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第44話 現る白光

 相手の剣を折るか、戦闘が出来ない程度の怪我を負わせるにあたって、ルーペアトはそれを素早い剣捌きでこなしていく。剣筋も良く姿勢も綺麗な姿に、リヴェスは戦いながら思わず見惚れてしまった。


(これがヴィズィオネアの英雄…)


 ジェイと手合わせしていた時もルーペアトの腕には感心していたが、双剣を扱っているルーペアトの方が、より精錬された動きをしているし相変わらず無駄がない。


 ハンナからルーペアトは八歳の時から父親に教えてもらっていたと聞いた。

 それならルーペアトに剣術を教えていた父親も相当の腕前だったのではないだろうか。ルーペアトが兵士として戦っていたのなら、父親も兵士のはずだ。

 でもここまで腕が良いのは、才能だけではなくルーペアト自身の努力があってだと思う。


(…本当に尊敬する)


 ルーペアトが到着してから数分で片付いてしまった。相手の人数が少なくなったところで、動けない者を連れて自国へと帰って行く。

 怪我を負った騎士が増えたため、ミランも暫くはハインツに攻め入って来ることはしないだろう。


「終わりましたね」

「ああ、皆ご苦労だった」


 ルーペアトは剣に付いた血を振り払い鞘に仕舞う。

 皆で終わったことに喜んでいれば、ウィノラがルーペアトとリヴェスの元に来る。今度は泣きそうな顔ではなく、真剣な表情だったため、ルーペアトも構えた。


「この度はルーを危険に曝してしまい申し訳ありませんでした。私とノーヴァの作戦が上手く行ったから良かったとはいえ、こんなことをするべきではなかったのに…」

「大丈夫だよ。ウィノラの方が大切だから、何もされてないみたいで良かった」

「うぅ…ありがとぉ」


 ルーペアトが慰めるとウィノラは再び泣き出してしまう。

 服が血で汚れてしまっているため抱き締めてあげることは出来ないが、ルーペアトはウィノラの頭を必死に撫でて落ち着かせていた。


 そうしていれば、ティハルトが乗っていた馬車が到着し下りて来る。


「あれ?もう終わっちゃった?」

「さっき終わったところだ」

「そっか…遅かったかぁ」

「馬車だから仕方ないな」


 ルーペアトはティハルトとリヴェスが話している姿を見て驚いた。


(堂々と話して大丈夫なのかな…?)


 二人はいつもの様に話しているが、今周りにはウィノラとノーヴァや傭兵達も居るのに。

 ノーヴァは知っていてもおかしくないが、ウィノラの前でも大丈夫なのだろうか。


(そういえば二人は幼い時に知り合ったんだっけ?だから知ってるのかも)


