いします」


 リヴェスが部屋から出て行き、引き続き捜査を始めようとしていた。

 廊下に出た後、後ろからリヴェスに話し掛けて来たのはルーペアトの侍女であるミアだ。


「あの!公爵様」

「君は確かルーの…、どうした?」

「実は昨夜、お嬢様の服を洗っていたのですが、雨でわかりにくくなっておりましたが確かに血が付いていたんです」

「血が?怪我をしていたのか?」

「いえ、浴室で確認しましたが怪我はありませんでした」

「そうか。情報の提供に感謝する」


 リヴェスはミアの話を聞いて疑問に懐うことがあった。怪我がないのに血が付いていたということは、付いていたのは返り血だということ。しかし、護衛も助けてくれた人も、ルーペアトに血が付くように戦うのか、という疑問だ。

 外に出ていても必ず庇う様に戦うから、風がルーペアトに向いていても掛からないはず。


(何か隠していることがあるのか…?)


 そう考えたが、ルーペアトが単に忘れていただけかもしれないし、怪我なかったから言う必要がないと判断した可能性もある。

 ルーペアトが黒幕を庇っているわけではなさそうだし、血のことはあまり重要ではないのかもしれない。


 それから監獄に入れられた男に話を聞こうと試みたが、やはり怯えて何も言わず情報は得られなかった。


 数日が経ってルーペアトの風邪も治り、捜査に加わろうとしていたところ、またミアが部屋に入って来る。


「お嬢様にお客様が来ています」

「誰が来たの?」

「名前はわからないのですが、お嬢様を助けた人だと仰っています」


 助けてくれた人なんていない、つまりその客人は嘘をついている。

 これも夫人の仕業なのではないかという気持ちが更に強くなっていく。


「わかった」


 とりあえず、ルーペアトは会いに行くことにした。その客人から証拠になりそうなものが得られると良いのだが。

 屋敷から出ると、来ていたのは貴族の男だった。

 来るなら騎士か衛兵だと思ったが違うらしい。


「あなたが私を助けてくれた人ですか?」

「そうだ。あんな惨状を見たのに元気そうですね」


 男はそれっぽいことを言っていることから、ある程度状況の説明はされているようだ。

 貴族とは言え、服はそんな良い服に見えないし、爵位は低い方だろうか。例えばデヴィン伯爵家より下の家門とか。それなら夫人も操れるだろうし。


「ミア、お客様を『手厚く』もてなす準備をお願い」

「はい!」


 そう言えばミアは嬉しそうに中へと戻って行った。


(ああ言っておけば、ミアはすぐ戻って来ないはず)


 監視を遠ざけた今、この嘘つきを好きにすることが出来る。

 さあどうするか。


「本当に私を助けてくれたんですよね?」

「そうだと言っているだろう?俺はお前の恩人だ。信じたから侍女に準備をさせに行かせた、違うかい?」

「違いますよ。とにかく、私を助けてくれた人なら、私より強いですよね?」

「はあ?当たり前だろう」


 ルーペアトは男に笑顔を向けた。


「じゃあ私と戦いましょう。あなたが勝てたら信じてあげます」

「何を言っているんだ?そんなの俺が勝つに決まっているだろう」


 男はルーペアトの言葉に対して余裕そうな笑いを浮かべていた。

 しかし、男はあまり剣術に長けていない様に見える。何故なら服の上からでも身体付きが剣を扱う人の身体じゃないからだ。

 男なら誰を送っても良いと思っていたのかもしれないが、そんな簡単に事を進めさせるわけがない。


「ならジェイと戦わせろ」


 突然リヴェスの声が聞こえて、ルーペアトは慌てて後ろを振り向いた。 後ろにはリヴェスとジェイが立っていて、すでにジェイは木刀を手にしている。


(聞かれてた…、でもこれくらいじゃ気づかない…よね?)


 ルーペアトの話が聞こえてすぐに、ジェイに木刀を持って来るように言ったのだろう。

 二人して行動が早くてびっくりする。


「ルーが戦うのは危ない」

「わかりました。ジェイ、お願いします」

「了解しました!さあ、対戦と行きましょうか」

「は?!何でだよ!」


 ジェイは持っていた木刀を一つ男の足元に投げ、男のそばに行き構えた。

 しかし、やはり嘘をついている男はこの展開に納得がいかないらしく、反発の声を荒げた。


「ルーは助けた男の顔を覚えていない。だから確認する必要がある。その男は俺の部下が倒せなかった敵を倒したんだ、それなりの腕があるに違いない。だから彼と戦えばわかるだろう?」

「くっ…!わかったよ!やればいいんだろ」


 男は木刀を拾い上げ、ジェイに向ける。

 その姿を見てルーペアトは、やはりこの男は剣をあまり扱っていないという判断が正しかったことに気づいた。

 木刀を持った男の立ち姿が綺麗ではないのだ。この勝負は見るまでもないだろう。


「じゃあ行きますよ」


 そう言って先に動いたジェイは男をすぐに圧倒していく。リヴェスの部下で側近であるジェイはさすがの腕前だった。

 ルーペアトはジェイの太刀筋と素早さにとても関心する。


(やっぱり男性だから私より力もある分、速さがある)


