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第66話 あなたを守りたい

 ティハルトは人払いをしてリヴェスと共に執務室へと入り、長椅子に対面するように座った。

 少しの沈黙の後、ティハルトは深呼吸を一度してから口を開く。


「…率直に言うと、彼はリヴェスをヴィズィオネアの皇帝にするのが目的だよ」

「俺を皇帝に?」

「そう。で、自分は宰相になりたいって」

「何でだ?」

「そこまでは僕もわからないかな」


 ノーヴァに嫌われているわけじゃなかったことは前に気づいたが、自分の宰相になりたい程に好意的だとは思えなかった。

 宰相になりたいのなら、ティハルトの宰相になれば良い話なのだ。なのに何故、皇族の身分を捨てたリヴェスを皇帝にしてまで宰相になりたいのか、全く検討がつかない。


「俺は皇帝になるつもりはないんだが…」

「そう言うと思ってたよ。じゃあ彼女を女帝にする?」

「…っ!」


 ティハルトにそう言われ、自分が置かれている状況に気がついた。

 このまま作戦通りヴィズィオネアの皇族を一掃したとして、ルーペアトと血の繋がった両親が見つからなければ、ルーペアトは女帝になるしかない。

 それを防ぐにはリヴェスが皇帝になるしかないのだ。


(ルーを女帝にするのは駄目だ…)


 育ててくれた両親は殺され、望んでいない英雄になったルーペアトに、これ以上辛い思いも何かを背負わせることもしたくない。


「…他に方法はないか?」

「ヴィズィオネアをハインツに取り込むことは出来るけど、リヴェスはそうしたくないでしょ?」

「そうだな…。ルーの大事な国だから」

「別の人を皇帝に就かせることも出来るけど、街の人が彼女の正体を知ってて言ってないだけかもしれないし、知らなかったとしても皇族に先に知らされてしまえば終わりだね」


 自分が皇族だと気づいていないルーペアトの様子から考えるに、周りに居た者も気づいていない可能性が高い。義理の両親がルーペアトを大切にしていたことから、隣国の子を引き取ったとでも言って誤魔化していたのだろう。


 ヴィズィオネアにルーペアトと出向いた後、公の場でルーペアトが皇族だと広められてしまえばミランを排除した時に、国民は英雄であるルーペアトを女帝に仕立て上げるはずだ。

 そうなってしまえば、自由に生きようとしているルーペアトは再びヴィズィオネアに縛られることになる。

 しかし、リヴェスが皇帝になるのなら、ルーペアトが皇族だったという証拠を消すことも出来る。


「リヴェスも無理する必要はないんだよ。僕にとって二人共大事だから、どちらも守る術を探すことも出来るからね」

「…いや、俺がヴィズィオネアの皇帝になる」

「本気…なんだね」

「ああ」


 自分がティハルトの様に良い皇帝になれる自信はないが、ルーペアトが守った国をミランの好きにはさせない。


「彼女に事実を伝えるかどうかはリヴェスに任せるよ」

「俺は言わないつもりだ」

「そっか」


 ルーペアトに本当のことを伝えてしまえば、リヴェスとの契約を破棄し自分を犠牲にして女帝になろうとするだろう。

 最悪なのは、そうなった上でルーペアトが一人でヴィズィオネアに乗り込むことだ。ルーペアトならミラン一人を排除するのは難しくない。

 だけどまたルーペアトが人を殺めなくてはいけなくなってしまったら、更に心を閉ざしてしまう。


(…ルーのことは絶対に守る)

 