 リヴェスが昔街に良く出ていた時だから、まだ皇族の身分だし近しい人物は知っていたのかもしれない。


「後処理は僕がしておくから、君達傭兵以外は皇宮に向かって来れるかな?」

「はぁ…仕方ないですね」

「もう!嫌そうな顔しないの!」


 これから色々詳しく事情を聞かれるのだろうが、ノーヴァが心底面倒くさそうな顔をしている。

 それをウィノラが叱っていて、心配するだけ損だと言いつつも本当は仲が良いのがよく伝わった。


「怪我がなさそうで良かった。僕はリヴェスの馬を借りて帰るから、二人は僕が乗って来た馬車で皇宮に行くと良いよ。二人共、話したいことたくさんあるでしょ?」


 ティハルトは気を利かせて、ルーペアトとリヴェスに二人で馬車に乗ることを勧めた。

 ルーペアトは自分が英雄だと気づいた時期と黙っていた理由が気になっているし、リヴェスはルーペアトが両親を殺した剣を持っているのが気になっている。

 馬車ならゆっくり二人だけの空間で話すことが出来るため、話すのに最適だ。


「ありがとうございます」

「心配はしてるわけじゃないけど、二人共ちゃんと話し合うんだよ」

「わかってる」


 それからティハルトは一緒に来ていた皇宮騎士団と後処理を始め、ノーヴァとウィノラは自分の馬で先に皇宮に向かって行った。


「俺達も行こうか」

「そうですね」


 リヴェスはジェイに屋敷へ報告をしに行くよう伝え、ルーペアトと馬車に乗る。

 向き合って座ったは良いものの、どう話しを切り出そうかお互いに悩んでしまう。


「…本当に怪我はしてないよな?」

「はい、大丈夫です」


 過去にこれまで馬車の中で沈黙だったことがあっただろうか、というほどに黙ってしまっている。

 聞きたいのだが、知ることが少し怖くもあった。知ることで今の関係が変わってしまうのではないかと。


「…ルーは、俺がいつルーがヴィズィオネアの英雄ということに気づいたのか、気になってるだろう」

「はい…」

「本当は出会って少ししてから疑ってはいた」

「そんな前から…」


 リヴェスと会って契約結婚してからもう数ヶ月経っているというのに、そんな前から疑われていたとは全く思っていなかった。

 やはり、英雄について知りたくて色々聞き回っていたのが仇となっていたのだろう。


「確信したのはジェイと手合わせしていた日だ」

「その時の私の剣術で気づいたんですか?」

「いや、建国パーティーの時にハルトから最近ハインツにヴィズィオネアの人間がよく入国していると聞いて、調べていたんだ」


 思い出せば確かに建国祭があった次の日からリヴェスは忙しそうにしていて、屋敷に居なかったり帰りが遅い日が多かった。


「そこでヴィズィオネアの人間がハインツに英雄を探しに来ていることを知った。俺は英雄が赤髪ではない可能性を考えていたし、英雄の特徴を聞いてルーだと辻褄が合ったんだ」


(ハインツまで探しに…?)


 ここで暮らしていれば絶対に気づかれないと思っていたのに、まさかリヴェスにも気づかれて、ヴィズィオネアの者にも気づかれるとは思いもしなかった。

 赤髪だと噂されていたのにも関わらず、そうではない可能性を考えていたなんて。

 特に連れて行かれた先で話していた騎士も、ルーペアトが英雄だと確信していた。


「リヴェスが気づくのはまだわかりますが、どうしてヴィズィオネアの騎士達が気づいたんでしょう?私は会った覚えもないのに…」

「それは……、他に英雄になれる程の腕前を持った者が居なかったからとかじゃないか?」


 リヴェスは一瞬口を噤んだ。何故なら気づかれている本当の理由が、ルーペアトが皇族という理由だからだ。しかしそれを伝えるわけにはいかず、それらしいことを述べるしかなかった。


「そうかもしれないですね…、私は前線で戦っていましたし」


(前線で戦わされていたのか…)


 リヴェスは拳を強く握り締めた。前線で戦う者は一番身の危険があるし、戦う者はいつでも死と隣り合わせだ。そんな中、女性なのにも関わらず前線に出て戦ってくれていたルーペアトに対し、物の様な扱いをしているミランに益々怒りが湧いてくる。


「もう一つ聞いても良いですか?」

「あ、ああ何でも聞いてくれ」


 ルーペアトに話し掛けられ、リヴェスは一旦怒りを抑えた。

 次は何を聞かれるのかと心臓が速く波打つ。


「どうして私がその英雄だと気づいたのに黙っていてくれたんですか?」


 リヴェスはその質問に安堵した。ミランや皇族に関わる質問が来たらどうしようかと思っていたからだ。

 答えやすい質問で本当に良かった。


「ルーが自分から言わないことは黙っていようと思ったんだ。例え英雄であっても契約に反することではないし、英雄だと始めから知っていてもルーと契約していたから」

「そうだったんですね…。今まで黙っていてごめんなさい」

「謝る必要はない。俺の生まれや両親の話と同じで、人に言えないことは誰しもあるものだ」

「…ありがとうございます」


 リヴェスが向けてくれる優しさに泣いてしまいそうだった。いつもルーペアトのことを考えてくれるリヴェスには感謝してもしきれない。

 あんなことがあった後だというのに、ルーペアトは今幸せだった。いや、リヴェスと出会ってからは毎日幸せを感じている。

 いつかは終わってしまうのに。


(この幸せを…終わらせたくない…)


 ルーペアトは分不相応なのにそう思ってしまった。

読んで頂きありがとうございました!


リヴェスが皇族だったと知っているのは、ティハルト、ジェイ、ハンナ、ノーヴァ、ウィノラの5人で、ルーが皇族だと知っているのが、ウィノラを除いた4人です^^


次回は日曜7時となります。

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