第45話 それぞれの想い
ルーペアトがリヴェスに今聞きたいことは聞けた。次はリヴェスが聞きたいことに答える番だ。
「リヴェスはこの剣についてですよね」
「…ああ」
そう言ってルーペアトは剣をリヴェスに手渡した。受け取るリヴェスの動きが少し鈍くなっていたのは、両親を手に掛けた剣だからだろう。リヴェスがどれだけ過去を割り切っているかわからないが、この剣を見てあの時の記憶が想起されたに違いない。
「…体が大きくなったから剣が小さく感じるな」
八年前はティハルトに貰ったこの剣で剣術を磨き、リヴェスが部隊を率いるまでに育った。しかし、その剣の腕を最初に披露することになったのが、両親を手に掛けた時。それはいつも頭の端に残り続け、今でも忘れることがない。
「凄く大切に使っていたんですね。状態が綺麗だったので」
「そうだな…。大切な剣だ、使うのを止めた今でも。だからこそ最後まで本当は使いたかったが、昔の俺には使う勇気が出なくて、…結局使えなくなってしまったな」
剣を眺めるリヴェスの目が少し悲しそうに見えた。赤い宝石が付いた漆黒の剣は、どう見てもリヴェスを想ってティハルトが用意したものだ。その恩返しは感謝の言葉だけではなく、限界まで使うことだっただろう。
剣を作った職人は色々な想いを込めて作ってくれたはずだ。この剣を使うことになる人の無事や、誰かを守れることが出来るように。
しかし大人になってしまったリヴェスはもうこの剣を使えないため、どうすることも出来ない。
「お義兄さんはリヴェスにとってその剣は両親を手に掛けた剣だから、これからは私が誰かを幸せにする剣士として、人を守る剣にして欲しいと預かったんです」
「そうか…。俺もルーにとって重荷じゃなければ、代わりにこの剣を使って欲しい」
「はい。リヴェスの想い、しっかりと受け継ぎますね」
リヴェスの想いを聞き、これでこれからはルーペアトの剣となる。この剣をこの先人生の相棒として、使えなくなるまで持ち歩くことだろう。
たくさんの命を救い使えなくなった後は、持ち主であるリヴェスに返したい。
(リヴェスのためにも出来る限り綺麗な状態で返したいな)
ルーペアトはリヴェスから剣を受け取り、これからよろしくねと、心の中で唱えた。
それからふと、椅子に立て掛けてある今のリヴェスの剣が目に入る。よく見てみればこの剣と作りが似ていた。
「もしかして今使ってる剣も貰ったんですか?」
「いや、これはハルトに工房を聞いて同じ人に作ってもらったんだ」
「そうなんですね」
赤い宝石は付いていないが、剣の色はほとんど同じだ。この剣はルーペアトにとって使いやすいし、腕の良い職人が時間を掛けて作っているのだとわかる。
リヴェスが今使っている剣も使いやすそうだ。
それから過去について話したりしていれば、もうすぐ皇宮に着くところまで来た。その時、リヴェスは何かを思いついたかのように目を見開く。
「ルーは双剣使いだったな。それは片手剣だが、もう一つの剣はどうするか決めたか?」
そう問われ、ルーペアトは考え始める。
剣が一つでも問題なく戦うことは出来るが、二本あった方が何をするにも速いはずだ。
悩んでいたところで、先に口を開いたのはリヴェスだった。
「決まっていないなら俺から剣を贈らせてほしい」
「え?この剣を使わせてもらうだけでも私は…」
「両親を手に掛けた剣だけを持たせるのは気が引けるし、何よりもルーに剣を贈りたいんだ」
リヴェスの言葉には驚いたが、とても嬉しかった。ルーペアトは今まで兵士だったため、自分用の剣はなかったし、ハインツに来てからは余っている剣を使わせてもらっていたからだ。
自分に合った自分だけの剣ほど、使いやすいものはないだろう。
リヴェスが贈りたいと言ってくれているとはいえ、申し訳ない気持ちもある。それに、作るのにはかなりの額が必要な気もしているし、対してルーペアトは何を返してあげれば良いのか。
「本当に良いんですか…?」
「これからも今日と同じことが解決するまで起こるはずだ。俺がどれだけ助けられるかわからないから、ルーは何があっても対処出来るように万全な状態でいてほしい」
確かにいつも出掛ける時は基本的に剣は一本で良いが、今日みたいなことが何度も起こるなら二本は持っておきたいところ。
特に今回は剣を一本しか持っていなかったことで、ノーヴァから剣を借りるまでは苦戦していた。自分の身の安全と、周りに影響が及ばないよう早く片付けるためにも、もう一本持っていた方が絶対に良い。
「わかりました。ありがとうございます」
「この後の会議が終わったらどんな、剣にするか一緒に決めよう」
「はい、楽しみにしてます」
剣をもう一本作る方向に決まったところで、馬車は皇宮に到着した。
リヴェスの馬を借りて帰って来たティハルトはもう到着していて、二人は急いで客室に向かう。中に入ればもう三人は椅子に座って待っていた。
「待たせて悪い」
「ちゃんと話せた?」
「ああ、おかげで話せたよ」
「なら良かった」
ティハルトは安心したように笑顔を向けた後、二人が椅子に座れば一瞬で真剣な顔へと変わった。
「それじゃあこの5人で緊急会議を開こうか」
堂々とした立ち振舞いは、まさにハインツの皇帝としての風格を感じる。
その姿を見て、ルーペアトも気を引き締めた。
読んで頂きありがとうございました!
次回はいつもと変わって水曜7時になりますが、よろしくお願い致します。




