第6話 デヴィン伯爵家を離れる
リヴェスとの結婚が決まり、夫人にもそのことを伝えようとしたのだが相手にされず、結局伝えられないままリヴェスが迎えに来てしまった。
ルーペアトは少量の荷物と資金、そしてリヴェス貰った二足の靴も持ち、玄関へと向かう。
「お待たせしました」
そうすれば、また夫人がリヴェスに話しかけている様子だったが、リヴェスは適当にあしらっていた。
ルーペアトの存在に気がついた夫人は、険しい表情をして向かって来る。
「ロダリオ公爵と結婚っどういうことかしら?」
リヴェスに聞こえないくらいの声量でルーペアトに囁いた。
「話そうとしましたが聞いてもらえなかったので」
「私のせいだと言うの?!」
「そうとは言ってません」
ルーペアトが夫人に聞き入ってもらえないからと、言うことを諦めたことも事実だ。一概に夫人が無視していたことが悪いとは言えない。
「…まあいいわ。でも、結婚の書類には妹の名前を書くのよ」
「どうしてですか?」
「あなたが公爵と結婚しても何も得することがないでしょう」
(リヴェスの年齢は知らないけど、あの子はまだ一歳じゃない)
義妹が結婚出来る年齢になる頃にはリヴェスは三十を過ぎていると思われる。
愛娘をそれぼど歳の離れた人に嫁がせられるほど、家の利益は大事だと言うのか。
(初めて義妹がかわいそうに思える…)
意地でもリヴェスとの結婚は義妹とさせたいようだ。
しかし、結婚の書類に名前はまだ書いていないが、契約書にはもうルーペアトの名前でサインしてしまった。
今更実は名前を変えます、何て出来るわけがないし、どう考えても怪しすぎる。
サインしたのは契約書だが、ここはひとまず結婚書にサインしたことにするのがいいだろう。
「もう私の名前を書いて、リヴェスの手に渡っています」
「気の利かない子ね。…じゃあ他の手を考えるわ」
(それをさせるつもりはないけど)
もう恩は返したし、ここを出た後は夫人に何があろうと関係ない。
何かして来ようものなら対処して制裁を下す。
これ以上リヴェスを待たせるわけにもいかないため、話を切り上げ夫人の元を離れる。
「行きましょう」
「そうだな」
家を出る直前に夫人の方に振り返り、不機嫌そうな顔に笑顔で返した。その後見せた夫人の悔しそうな顔はとても見物で満足だ。
これでようやく解放されると気持ちが楽になっていたところ、予想外に話しかけられた。
「お嬢様、荷物お持ちします!」
「え、ついて来るの?」
「どこまでもお供させて下さい!」
(見張りはつけると…)
これは向こうに行っても動きを監視されて、手紙で夫人に伝えられてしまう。そう簡単に夫人の手からは逃られないということなのか。
「リヴェスは侍女がついて来ても大丈夫ですか?」
「俺は構わない」
「わかりました」
ならばミアがついて来ることを逆手にとって利用するしかない。
夫人が何か大きな動きを起こした時にミアも一緒に一掃出来るように、夫人と連絡を取っている証拠を手に入れるのがいいだろう。
後はルーペアトの味方についているのか、夫人の味方についているのかを見極めるのも大事だ。
リヴェスの屋敷に向かっている間、馬車で二人きりだったが特に気まずいといったことはなく、ハインツのことや屋敷のこと、リヴェスのことも少し教えてもらい、その会話でリヴェスは二十二歳だと知って、義妹とは二十一歳差なことに笑ってしまいそうになってしまった。
いずれルーペアトがリヴェスと離婚することを考えたら、義妹と結婚することは出来るから夫人がさせようとするかもしれないけど、リヴェスが義妹と結婚したいとは絶対に思わないだろう。
馬車に乗って数時間、リヴェスの屋敷に着けば使用人の人たちが手厚く迎えてくれる。それを見て凄く温かいなと、料亭で働いていた時のことを思い出した。
料亭には今までほど通えないだろうから、これからはここが心の拠り所になるといいなと思うが、受け入れてもらえるのかは少し不安だ。
「紹介する、俺の側近のジェイだ」
「よろしくお願いしますルーペアト様」
「こちらこそよろしくお願いします」
笑顔で話しかけてくれたジェイは、髪も橙色で瞳も薄茶色に加え人柄も明るそうな印象を受ける。
ミアよりも信用の出来る人だから、何か困ったことがあればジェイに相談するのがいいだろう。
「悪いが俺はこのあと仕事があるから、ジェイに屋敷を案内してもらってくれ」
「はい。忙しいのに迎えに来て下さってありがとうございます」
「気にするな」
屋敷に入ってからリヴェスはすぐにどこかへ行ってしまった。
外から屋敷を見た時はそれほどわからなかったが、中へ入るとデヴィン伯爵家の何倍も広いことがわかる。ロダリオ公爵家はそれほど凄い人なのだろう。
それなのにどうして皆がリヴェスとの婚約を破棄したがるのか、全く見当もつかない。優しい人だと思うし、見た目も美しいのに一体何がいけないのか。
黒髪で深紅眼なのがそんなに気に入らないのかと、ルーペアトは疑問に思う。もしかしたら他に理由があるのかもしれないが、夜会でリヴェスについて話していた令嬢から聞いた情報だけではわからない。
「じゃあ案内しますね」
「お願いします」
案内してもらったのは自由に出入りしていい庭と、リヴェスの寝室と執務室、そしてルーペアトの部屋だ。
初めてのちゃんとした自分の部屋はとても広くて綺麗で、以前と環境は違い過ぎて慣れるまで時間がかかりそうだ。ミア以外にも侍女が就いて世話をしてくれるようで、何から何まで変わったことが多すぎる。
「リヴェスがここまで用意したのは初めてですよ。余程ルーペアト様が気に入ったんですね」
「そうなんですか?」
「そうですよ!今まで普通の部屋というか、快適だとは思いますけどこの部屋ほどではないので」
それはきっとどうせすぐに破談になるからどこでもいいだろう、みたいな考えでいたからじゃないかと思うが。今回はそんな心配がないから長く快適に使える部屋を用意してくれただけで、ジェイの言う気に入ったから、というわけではない。
「最初はリヴェスが自分から結婚相手を見つけた時は驚きましたが、こんなに美しい令嬢を連れて来るなんて…感動です」
「結婚は私が提案したので…」
「それでもリヴェスと結婚したいと思ってくれて嬉しいです。こんなに良い人なのに皆嫌がってどこかに行っちゃうんですよ?」
「それは…そうですね」
ジェイはかなりリヴェスを大切に思っているようだ。これほど主人を大切に思っているのが普通なのかもしれないが。
ミアは夫人に言われて仕事をしている感じがして、ルーペアトに仕えたいという気持ちは伝わって来ないから。
「僕はルーペアト様のことも応援してます!リヴェスと関係を縮めたい時はいつでも言って下さい」
「ありがとうございます?」
(恋仲になる予定はないんだけど…)
でもルーペアトのことを想って言ってくれているだろうから、その言葉は素直に嬉しい。
案内が終ってからは持って来た荷物を整理したりして過ごし、あっという間に一日が終わって行った。
読んで頂きありがとうございました!
以前ここまでで投稿の頻度が落ちると言っていましたが、あんまり変わらないかもしれません。
年末年始の間にたくさん書けるように頑張るので、年明けからは頻度を上げたいと思います^^
次回の投稿は金曜7時となります。