 ルーペアトに対して、どうしてこんなにも強い気持ちを抱いているのかは自分でもわからない。

 ただこれ以上悲しくて辛い思いはしてほしくなくて、この先好きなように生きてほしい、それだけだ。


「なら明日からのそのことも含めて準備していかないとね」

「不在の間リオポルダ男爵令嬢と商会に国を任せるんだったな」

「その時リヴェスも一緒に学べるね」

「そうだな。でも長い間ハルトと仕事をしていたから、ある程度は出来ると思う」

「頼もしいなぁ」


 裏仕事をしていただけではなく、ティハルトの仕事もよく見ていた。

 だからちゃんとした教育を受けていなくても、そこら辺の貴族よりかは上手く国を治められるはずだ。


「じゃあ僕は早速準備を始めるから、彼女にもよろしくね」

「ああ、また明日」


 リヴェスは執務室を出て、外の馬車で待つルーペアトの元へと急いだ。



 ルーペアトは心配しながらもハンナと話しながらリヴェスを待っていた。


「あ、リヴェスが戻って来た」


 扉から出て来たリヴェスの表情を見てすっきりした様子なのが窺えた。

 そのことにルーペアトも安心する。


「おかえりなさい」

「待たせたな」


 言葉を交わした後、リヴェスが馬車に乗る前にハンナが馬車を降りる。


「ハンナ降りちゃうの?」

「お二人の邪魔をするわけにはいきませんので」

「でも馬で帰るの大変じゃない?」

「私は馬の方が慣れています。それに、こんな豪華な馬車は乗っていて落ち着きません」

「確かにそれは…そうだね」


 ティハルトが乗って来た皇室の馬車だから、とにかく大きくて派手なのだ。

 ルーペアトでも落ち着けない程なのだから、ハンナはもっと落ち着かないだろう。


 リヴェスが馬車に乗り、屋敷に帰るため馬が走り出した。


「どうなりましたか?」

「ノーヴァの計画に乗ることになった」

「ええっ!」

「会議で決まったことと特に変わりはないから大丈夫だ」


(ルーは…だが)


「そうなんですね、なら良かったです」


 何も知らないルーペアトはノーヴァが会議に来なかったから、少しすれ違っただけだろうと一人で納得した。

 あんなことになっていたが、リヴェスとノーヴァのことも心配はいらなさそうだ。


「明日から本格的に準備が始まる。忙しくなるな」

「出来る限り力になれるように頑張ります」



 屋敷着くまでの間に、計画について長らく話し合った。

 そして屋敷に着いた時、ルーペアトは忙しくなる前にと、ある提案をする。


「中に入る前に庭を歩きませんか?植えた花を見てほしいんです」

「良いな、行こう」


 そうしてブルースターや他の花を植えている場所へリヴェスを案内した。

 道中にある建設中の温室はもうすぐ完成するそうだ。でも花を植えられるのはハインツに帰って来てからになるだろう。


「着きました。かなり変わりましたよね?」

「植えた花を増やしたんだな。一番育っているのがブルースターか」

「はい。後数週間で花が咲くと思います」

「楽しみだな」

「はい!」


 そう言って笑うルーペアトを見て、リヴェスは胸が締め付けられる様に痛んだ。


(…この笑顔も守りたい)


 出会った当初はほとんど笑うことがなかったルーペアトが、こんなにも嬉しそうに笑っている。

 絶対に奪わせはしない。


「俺も花を植えたいな…。一緒に育ててくれるか?」

「勿論ですよ。何を植えたいんですか?」

「…エンゼルランプ」


 ルーペアトが花を育て始めてから、リヴェスも少しだけ花について調べていた。

 その時に見つけた花をふと思い出す。


「初めて聞く花ですね」

「小さくて可愛らしい花だ」

「凄く気になります」

「種を用意させておく」

「ありがとうございます」


 リヴェスが植えたいエンゼルランプとは一体どんな花なのか、まだ種も植えていないのに花を見るのが楽しみだ。

読んで頂きありがとうございました!


次回は土曜7時となります。


ルーペアトが叫んだ時や驚いた時以外に『!』がつくのはかなり珍しいです。

それほどリヴェスに心を開き感情を取り戻して来ている証拠ですね^^

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