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第60話 ついに動き始める

 ティハルトがお忍びだったのにも関わらず、ルーペアトに話し掛けて来たのはただ見かけたからではなく、他に理由がある気がする。


「お義兄さんはどうして街に?」

「僕は街の様子を見に来たのと、人に会ってたんだよ」

「そうだったんですね」


 誰に会ったのか言わないということはルーペアトの知らない人か、言えない人物だろう。もしかしたらヴィズィオネアに動きがあったのかもしれない。


「二人はシュルツ家の令嬢に会っていたんだよね、どうだった?」

「ハインツに影響を及ぼすことはないと思います。普通の令嬢で私達も仲良くなりました」

「素直じゃないけど良い人でした!」

「そっか、なら良かったよ」


 後日リヴェスが詳しくティハルトに伝えてくれるだろうから、なるべく簡潔に嘘偽りなく説明した。皇帝としてイルゼのことは気がかりだったと思うから、これで少しは安心してくれるだろう。


「声を掛けて来たのはそれを聞くためではないですよね?」

「さすがだね。君がリヴェスに似てきている気がするよ」

「そ、そんなことはないと思いますが…」


 同じ屋敷に住んでいて、ほとんど毎日顔を合わしているのだから似てきてもおかしくはないが、本当に似ているだろうか。

 でもリヴェスの兄であるティハルトが言うのだからそうなのだろう。


「実はヴィズィオネアから手紙が送られて来てね、リヴェスには僕から手紙を送ったんだけど、まだ二人は知らないよね?」

「「はい」」

「だからまた皇宮に来てもらうことになるのを伝えておこうと思って」

「わかりました」


 ついにヴィズィオネアの皇室が動きを見せた。

 ルーペアトも今回で決着をつけなければと気を引き締める。


「もう夕方なのに引き留めてごめんね。詳しいことはそれぞれ説明されると思うからよろしくね」

「はい、ではまた」


 ティハルトは深く帽子を被り直して人混みの中に消えて行った。


「ふぅ…、緊張した…」


 ウィノラは他にも人が居る時にしかティハルトと話したことがなかったため緊張したらしい。ルーペアトはリヴェスの兄だし、自分も義兄にあたるからそれほど緊張しないが、確かにハインツに住む人なら本来皇帝と話すのは緊張するものだ。


「ルーは落ち着いてるね。私は全然はっきり話せないよ…」

「私でも緊張する時はあるよ。お義兄さんと二人で話す時とか」

「ふ、二人で?!そんなの私耐えられないよ!」


 正直ウィノラはノーヴァ以外の男と二人きりで話すのは無理そうな気がするが。


「また皇宮に行く時もルーが居るから安心だね!」

「そうだね。リヴェスも居るし」


 二人は再び歩き出し、今度こそ馬車に乗る。

 行く時はウィノラに向かいに来てもらったが、帰りは送ってもらうとウィノラが危ないため、先にウィノラを家まで送ることになった。


「今日は本当に楽しかった!また一緒に街に行きたいね!」

「うん、また行こう。じゃあ行くね」

「またね!」


 ウィノラを送り終えた時には、日が落ちて暗くなり始めている。

 屋敷に着く頃には暗くなってしまうことを考えると、皆が心配してしまうだろうからルーペアトは馭者に出来るだけ早く帰れるように急いでもらった。



 屋敷に着けば案の定、門の所でリヴェスが待っている。


「遅くなってごめんなさい」

「何かあったのか?」

「問題はなかったけど色々あって…、ウィノラも送って来たので」

「そうか、何もなかったなら良かった」


 ヴィズィオネアに動きがあったのもあってか、リヴェスはかなり心配していたようだ。

 本当はここまで遅く帰って来るはずじゃなかったのに、イルゼと仲良くなって話が盛り上がった上で、ティハルトと話していたのもあって、遅くなってしまったのは申し訳ない。


 屋敷に戻ってから湯浴みと着替えを済ませ、それほどお腹は空いていないため軽食だけ取り、執務室に向かった。


「入りますね」


 執務室に入ればリヴェスは長椅子に座っており、ジェイがその後ろに立っていた。

 ジェイに挨拶をして、ルーペアトもリヴェスの正面に座る。


「…まずイルゼに関してですよね」


 と、すぐに本題に入り、イルゼがハインツに来た経緯や話していて思ったことを全て事細かくリヴェスのに説明する。


「―私もウィノラもイルゼとすっかり仲良くなって話してたらかなり時間が経っていて…、改めて心配を掛けてしまいごめんなさい」

「いや、俺が少し心配し過ぎていた。ヴィズィオネアの人間だからと彼女のことは警戒していたが、全く問題なさそうだな」

「はい」


 始めはルーペアトもイルゼを警戒していたが、今はリヴェスにイルゼは問題ないと納得させることが出来たことに安堵した。

 イルゼのことはもう大丈夫として、一番問題なのは次の話だ。


「それと実は帰る途中でお義兄さんに会ったんです」

「ハルトに?」

「はい。それでヴィズィオネアから手紙が来たと…、詳しくは聞いていなくてリヴェスはその話がしたかったんですよね?」

「そうだ。そうか…ハルトに会ったのか…」


 どうやらティハルトが街に行っていたことはリヴェスも知らなかったらしい。それならティハルトが会っていたのはリヴェスにも言えない人なのではないか、という考えが頭を過ってしまう。

 でも隠し事があったとしても、それは悪いことではないはずだ。ティハルトが良い人なのも、リヴェスを大事に思っているのも知っているから。


「…まあ、それは今度聞けば良いか。ハルトから送られて来た手紙にはヴィズィオネアから招待があったことと、皇宮に来てほしいと書いてあった」

「招待…」

「ああ、招待されたのは多分ハルトとロダリオ家の人間、つまり俺とルーだな」


 それは間違いないだろう。

 しかし、ティハルトの話ではウィノラも皇宮に来ることになると言っていたはずだ。だからウィノラとノーヴァも招待されているのではないだろうか。


「お義兄さんと話した時、ウィノラも皇宮に呼ばれていました」

「ならあの二人もそうなのか。だが招待されているにしても、リオポルダ男爵令嬢をヴィズィオネア連れて行くのは危険な気もするが…」


 ウィノラは脅されていたのもあって、ヴィズィオネアの人間からは裏切り者として命が狙われている可能性が高い。

 行くことになったとしても十分に注意しなければならないだろう。


「そのことも話し合わないとだな」

「そうですね」


 もう一つルーペアトが気がかりなのは、かつて兵士として一緒に戦っていた仲間と対峙しなければいけなくなることだ。

 よく話すほど仲が良かったわけではないが、国のために一緒に訓練をして剣を振って来た仲間に剣を向けることは出来るだろうか。

 彼らは暗殺者ではなく兵士だ。人を殺すために剣を握ったのではなく、国のためであり国の決まりとして剣を握らされた平民達。


 自分がハインツの人間としてヴィズィオネアに行くなら、こうなってしまうのは仕方ない。だけど彼らを想うと胸が酷く痛んだ。

読んで頂きありがとうございました!


次回は土曜7時となります。


そろそろ仕事が落ち着く予定だったのですが、6月も以前の頻度で投稿することが難しそうです><

まだ週1の投稿が続きますが、何卒宜しくお願い致します。

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