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第7話 一難去ってまた一難

 ロダリオ公爵家に来てから数日が経ち、少しはここでの生活にも慣れてきた頃。

 部屋に入って来たミアがあるものを持って来た。


「お嬢様に手紙が届きましたよ!」

「誰から?」

「名前がないので開けてみないとわかりませんね」


 ミアから手紙を受け取り封筒をよく見てみるが、確かに名前はなく至って普通の手紙だ。

 しかしルーペアトに知り合いの令嬢なんていない。夫人が送って来たならミアが教えてくれるはずだし、料亭の人達はここに居ることを知らない。


(他に送って来そうな人いたかな…)


 不思議に思いつつも手紙を開けば、見知らぬ令嬢からのお茶会の誘いだった。

 リヴェスが結婚したことはハインツ内でも知られていることだから、公爵夫人となったルーペアトに手紙を送って来てもおかしなことではない。

 ただ、大事なのは何が目的で手紙を送って来たのかだ。


「お茶会って具体的になにするの?」

「そうですね…、皆でお菓子を食べながらお話しするんだと思います」

「そうなんだ」


 新しくリヴェスの妻になったルーペアトのことが気になる、といったところだろう。

 不気味だったり呪いにかかっていると噂される公爵の妻だ、夜会でも令嬢達が話をしていたほどだし余程気になるのだろう。


「行かれますか?」

「そうだね…、行ってみようかな」

「ではそのように準備しますね!」


 ルーペアトは行ったことも見たこともないお茶会に興味があることと、何か新しい発見があるかもしれないことを考え受けることにした。


 当日になりミアが用意した馬車に乗り一人で向かおうとしていたところ、リヴェスとジェイが慌てて屋敷から出て来る。


「どこに行くんだ?!」

「?お茶会に行くだけですけど…」

「行くのは構わないが、護衛は絶対に就けて行ってくれ」

「護衛も大丈夫ですよ?」

「は?」


 ルーペアトは自分の身は自分で守れるから要らないと判断し、断ればリヴェスは驚いた様に呆然としていた。

 護衛を就けるように言われる理由がルーペアトにはわからず、リヴェスが驚くのも理解が出来ない。


「そんなに驚きますか?」

「護衛を就けずに出かける令嬢なんて見たことない」

「私は今まで護衛を連れ歩いたことはないですけど…」

「それがおかしいんだ」


 どうやら令嬢は護衛を連れて行くものらしい。デヴィン伯爵家に居た時に就けてもらっていなかったのは、てっきりルーペアトが兵士だったことを知っているからだと思っていたが、本当はわざと就けなかったのかもしれない。


「よく今まで無事でしたね…」

「それは…まぁ…」


 ルーペアトの様子にジェイが苦笑いを浮かべていた。言われてみれば確かにルーペアトの見た目の珍しさに話し掛けられることはあったが、何かされそうになった時は返り討ちにしていたため、無事じゃないはずかない。


「とにかく、護衛は連れて行ってくれ」

「わかりました」


 リヴェスに念押しされ、仕方なく頷くことにした。その後リヴェスが数人の護衛を連れて来たため、さすがに多すぎると話し合った結果一人だけ連れて行くことに。

 向かうまでに時間が掛かってしまったが、予定の時間には何とか間に合った。


(庭が凄い…)


 馬車を降りてから、令嬢の従者に連れられて歩いていた道は庭の中で、たくさんの木々や花が植えられていた。

 ロダリオ公爵家の庭は広くてもこんなに植物は植えられておらず淋しい感じがしていたが、さすがお茶会を開く令嬢の屋敷。庭にかなり自信を持っているのだろう。


「待っておりましたわ!ロダリオ公爵夫人」


 そう言ってにっこりと笑った令嬢に、ルーペアトは少し怪しさを感じた。

 他にも令嬢は居て、中には夜会でリヴェスの話をしていた令嬢もいる。これはやっぱりリヴェスについて聞かれるのだな、とルーペアトは察した。


「この度は招待して頂きありがとうございます」

「あなたと話したいことがたくさんの。さあ、座って座って!」


 言われるがままにその令嬢の正面にあたる席に腰を下ろしたが、ルーペアト先程の言葉に疑問を抱く。


(一応公爵夫人なのに、馴れ馴れしく話し掛けて来るんだね)


 相手の爵位は知らないが、ロダリオ公爵の地位は高いと聞く。ルーペアト自身はその様に話し掛けられても、元々平民だったしその方が話しやすくていいけれど、どこかリヴェスを下に見ている様な気がしなくもない。


「あなたはあのロダリオ公爵の妻になったんでしょう?さぞかし大変だと思って私心配で…」

「心配して頂きありがとうございます。でも心配して頂くようなことは何もありませんよ」


 リヴェスの妻になることの何が大変だと言うのか。その理由をルーペアトは知らないし、具体的に話してくれなければわからない。


「っ…!でも、彼は寡黙で冷たいじゃない」

「寡黙?そんな風には思いませんでしたが。それにここに来る時に護衛を就けずに行こうとしたら、慌てて屋敷から出て来ましたし、冷たいとも思いませんでしたよ」

「嘘でしょ……?」


 リヴェスは寡黙どころか話す方だとルーペアトは思っていたのだが、他の人はそう思わないのだろうか。どちらかというとルーペアトの方が話さないと思う。

 リヴェスとジェイと比べるなら、ジェイの方がおしゃべりなのは理解できる。


 冷たいということに関しても、リヴェスは最初から冷たくなんてなかった。夜会で靴が壊れたのはルーペアトの自業自得なのに、靴を用意して更には新しいものを贈ってくれたのだから。


(皆がリヴェスを知ろうとしてないから知らないだけなんじゃ…?)


