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第52話 私の帰る場所

 ティハルトと共に玄関へと戻れば、準備を終えたリヴェスが待っていた。


「どこに行ってたんだ?」

「少し昔の話をしてたんだよ。ね?」

「はい」


 リヴェスは不思議そうに眉をひそめていたが、まあいいかと溜め息をついてから微笑みを浮かべる。


「そろそろ家に帰ろう」

「そうですね」


 リヴェスの言葉にロダリオ家の屋敷を自分の家だと思って良いと言われているみたいで、胸が温かくなる。帰りたいと思える場所があることに幸せを強く感じた。


「皇宮にもいつでも来て良いからね」

「ありがとうございます」

「また何かあったら連絡する」


 二人はティハルトに礼をして別れを告げ、外に用意された馬車に乗り込む。

 一日屋敷に帰っていないだけなのに、長い間居なかった様な気分だ。

 それだけ昨日が長く感じたということだろう。


「帰る途中で寄りたい所があるんだ、構わないか?」

「大丈夫ですよ」


 どこに行くのだろうと思いながら数十分馬車に揺られれば、着いた場所は普通の家に見える。

 街の大通りからは離れていて、普段は気づかないような場所だ。


「ここは?」

「俺の剣を作った武器職人の家だ」

「え、ここが?」


 剣を作る場所といえば、もっと大きくて広さがあると思っていたのだが、小さくこじんまりとしている。

 外から見て武器を売っているとは到底思えない。


 しかし、中に入れば完成した武器がいくつか並んでおり、ちゃんとした武器屋だった。

 遠くから見ただけでわかるほど、武器は精巧に作られ職人のこだわりが見える。


「凄いですね…」


 ヴィズィオネアで使っていた剣は同じ場所で大量に生産されていたから、こうして職人が一つ一つ想いを込めて作り上げたものをまじまじと見るのは初めてだ。


「おお、誰かと思ったらお前さんか」

「久しぶりだな」

「隣の子はもしや…噂の奥さんか」

「ああ、そうだ」


 奥にあった扉から出て来たのは、髪も長い髭も白いお爺さんだった。

 手に目を向ければ、これまでにたくさんの武器を作ってきたことが窺える。


「初めまして、ルーペアト・ロダリオです」


 ルーペアトがそう言ってお辞儀をすれば、観察するようにじっくりと全身を見つめられた。


「で、今日は何のようじゃ?剣の手入れか?」

「いや、ルーの剣を作って欲しいんだ」

「私の…?!」

「ルーは双剣使いだが、今は一本しかないだろう?」

「そうですけど…、私はこれまで借りていた剣でも大丈夫ですよ?」


 今まで街を出歩く時や、昨日ウィノラと馬車に乗る時に持っていた剣も、一応屋敷にあった中からルーペアトの体格にあったものを選んでいる。

 だから新しく作らなくとも、その剣とリヴェスから受け継いだ剣の二つで構わないのだが。


「いいか、剣は自分に合ったものを使うべきじゃ。リヴェスが剣を作って欲しいと言うということは、相当な剣の腕なんじゃろう?」

「私は…」

「ルーはヴィズィオネアの英雄だ」

「おぉそうか!それはわしも腕がなるなぁ」 

「ええと…」


 ルーペアトの意思とは裏腹に話はさくさく進んでいく。でも言っていることは間違っていない。

 これから戦うことが増えることを考えれば、自分に合って長く使える剣が良いのは当然だ。


「あの剣はティハルトが俺に贈った剣だ。だからもう一つは俺に贈らせて欲しい」


 そこまで言われると断われない。それに、昨夜負い目を感じないでほしいと言われたし、今朝に後悔しないために守りたいものは自分の手で守るべきだと言われたばかりだ。

 この先ルーペアトがリヴェスも友人も、今の生活も守るためには剣がなくてはならない。


「…わかりました。ではお願いします」

「よし、そうと決まればまずは剣筋を見たい。これを軽く振ってくれ」

「はい」


 渡されたのはごく普通の剣だ。薄くて軽く、練習で使うような剣だと思われる。

 剣を受け取ったルーペアトは言われた通り、本当に軽く振った。


「軽く振っただけなのにこの速さと綺麗さ…。これは創作意欲がどんどん湧いてくるぞ!」


 お爺さんの目つきが変わり、凄くやる気に満ちているのが伝わる。


(今のでわかるの凄いな…)


 もっと色々試すように言われると思っていたが、まさか数回振っただけで見極められるとは。

 ティハルトがリヴェスの剣を頼んだだけある。職人も凄いし、見つけたティハルトも凄い。

 リヴェスに最高の剣をあげるためにかなり探し回ったのだろう。


 それから、ルーペアトが持つのにちょうどいい重さを調べたり、握りやすい形を選び、作る準備が整った。


「一週間くらいで作れるじゃろう」

「わかった。出来たら屋敷に送ってくれ」

「お願いします。完成楽しみにしていますね」


 ルーペアト出来ることが終わって後は任せるだけとなり、別れを告げ屋敷に帰るため馬車に乗った。


「本当に凄い方ですね。あんなにすぐ私の特徴を見つけるなんて、観察力が高さに感激しました」

「彼の作った剣を一度使えば、他の剣に満足出来なくなるからな」

「それほど使い手のことを考えて作ってくれているということですね」

「ああ」


 ルーペアトは剣が出来上がるまでの一週間が凄く楽しみになった。

 大切なものを守るための自分だけの剣。もう絶対にあんなことは起こさせない。



 そしてようやく屋敷に着き、馬車から降りればハンナが出迎えてくれた。


「おかえりなさいませ、ご無事で本当に良かったです」

「ただいま。心配かけてごめんなさい」


 いつも感情をあまり顔に出さないハンナが、瞳を潤ませ微笑んでいた。

 何も言わずに急に居なくなってしまったから、ハンナは探してくれただろうし、勿論かなり心配を掛けてしまっただろう。


「これからはどんな時でも報告して下さい。必ず力になりますから」

「うん、約束する。ありがとう」


 ここにはこんなにも自分を大切に思ってくれる人がいる。

 屋敷の皆も、ハインツの人達も守るために、母国と戦わなければいけない。彼らの目的が自分である限り、周りの人達は危険に曝されてしまうのだから。


(…絶対に傷つけさせない)


 守りたいものを守るため、ルーペアトはずっと逃げてきた過去と母国に向き合うことを決心した。

読んで頂きありがとうございました!


次回は木曜7時となります。

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