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第54話 新たな人物

 食事をしている間に、ルーペアトは外出したいことを伝えることにした。


「そうだ、私花屋に行きたいんですけど、街に出て大丈夫ですか?」

「あぁー…」


 ルーペアトの質問にリヴェスは何か考えているようだった。

 昨日の今日だからまだ油断出来ないし、厳しいのかもしれない。


「急ぎじゃないですし、無理そうなら大丈夫ですよ…?」

「いや、気になることがあるだけで、街に行くこと自体はそれほど問題じゃないんだ」


 気になることといえば、やはりヴィズィオネアの人間がどこかに潜んでいるかもしれないだからだろうか。

 とは言っても、ルーペアトがその人達をどうにか出来ることはリヴェスもわかっているはずだ。つまり、別の問題が新たなに生まれたということだろう。


「実は明日ヴィズィオネアのイルゼ・シュルツ公爵令嬢がハインツに入国するんだ」

「許可したんですね」

「ああ、何か探れるかと思いつつ、シュルツ公爵家は治安判事をしている家門だからな」


 治安判事とは治安を維持するために国に任命された下級裁判官だ。それでも公爵家であるからそれなりに力を持っていて、下級裁判官と言えど人を国の許可なしで裁くことが出来る。

 治安を維持する家門なら、皇室と親しい間柄でない限りルーペアトに直接何かしてくることはないと考えた。


 それよりもリヴェスが気にしているのは、そのイルゼがミランの婚約者に最有力候補として名が挙げられているからだ。

 ミランの命令でハインツに来た可能性の方が高い。

 しかし、それをルーペアトに伝えることは出来ないため、イルゼに気をつけるようにとしか言えなかった。


「桜色の髪に金色の瞳の令嬢だ。どんな性格かはわからないから、彼女に気をつけてくれれば良い」

「わかりました」


 と話し合い、翌日にハンナと花屋に訪れたルーペアトは、花屋でリヴェスに伝えられた特徴に一致する人物に会ってしまった。


(桜色の髪に、金色の瞳だ…)


「…ハンナどうする?」

「別の店に行きますか?」

「でも欲しい花がここにしか売ってないかも…」


 前にリヴェスと何軒も花屋を巡っていた時に、どの店にどんな花があるか少し記憶していた。

 ルーペアトが欲しい白ダリアはブルースターと同じく、この辺で採れる花ではない上にブルースターと近い地域で採られるはずだ。

 だから、ブルースターを買ったこのお店にあるとここにやって来たのだが。


 イルゼに聞こえないように小さな声でハンナと話し合いながら、正面から会わないように避けつつ店を回る。


「あ、やっぱりあった」


 探していた白ダリアが置かれているのをルーペアトは見つけた。

 しかし、種を買うには勘定台に行かなければならず、そこに行けば確実に姿を見られてしまう。


「こればかりは仕方ありませんね。話し掛けられないことを祈りましょう」

「そうだね」


 種を持って勘定台に向かい、支払いを終えたルーペアトは早く花屋から出ようとした。

 が、イルゼに引き止められてしまう。


「あの、あなたってご令嬢よね?」


(ご、ご令嬢?!)


 ルーペアトはまさかの呼ばれ方に驚いて目を見開いた。話し掛けて来るなら絶対に誰かわかっていて話し掛けて来ると思っていたからだ。

 これは油断させるための演技なのかもしれないと疑いつつ答える。


「そうです」

「種を買ったのでしょう?それって自分で育ててらっしゃるの?」

「はい」


 意外にも聞いて来ることが普通で、花屋なら全然起きる会話をしている。

 この会話にルーペアトを探る意図が含まれているのだろうか。


「育てていて何か言われたりしませんの?令嬢が汚れるようなことをするなとか…」

「言われないですね。夫は私に庭の手入れを任せてくれているので」

「そうなの、羨ましいわ…。引き留めてしまってごめんなさいね」

「いえ、大丈夫ですよ」


 会話を終えた、イルゼの視線が外れた後素早く花屋を出た。


「…何か思ってたのと違う」

「あれはただ花を見に来た令嬢ですね」


 ルーペアトはあえて夫と口に出してみたのだが、そこに全く触れられることはなく、ただ花を育てていて何か言われたりしないか聞かれただけだ。


「普通、令嬢は庭の手入れをしないの?」

「花が好きで親が寛大な家庭は育てることが出来ると思います。ですが、本来令嬢が庭の手入れをすることはありえません」

「そうなんだ」


 イルゼは花が好きなのだろう。ヴィズィオネアにどれだけ花屋があって、どんな花が売られているのかルーペアトは知らないが、ハインツは大国なだけあってたくさんの花が売られていると思う。


 それに花を自分で育てられることに羨ましいと思っているということは、イルゼの家では出来ないのだろう。治安判事をしている家門だと言っていたし、両親が厳しそうだ。


 花が好きならイルゼが花のためにハインツに来てもおかしくはないし、むしろ他国の方が何も言われないから良いのかもしれない。



 屋敷に戻ったルーペアトはすぐに白ダリアを植え、リヴェスが帰って来るまで庭の手入れに勤しんだ。

 夕方になってハンナからリヴェスが帰って来たと聞いて、すぐに執務室に向かった。


「失礼します、おかえりなさい」

「ただいま。急いでどうした?何かあったのか?」

「シュルツ公爵令嬢と話しました」


 そう率直に言えばリヴェスの動きが止まり固まってしまったため、ルーペアトは話すことになった経緯をハンナと一緒に説明した。


「…事情はわかった」


 全て話し終えた後、リヴェスは頭を抱えていた。どうしてこうも会いたくない人物に会ってしまうのか、ルーペアトも不思議に思う。

 それはリヴェスも思っていると思うが。


「彼女はただ花を見に来ていただけだと思うんです。ヴィズィオネアの人達は私が花を好きなことは知りません」

「そうだな…、ルーペアトに会うことを目的にするなら屋敷の近くに来るはずだからな。会えない場所には行かないだろう」


 大丈夫そうだったなら、もっとこちらから探っておけば良かったかもしれない。

 イルゼを知るのに良い方法と言えば、彼しか居ないだろう。


「ウィノラを通してノーヴァに聞いてみようと思います」

「ノーヴァはあまり情報開示しないが…」

「大丈夫ですよ。ウィノラに話せばノーヴァは絶対話してくれます」

「それもそうだな」


 ルーペアトは早速、その日の夜に手紙を書いてウィノラに送った。

 これで良い情報が得られることを祈る。

読んで頂きありがとうございました!


次回は火曜7時となります。

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