「私の時なんて何もなかったですわ!部屋にも来ないし、散財して気を引こうとしても何も言ってこないのよ?!」

「部屋に来て欲しかったならそう言えば良かったのでは?後、散財しても何も言われないなんて、むしろ贅沢が出来て良いじゃないですか」

「全っ然良くないわよ!!」

「えぇ…?」


 何が良くないのか全くわからない。それより、会話の内容から考えるに令嬢は元々リヴェスの婚約者だったみたいだ。

 だから現在のリヴェスの妻をお茶会に招待したのだろうか。令嬢はリヴェスへの不満を言い合いたかったのかもしれない。


「皆さんもそう思いますわよね?!」

「そうよ!だって怯えて帰って来た子もいるし、中には破談になった後、ご自分の部屋から出なくなった子もいるのよ」

「皆何かしらトラウマを抱えて帰って来るのに…」


(…もしかしてリヴェスの性格に問題があるわけじゃなくて、他に破談にされるような何かがある?)


 考えてみても、納得のいく答えは出ない。令嬢達に聞いても無駄そうだし、自分で確認するしかないだろう。

 リヴェスに直球で聞くには切り出しづらい内容だから、探るくらいが丁度いいかもしれない。


(もうここに留まる理由はないかな)


「皆さんとは話が合わないようですし、私はこれで失礼させて頂きます」


 ルーペアトは席を立ち、令嬢達に背を向けた。

 これ以上リヴェスを悪く言う話は聞いていたくない。お茶会がどんなものかも、令嬢が何を話すために招待してのかもわかったし、思い残すことはない。


「あ、最後に」


 数歩進んでから立ち止まり、ルーペアトは振り返って令嬢達に言い放つ。


「皆さんにも良い相手が見つかると良いですね」


 そう言って微笑んだ後、令嬢達が見せた悔しい顔を見た時はとてもスッキリした気持ちになった。

 聞いた話は最悪だったけど、行って良かったとも思える、そんな結果になったと思う。


 そしてお茶会を途中で出て来たから早く帰れると思っていたところ、突然馬車が止まり馭者が話し掛けて来た。


「申し訳ありません。少し馬車に不備があったようで…、修理するのでお待ち頂けますか?」

「大丈夫ですよ」


 そんなこともあるのだろうと、何の疑いもなく待っていた。

 しかし、修理が終わったと告げられた頃にはかなり日が暮れ始めていたのだ。

 馬車に乗った時間はまだ昼を過ぎたばかりだったはずなのに。


 辺はだんだん暗くなり、馬車が森の中を走っていたところ再び馬車が止まり、今度は馭者の叫び声が聞こえて来た」


「どうして!ああっ…!」


 馬車の壁越しに聞こえた声はまるで断末魔のようだった。

 獣にでも遭遇したのか、それとも―


「ルーペアト様は中でお待ち下さい!」

「えっちょっと待って―」


 一緒に乗っていた護衛が外を飛び出して行き、外からは聞き慣れた鉄と鉄のぶつかり合う音がする。

 これは紛れもなく、剣を持って戦っている音。

 つまり襲って来たのは獣でもなく、人だ。


 暫く剣を交える音が続いた後、音が無くなり静かになった。戦いが終わったのかと外に出ようと扉に手を掛けようとすれば、先に扉を外から開かれ見えたのは護衛ではなく、黒い服で顔や全身を覆った別の男だ。


 咄嗟に男の胸に肘を勢いよくいれたルーペアトは外に出て、酷い光景を目にした。

 馭者も護衛も血を流して倒れている。そして馬車を取り囲むように十人ほどの男が剣を手にこちらを見ていた。


(狙いは貴族か、令嬢か、私…)


 こんな森に上手く出くわすことは珍しい気がする。だから盗賊に運悪く出会ってしまったというよりも、始めからここを通ることがわかっていて狙いに来たことを考えると、誰かに依頼されて来た暗殺者だろう。


(こうなってしまったのは私のせいだ)


 護衛の言うことを聞かずに外に出ていれば、護衛の人は守れたはずだ。それに、リヴェスの言う通り護衛をもっと就けるべきだった。

 ルーペアトは歯を食いしばって悔やんだ。


「可愛い嬢ちゃんには悪いが、ここで死んでもらうよ。それが俺達の仕事だからな」

「…誰に依頼されたの?」

「ああ?」

「誰に依頼されたのかって聞いてるの」

「はっ、そんなん聞いてどうするのさ。ここで死ぬって言うのに。そもそも俺達は依頼人の秘密は必ず守る」

「そう…じゃあいい」


 ルーペアトは地面に落ちていた護衛の剣を拾い上げた。ロダリオ公爵家に仕える者の剣なだけあって、かなり上等な剣だ。

 少し重いが、特に問題なく扱えるだろう。 

 ルーペアトは暗殺者に向って真っ直ぐ剣を構えた。


「悪いけど、死ぬのは私じゃなくてあなたたちの方だから」

読んで頂きありがとうございました!


次回は日曜7時となります。

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