第83話 色に秘められた真相
テラスに出たルーペアトはミランに向き合って立ち、怒りを抑えながら顔を上げた。
「やっとこうして話せるな。嬉しいよ」
「どうして私と話がしたいのか、理解出来ません」
英雄だからだとしても、一体どんな話を聞きたいというのか。
辛いことばかりだった兵士の頃の話なんて、聞いて気持ちの良いものでもないのに。
「ずっと気になってたんだが、国を勝利に導いておいて何故逃げた?」
「勝利に導いたと言えば聞こえは良いけど、私はただの人殺しだけど?」
「敵を殺して何が悪い?自分の親を殺したロダリオの方が人殺しだと思わないか」
「なっ…!」
(どうしてそれを知ってるの…?)
それは当事者を除いてルーペアトとノーヴァしか知らないはず。
知られているということは、リヴェスが元皇族であることもわかっているのだろう。
「俺が知っていて驚いただろ。昔はハインツの皇宮に人を送らせるなんて簡単出来たんだよ」
(使用人にでも紛れ込んでいたんだね…)
リヴェスが住んでいた方なら尚更、人を送りやすい。
冷遇をしていた両親が使用人の身元をちゃんと確認していたとも思えないし、していても気にしなかっただろう。
「…でも意外ですね。それを秘密にしていたなんて」
「取引していたからな。ノーヴァという商会長と」
「ノーヴァと?」
「ああ。秘密にする代わりとして、英雄の話をハインツに広めて英雄を探せとな」
そういえばノーヴァと初めて会い、英雄について教えて欲しいと頼んだ時、情報源は身分の高い者だと言っていたことを思い出す。
ミランは皇太子であるため、どちらも嘘をついていないのは明白だ。
加えてノーヴァは英雄を探して連れて来るまで頼まれたと言っていた気がする。
(私の正体に気づいたのはノーヴァが教えた?)
その考えが過るも、ウィノラを庇った借りを返されたのはミランがハインツに来た時だ。
返す前に情報を渡したりはしていないと思いたい。
しかし、ノーヴァの言う計画を成し遂げるために必要だった可能性は十分ある。
「こうして会えたことで、もうこの取引は無効だ。ロダリオの素性は話し放題」
「そんなことをしてあなたにどんな得があるっていうの?」
「返してもらうためだ。お前は俺の婚約者なんだからな」
「は?」
「俺の両親はお前が産まれる前から、俺の婚約者にしようと考えてたし、俺もその気だった」
「何を…言ってるの?」
(産まれる前から?どうしてそんな前から私のことを知ってるの…?)
ルーペアトと血が繋がっている本当の両親の行方は知らない。
でもミランとその両親はルーペアトの両親を知っているという。
頭に数々の疑問が浮かび困惑する中、ノーヴァが言っていたもう一つのことを思い出した。
『―金色の髪はヴィズィオネアの皇族の髪色なんですよ』
(そんなことあるわけ…。でも私は両親を知らない)
ルーペアトは自分に隠されていた正体が信じられなかった。
しかし目の前に居る皇太子のミランは、ルーペアトと全く同じ金髪をしている。
「まさか…本当に―」
「気づいたか?お前は皇族なんだよ、俺の親戚だ」
自分が皇族だという事実を突きつけられ強い衝撃を受けるも、親戚であることに少し安堵した。
こんな男と兄妹だったら耐えられない。
「わかったなら、さっさとあいつと離婚して俺と結婚するんだ」
(そうだ、リヴェス!)
皇族だと知った驚きで忘れていたが、リヴェスはルーペアトがヴィズィオネア出身であることを知っている。
つまりリヴェスとティハルト、そしてノーヴァもそのことに気づいていたというわけだ。
(だから負い目とか、この先今までのように一緒に暮らせないかもしれないって言ってたんだ…)
疑問に思っていたことが、自分の正体を知ったことで全て繋がった。
(…本当に、どれだけ私のことを大切にしてるの?)
ルーペアトは思わず顔が緩んだ。
どんな秘密を知っても必死に守ろうとしてくれる人はリヴェスしかいない。
「私はリヴェスと離婚する気なんてないから」
「そんなにあいつが良いのか?あんな奴が!?」
「あなたの何倍も良い人だから。私はこの先もリヴェスと過ごしたい」
こんな男に邪魔されてたまるかと、ルーペアトは啖呵を切って場を離れようとした。
が、両腕で肩を強く掴まれ、阻まれてしまう。
それに気づいたリヴェスがこちらに向かおうとしていたが、今止めてしまったら計画が大きく変わってしまうため、ルーペアトは小さく横に首を振った。
「お前がそんな態度を取るなら、俺には手がある。お前の本当の両親がどうなっているのかと、育ててくれた両親が死んだ理由、どっちが聞きたい?」
「どっちも聞きたくないし…!」
この話は聞いてはいけないと凄く嫌な予感がした。
リヴェスは聞きたくなかったら逃げてくれと言ってくれたが、掴まれていては逃げれない。
「いいから離して」
「お前を育てた親は敵兵が殺したんじゃない。わざとお前の前で死ぬように仕掛けたんだ」
「なんで…嘘…」
あまりにも衝撃な話だった。
殺される両親の姿を思い出してしまい、とても苦しい。
「良い顔だな、絶望したか?お前が殺したも同然だろ?」
ミランはそんなことを言いながら楽しそうに笑って
いた。
その姿が怖くて寒気がする。
「止めて…あなたの話なんて聞きたくない!」
「もう一つの話もしてやるから落ち着けよ」
(嫌だ、聞きたくない…聞きたくない…)
聞きたくないのに身体に力が入らず、この場から抜け出せない。
計画を台無しにしたくない気持ちと、今すぐ逃げ出してしまいたい気持ちが葛藤している。
そんな時、テラスの下から声が聞こえた。
「こっちだ!」
この声はリヴェスでも他の誰の声でもない、知らない声だ。
けれどルーペアトは首を回して下へと目を向ける。
両手を広げて立っていた少年は、同じくルーペアトと同じ金髪の少年だ。
しかし、一つ違うことがある。
ミランは紫色の瞳だったのにも関わらず、少年は瞳までルーペアトと同じアクアマリンの様な綺麗な水色だった。
「飛んで!絶対受け止めるから」
少年が味方はわからない。
でも何故だか、少年の腕に飛び込んでも良い気がした。
ミランも予想外だったのか腕の力が少し緩んだため、ルーペアトはミランを突き放し、テラスから少年の腕へ飛び込んだ。
少年はしっかりとルーペアトを受け止めてくれた。
「追われる前に少し離れよう」
そう言ってルーペアトを下ろし、手を引いてどこかへ行こうとする。
「受け止めてくれてありがとう。あなたは?」
「それは落ち着ける場所に行ってからね」
引かれるがままルーペアトは少年について行き、恐らく会場の裏の方へと辿り着いた。
「ここなら多少話す時間は取れるかな」
「どうして助けてくれたの?あなたも皇族だよね?」
「そうだね。でも、僕はあんな奴と違う。僕はハインツが探していたエデルだよ」
「あなたがエデルだったんだね」
貴族派の官僚が本当は皇族だったなんて。
だから皆してエデルのことを話せなかったのだと理解した。
「うん。エデルであり、弟だよ。"姉上"」
読んで頂きありがとうございました!
次回は木曜7時となります。
ルーペアトも自分の正体に気づき、エデルの正体も判明しましたね!
話を分けることにしたため、かなり情報量の多い話となってしまいました…^^;