第86話 独裁者
ルーペアトがテラスから降りた直後、ジェイはリヴェスの元へすぐに報告へ向かった。
「リヴェス様!ルーペアト様は金髪の少年とどこかへ向かわれました」
「金髪の少年か…」
リヴェス達は落ち着いているが、会場はルーペアトが居なくなったことで騒然としていた。
ミランはテラスの下を見ながら何か呟いているが、ここからでは聞こえない。
「ルーがかなり動揺していたが、何を話していたんだ?」
「それが…、ルーペアト様の義両親は皇太子の命令で殺されたのだと…」
「なんだと?!それは予想外だったな…」
(ルーが心配だ)
少年が誰なのかもわからないし、どこへ行ったのかも不明だ。
計画に支障はないだろうが、少年が金髪なのが気に掛かる。
ルーペアトが少年の元に飛び降りたのは大丈夫だとと判断したからでも、本当に信用して良い人間なのか姿を見ていないリヴェスには判断出来ない。
「…ルーが何事もなく会場に戻って来ることを祈るしかないな」
ルーペアトが飛び降りてから数分後、ようやくミランは振り返り、リヴェスの方へ近づいて来た。
「よくも邪魔してくれたな」
「話の邪魔をしたのは俺ではない」
「ふんっ…本当に俺を苛立たせる奴しかいないな」
貴族達は道を開けるように会場の端へと避け、真ん中にはリヴェス達とミランだけが立っている。
ミランは言っていた通り、本当に苛立っているようで、いつ襲ってきてもおかしくない。
「皆よく聞け。あのリヴェス・ロダリオという男は、皇室を排除し国を乗っ取るつもりだ!しかも、自分の両親を殺した男だぞ。貴族派の奴らもそんな男の味方をするのか?」
ミランの言葉を聞いて貴族達は騒ぎ始める。
皇室を排除することを貴族派は知っているから良いものの、余計なことまで言われてしまった。
(何故それを知っているんだ…)
それはあまりにも予想外だった。
まさか両親を手に掛けたことを知られているとは思わず、これでは築き上げた貴族派の信用が落ちかねない。
不安に思っていたところ、一人の男が声を上げた。
「殿下も、両陛下も国民を大切にされていない。このままではヴィズィオネアも終わりです。ですが、リヴェス様が国を良い方向に変えていくと約束されました。そういった過去があろうと、私達は今日まで見てきた彼らの行動と言葉を信じています」
そう言ってくれたのはシュルツ公爵だ。
シュルツ公爵の言葉を聞き、他の貴族派もミランに反対するように声を上げてくれる。
皇室派も認めないなどと騒いでいるが、貴族派の声に掻き消されほとんど聞こえない。
「俺が両親を手に掛けたのは事実だが、お前も俺の妻の義両親を殺すよう命じたのだろう?お前だって人殺しに変わりない」
「俺の妻になるはずだった奴を奪った罰だ」
「それだけじゃない。お前はこれまで、どれだけの国民を見捨てて来たんだ」
「見捨てたことなんてない、勝手に死んだんだ」
(こいつ…)
どこまで自分勝手なのだと、リヴェスはミランに対して怒りが込み上げてくる。
ルーペアトがミランの妻になる予定だったというのも気に入らない。
「ハインツの皇帝である僕から言わせてもらうと、今の皇室は国と民を守って導く者と言うより、ただの独裁者だね。僕達が何もしなかったとしても、今のままだとこの国はいずれ他国に滅ぼされただろう。君は皇太子という立場でありながらも、役目を忘れて皇太子の肩書きに酔い痴れているだけだよ」
「黙れ!お前に俺の何がわかる?!」
先代がいた皇室はこんなに酷いことはなかったのに、何故こうなってしまったのだろうか。
そう考えた時、真っ先に浮かんだのはルーペアトの両親の存在だ。
恐らくルーペアトの両親は優秀で、先代から引き継いだものが多かったかもしれない。
国の状況をどうにかしようにも出来ずにいることから、幽閉されているか既に殺されてしまったかのどちらかだろう。
会場近くにいるかもしれないが、ルーペアトの両親も探す必要がある。
「お前の事情なんてどうでもいい。どうせくだらない話だろう」
「くだらないだと?ふざけるなっ!俺はずっと邪魔されてきたんだ。ルーペアトが帰って来た今、俺の計画は達成目前、もう誰にも邪魔させるか!」
リヴェスがわざと挑発させるようなことを言ったため、ミランは怒りに震え剣を抜いた。
「ここにいる奴ら皆殺しにしてやるよ!」
ミランはリヴェスに飛び掛かってくるが、勿論リヴェスは難なく剣で跳ね返す。
ジェイや他の部下達も会場へ入って来て、戦う準備は万全だ。
「皆は外に逃げろ!シュルツ公爵の誘導に従って会場を出るんだ」
リヴェスとミランが剣を交え始めたことで、貴族達は慌てて会場を出ようとしていた。
その対応もしっかり準備しておいたため、皆は安全に外へ出られるはずだ。
「君は僕から離れないようにね」
「え、ええ…。でもこのままじゃ良くないわ」
「どうかした?」
「皇室の騎士がここに集まってくるはずよ。そうしたら彼は逃げるわ」
イルゼは婚約者候補だっただけに、ミランのことは嫌でも多少理解している。
ミランがリヴェスと真っ向勝負をするとは考えにくいのだ。
「本当にお前みたいな女は嫌いだ」
「私だって嫌いよ」
会場から貴族達が全員居なくなり、その後すぐに皇室の騎士が会場へ入って来た。
リヴェス達の三倍は居るだろう。
「俺はルーペアトを追う。お前らはここでくたばっておくんだな」
ミランはテラスの方へ走り出し、身を乗り上げ下へと降りて行ってしまった。
リヴェスも後を追いたかったが、この人数では会場に残らざるを得ない。
「皆、さっさと片付けるぞ」
「了解です!」
リヴェスは部下と共に騎士達と剣を交え始める。
戦争は平民に任せているからか、実戦の少ない騎士は思っていたよりも手強くない。
これならすぐに終わらせることが出来そうだ。
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次回は日曜7時となります。




