第89話 愛なんてくだらない
部屋に剣がぶつかり合う音が響く中、ルーペアトはミランの気を少しでも逸らそうと話を振る。
「あなたはどうしてそこまでして私と結婚したいの?」
「俺は皇帝になって全てを手に入れるんだ!それをロダリオに奪われてたまるものか」
皇太子なのだから、本来なら何もしなくても皇帝になれた。
ミランが国を導く者として相応しい人間であったなら、こうしてリヴェスと皇帝の座を巡って戦うこともなかったのに。
国の未来も国民のことも考えられない上に、好きなように贅沢な暮らしをしている人間が、これ以上何を望むというのか。
皇帝という最高位の身分と伴侶以外、全て持ち合わせているだろうに。
「お前は良いよな。両親も引き取った親もお前を愛して、さらにはお前を愛する男までいるんだ。何でいつも!お前ばっかり幸せなんだ!?」
その言葉にはルーペアトも反論せずにはいられない。
ルーペアトだって幸せばかりだったわけじゃないのだ。
愛する義両親は殺されて、その後拾ってくれた人に冷遇されるし、終いには殺されそうにもなったのだから。
「大好きな義両親が目の前で殺されて、私がどんな気持ちだったと思う?私ばっかりって言うけど、義両親やリヴェス達と過ごしていた時以外、幸せだと思ったことはない!」
「俺は幸せだと思ったことなんて、一度もないんだぞ!!」
ミランはリヴェスの攻撃を強く弾いた後、動きを止めて話し出す。
その様子にリヴェスも攻撃を止め、黙って話を聞き始めた。
「どうしてお前も、お前の両親と弟も生きていると思ってる?」
「私の目の前で殺すためじゃないの?」
「違う…、全部父上のせいだ!」
つまりヴィズィオネアの皇帝というわけだが、ルーペアトからしてみれば、皇帝のおかげで生きているということになるのだろうか。
「父上はお前の母親が好きだったんだ。だがお前の母親は別の男と結婚した!その結果、父上を愛していた母上と結婚し俺を産んだ。母上は父上にしか興味はないし、父上も愛していない女の子供なんて気にすると思うか?!」
皇室の間でそんな三角関係があったことに驚いた。
夫を愛しているのに愛されない妻、ミランの境遇はリヴェスと少し似ている。
それでも呪われた子だと冷遇されることはなかったと思うが。
「お前達が生きているのは、愛する女に嫌われたくないから生かされているだけだ!母上も父上に嫌われたくないから父上の言いなりになっている。愛なんてくだらない!馬鹿馬鹿しいにもほどがある!」
そんな両親のせいで息子であるミランはこんなにひん曲がった性格になったのだろうが、皇帝がルーペアトやエデルを生かしていたことによって、戦争に勝利出来たし国がまだ崩壊せずにいられたのだろう。
意図していたのか偶然なのかもわからないが、理由はどうあれルーペアト達を生かしたことは良い判断だった。
「だから俺は邪魔な奴も両親も殺して、皇帝になってやる!」
「リヴェスを人殺しだと罵っておきながら、同じ道を辿るんだね」
「一緒にするな!!」
(どう考えても一緒でしょ…)
リヴェスは自身の命とティハルトを救うために起こした事だが、両親を殺した行動自体は正しくない。
他に方法は探せたものの、ティハルトが監禁状態になってしまい、どうにかしようと急いだことであの結果になってしまった。
ミランの境遇にはリヴェスも気持ちはわかる。
だからこそ同じ道を辿ってほしくない。
「両親を殺して皇帝になったとしても、お前が満たされることはない。ただ孤独になって死んでいくだけだ」
ミランが皇帝なれば国は崩壊し、お金も食べ物も尽きる。
そうなることをミランも望んでいるわけではないはずだ。
「うるせぇ!そんなことはわかってんだよ!だか俺はこうするしかないんだ…!」
「まだ間に合う。今戦うことを止めれば多少罪は軽くなる」
「もう遅いんだよ」
ミランが再び剣を強く握り、リヴェスも剣を構えようとしたところ、部屋に人が入って来た。
「遅くないけどお前が選べる道は二つだね」
「エデル!」
部屋に入って来たのはエデルだった。
見たところ怪我などはしていなさそうで、ルーペアトは無事に両親を安全な場所まで連れて行けたのだろうと安堵する。
「一生牢獄で過ごすか、改心して国のために働くか。どっちかだよ」
「その道を選ぶわけがないだろ」
「じゃあ牢獄行きってことで。まあそんなことより、姉さんと…う~ん義兄さん?は、とりあえず早くここから出よう」
何でエデルはこんなにも落ち着いているのだろう。
それに、リヴェスを義兄だと受け入れるのも早すぎる。
リヴェスが突然義兄さんと呼ばれて困惑してしまっているくらいだ。
「出るって…どうして?」
「姉さんも気づいてるでしょ、騎士が少ないこと。恐らくこの会場にあいつの最後の手札がある。だから会場から出るべきなんだ」
「わかった。でもどうやって出るの?彼も必然的について来るけど…」
「その通りだ。逃がすわけないだろ」
ミランが不敵な笑みを浮かべながらが扉の方に方に近づいて来る。
「早く!」
エデルに急かされルーペアトとリヴェスは部屋の外に出るが、勿論ミランも追いかけるために足の動きを速めようとしたところで、エデルが懐から何かを取り出した。
「これをお前にくれてやる!」
謎の液体が入った小瓶の蓋を開け、部屋の中に投げつけた。
飛び出した液体は気体になり部屋の中を充満し、ミランを襲う。
「おい!何をした!?」
ミランの問に応えず、エデルは扉を閉めてルーペアトとリヴェスと外に出るために走り出した。
「あれは何なの?」
「ちょっとした目眩ましだよ。目を開けると痛くて暫くは目を開けられないだろうね」
「凄いな…そういう物もあるのか」
二人はエデルに関心するしかなかった。
官僚なのにそういった物も準備出来るなんて、優秀すぎる。
ヴィズィオネアの皇帝が生かしているのも納得だし、エデルは敵に回してはいけない人間だ。
「あ、ちゃんとハインツの皇帝陛下にも会って外に出るように伝えてあるし、会場に残ってるのは僕達だけだから安心してね。あいつの最後の切り札が何かわからず仕舞いだけど」
「私達ならなんとか出来るよ。そのために今日まで準備してきたんたから」
「そうだね。姉さんも義兄さんもいるから安心だ」
エデルのおかげでミランに追いつかれることもなく、安全に会場から出ることが出来た。
作戦もいよいよ終盤に近づいてきている。
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次回は木曜7時となります。




