第80話 リヴェスの決心
ティハルトが馬車へと戻って来た。
「ただいま。まだ話している途中だった?」
「いや、話し終わったところだ」
「なら良かった。その割には二人共元気がないような気がするけど…。とりあえず宿に戻ろうか」
聞きたいことは聞けたものの、不安が払拭されていないためティハルトに心配を掛けてしまった。
ティハルトの合図で動き出した馬車の重い空気を変えようと、ルーペアトは別の話題を出す。
「…イルゼと話してみてどうでしたか?」
「稀有な令嬢だったね。凄くわかりやすいから話しやすかったよ」
「ハルトがそう言うのは珍しいな」
わかりやすいというのは、何を考えているのか、何を思ったのかがわかりやすいということだろう。
イルゼは素直ではないが、ルーペアトでも何を考えているのかわかるくらいだ。
ティハルトなら、よりそう感じたはず。
「つまり好印象、ってことですか?」
「他の令嬢よりは、ね。でも、僕との結婚は彼女にとって良いものではないだろうから、僕じゃない方が良いんじゃないかな」
「そうですか…」
リヴェスがお似合いだと言うくらいだから、お似合いなのではないかと思うが、やはりイルゼのやりたいことが出来る結婚、というのが大事ではある。
皇后になっても花の世話は出来ると思うが、今より忙しくなって自由な時間が少なくなってしまうだろう。
イルゼの理想である相手を探すのも一苦労だ。
それからはティハルトのおかげで沈黙が続くこともなく、楽しい話から真剣な話まで、色んな話をして過ごしていれば、あっという間に宿に着いていた。
夕食までまだ時間があるため、一旦それぞれ部屋に戻って休むことに。
リヴェスは寝台に腰を下ろし、馬車での会話を思い出していた。
『―ロダリオ家で皆と暮らしていたい』
(…それは、今回のことが終わった後も同じことを思ってくれるだろうか)
リヴェスがルーペアトの代わりに、ヴィズィオネアの皇帝なろうとしていると知った後でも―
そんな不安がリヴェスの思考を支配していた。
本当のことを知ったらリヴェスを巻き込みたくないと、ロダリオ家から離れると言い出すのではないかと。
出来ることならリヴェスだって今のように暮らしていたい。
今の屋敷で暮らすことは叶わなくても、この地で今までのように暮らせたら良いのにと思っている。
お互いに同じことを願っているのに、様々な事情がそれを阻んでいた。
せっかくルーペアトに惚れていることを自覚したというのに。
(やはり俺は…、幸せになることを許されない存在なのだろうか)
苦しみから逃れるために両親を手に掛け身分までも捨て、全てを秘匿して逃げた。
貴族の間では忌み嫌われ、友人との仲も悪くなったリヴェスは、部下になった者達とティハルトだけを信頼し、この先一生ティハルトの影で生きていくはずだったのだ。
しかし、国は違えど自分の役目に向き合う時がきた。
ルーペアトのためにも、もう逃げることはしない。
(必ずこの腐った国を変えてみせる)
リヴェスは部屋で一人決心する。
三人がシュルツ家から帰った後、前と同じくエデルがその場を訪れていた。
「久しぶり、シュルツ公爵」
「お待ちしておりました、エデル様」
いつもと同じ服装のエデルは、フードを被ったまま椅子に座りお茶を飲み始める。
「今日話した作戦の流れや、パーティーの動きについて教えて」
「はい。今回は―」
シュルツ公爵はリヴェスとティハルトの二人と話したことを、エデルにも同じく伝える。
「今後も話したことを僕に教えて」
「承知しました。直接彼らお会いにはならないのですか?」
「僕は気を遣っているんだ。彼らが隠していることを、僕も隠してあげるためにね」
お茶を飲み終えたエデルはそう言い残し、シュルツ家を去って行った。
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次回は木曜7時となります。