 側近なのだから、リヴェスの部下の中でもかなりの腕前なのだろう。

 数分も経たない間に男はジェイの攻撃で尻をついてしまった。

 その様子にリヴェスも呆れた表情を浮かべている。それはルーペアトも同じだ。


「勝負が決まったな」

「そうですね」


 最後に男が一度でも攻撃を当てたいと考えたのか、大きく木刀を振った。それをジェイが弾き返そうと木刀同士がぶつかりそうになった時、男は木刀の向きを変え弾かれた木刀がルーペアトの方を目がけて飛んで来る。


 当たると思ったルーペアトは咄嗟に右に居たリヴェスの左腰に携えている剣を左手で引き抜き、木刀を真っ二つに切った。

 そうすれば一つの破片は地面に刺さり、もう一つの破片は男の頬を掠めながら後ろの木に刺さる。

 男の頬から血が流れ、男は青ざめてその場を急いで去ってしまった。


「追いかける?」

「いや、いい」


 ジェイは追いかけようとしていたが、リヴェスがそれを止めた。

 追いかけなくても誰かわかるし、最初から違うのもわかっていたから良いのだろう。


 それよりもだ。ルーペアトはリヴェスの前で剣を扱ってしまった。これは疑われてもおかしくない。


「あ…えっと…とりあえずお返しします」

「ルーはいつも判断が早いな。俺が剣を抜くよりも早かった」

「そうですね…反射神経は良いかもしれない…です…」


 言葉の最後の方はほとんど聞こえていないだろう。

 剣をリヴェスに返した後、何を言われるだろうと目線を合わせられずにいた。


「飛んで来たものに当てられるのは中々出来るものではない。今回は当たったから良かったが、これからは俺を信じてくれると嬉しい」

「…はい」


(変に思われてない…?)


 どうやらまぐれで当たったと思われているかもしれない。それか、触れないようにしてくれているのかもしれないが。


 屋敷に戻ろうとしたところでミアが丁度屋敷から出て来た。


「お嬢様、準備が出来ましたよ…あれ?」

「帰ったよ。あの人は私の恩人じゃなかったから」

「そうですか…残念です…」

「せっかく準備してくれたのにごめんね」

「いいえ!嘘をついたあの人が悪いんです!」


 そう話ながらルーペアトはミアと部屋へと戻って行き、その時リヴェスはジェイと屋敷の外に居たままだった。

 さっき出て来たのは外に行く用事があったからなのだろうか。それともルーペアトを助けたと名乗る人物を見に来たのか、それを聞くと疑われる可能性があるから聞くことはしない。


「リヴェス、お嬢様が咄嗟に剣を抜いて木刀を真っ二つにするまぐれ何てあるの?」

「俺はないと思う」

「だよね。さっきのルーペアト様の太刀筋は完璧だったし」


 それだけではない。ルーペアトは左手で剣を扱ったのだ。リヴェスはルーペアトが書類に名前を書く時、右手を使っていたことを覚えている。

 それは日常でも同じで、常に右手を使っていた。つまりルーペアトは右利きなのだ。

 なのに左手で剣を扱いあんなに正確に切れるのはまぐれで出来ることではない。


「絶対とは言い切れない。だが、ルーが暗殺者を片づけた可能性は全然あるな…」


 初めて会った日だって、怪しい男をすぐに追いかけて投げた靴も命中させていて、更には尋問しようとしていた。

 普通の令嬢が出来ることではない。

 それに、ルーペアトがしたと考えるなら、返り血が付いていたことに納得がいく。


 本当は助けてくれた人も居なかったのかもしれない。だからルーペアトは男と戦って追い返そうとした。


(そうだとすれば、侍女に準備をさせに行ったのは何故だ?)


 リヴェスは考えながら落ちていた木刀の破片を拾い上げた。本当に綺麗な断面をしている。


(ルーは養子だったな…。その前は一体何をしていたんだ?)


 孤児で生きる術として剣術を教えてくれた人がいたのかなど、リヴェスは疑問が浮かぶばかりだった。

読んで頂きありがとうございました!


活動報告にて報告させて頂きましたが、突然の変更申し訳ありませんでした。

立て続いて大きな出来事が起こっていますが、皆様身体の方と気持ちの方は大丈夫でしょうか?

少しでも私の作品が心の支えになればいいなと言いたいところですが、この作品は今の段階だと気持ちが下がっている時に読むべきではない作品だと思っています。

なので、私の二作目だと明るい話なので、この作品を読むのが今辛いと感じる方がいらっしゃれば、読むのは中断していただいて、二作目で元気をもらってくれたらいいなと思います。

皆様に笑顔が戻ることを切に願っております。


次回は金曜7時となります。

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