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第42話 これからは守るために

 馬に乗ってノーヴァとリヴェスの元に向かっていたルーペアトだったが、森を抜けた所でノーヴァは馬を止めてしまった。


「おかしいな…」

「何かあったの?」


 ルーペアトは振り返ってノーヴァの顔を見れば、眉をひそめ困った様子だった。


「この辺りで合流出来るはずだったんだけどね…」

「リヴェスが思ったより遠くに居たとか?」

「いや、どこに居るかは知っていたし、リヴェスなら急いで来るはずだからもう来ていてもおかしくないんだよ」


 確かにルーペアトが商会に訪れた時も、リヴェスはハンナから報告を受けてからすぐに来ていた。

 それなのに来ていないということは、リヴェスが誰かに足留めされているか、ウィノラがリヴェスにまだ伝えられていないということが考えられる。


「小屋に居た時、あいつ何か言ってました?」

「……主君に会わせるって言ってた。顔を見たら驚くって」

「ということは彼はこの森に居ないんですね。…どうやらウィノラと僕の繋がりに気づかれましたか」

「その彼って…誰なの?」

「…知らない方が良いです。そんなことより、リヴェスの元に向かいますよ」

「え、ちょっ…!」


 気になって聞いたのに、そんなことよりとはぐらかされ、問い詰めようと考えたところでノーヴァが急に馬を走らせたため、危うく馬から落ちるところだった。落としたくないならせめて、出発する時はゆっくりしてほしい。


 馬車にしか乗ったことがなかったルーペアトは、馬の速さに驚きつつ感動していたが、あまりにも振動が強くて腰を痛めそうだ。

 高くて速いことに恐怖は抱かないが、落ちたら絶対に怪我をすると思うと身の毛がよだつ。


(止まってても手綱はちゃんと握っていないと…)


 馬が走り出してから数十分、街に近づいて来たところで、通りかかった馬車が二人の前で止まった。それを見てノーヴァも馬を止める。

 リヴェスが乗っている馬車とは違うため、他の者のようだがウィノラは馬車を使っていない。馬車にも見覚えはないが、扉が開いて出て来た人物にルーペアトは唖然とした。 


「お義兄さん…!?」


 出て来たのはティハルトだったのだ。

 皇族なら乗り心地の良い豪華な馬車に乗っているはずだが、何故こんな質素な場所に乗っているのだろう。

 ルーペアトは初めてなのに軽々と馬から飛び降りた。


「お義兄さんって呼んでくれた!…って今は喜んでる場合じゃないね。リヴェスのところに行くんだよね?」

「はい」

「これを君に使って欲しいんだ」


 そう言ってティハルトが差し出した物は、赤い宝石が柄に付いた漆黒の剣だった。その色合いを見て、ルーペアトはリヴェスの剣だと気づく。

 しかし、一度リヴェスの剣を借りた時があったが、その時はこの剣ではなかった。昔使っていた剣なのだろうか。


 それに加え、ティハルトは間違いなく使って欲しいと言った。リヴェスがルーペアトが英雄だと気づいているということは、ティハルトが知っていて当然だ。

 本当に、いつから気づいていたのだろう。


「これはリヴェスのでは?」

「うん、この剣は僕がリヴェスに贈った剣なんだ。でも、リヴェスにとってこの剣はそれだけじゃなくて、両親を手に掛けた剣でもある。リヴェスは気に入ってくれてたんだけど、やっぱり思い出しちゃうかなって、僕が仕舞っておいたんだ」


(これがそうなんだ…)


 リヴェスが両親を手に掛けた剣。でも、ティハルトが仕舞っていたからか、それともリヴェスが大事に使っていたからか、剣は綺麗なままだ。


「ずっと両親を手に掛けた剣として眠らせていたわけだけど、これからは誰かを守る剣として君に使って欲しい。君は人の幸せを奪ってしまったと思っていると思う、でもあの国で他の選択肢はなかったし、その気持ちを持っているだけで十分だよ。だから、これからは誰かの幸せを守るため、そして増やすために剣を振れば良いだろう?」


 ルーペアトが兵士として生きていた頃の全てを知っているかの様な言葉だった。ティハルトの想いがルーペアトの胸に深く突き刺さる。

 ずっと自我を失って敵兵を全員殺めてしまったことを気にしていた。彼らにも帰りを待つ家族が居ただろうにと。

 幸せを奪ってしまった分、出来ることならこれからはティハルトの言うように、それ以上に誰かの幸せを守りたい。


「それでも良いんでしょうか…」

「ヴィズィオネアだと、争いは止めて話し合いで解決すべきだ、何て言っても反逆罪で捕まるだけだよ。皇族の方針を変えるには、国を勝利に導いた褒賞として国にお願いするか、別の皇族が立ち上がるしかないからね。君がやらなくても誰かがしなくてはならなかったし、誰もやらなかったらヴィズィオネアは今頃存在してないよ」


 自分は間違った選択をしたと思っていた。でもそう思っているのは自分だけで、皆は国を勝利に導いた英雄だと称賛してくれている。

 それが答えだったのかもしれない。ルーペアトが英雄になったことで、ヴィズィオネアの国民とハインツにも喜んでくれた人達が居るのだから。


「…そうですね。これからは幸せのために剣を振ろうと思います」

「うん、それが良いよ」


 ルーペアトはティハルトから剣を受け取った。漆黒の剣はリヴェスが八年前に使っていた剣だからか、それほど重くはなくルーペアトが使いやすい重さで扱いやすそうだ。

 長さも丁度良い。


「ありがとうございます。大事に使わせて頂きますね」

「じゃあそろそろ向かうよ」


 ルーペアトがティハルトと話している間、嫌な顔をせず空気を読んで黙っていたノーヴァ。もしかすると彼もルーペアトの正体を知っているかもしれない。

 商会を訪れた時に探していると言っていたし。表情から察するにノーヴァがリヴェスに話したわけでもなさそうだ。


 それからノーヴァの手を借りて馬に乗り、しっかりと手綱と剣を握り締める。


「では先に向かっていますね」

「僕もすぐに追うよ」


 ティハルトは馬車で来ているためここでお別れだ。馬車の方が安全だし乗り心地が良いが、速さは馬の方が圧倒的に速いため、早く向かうには馬で行くしかない。

 でもここでティハルトと会ったということは、もう少しでリヴェスの元に辿り着くはずだ。



「…君ならリヴェスを救えるよ」


 ティハルトはそう呟いて、小さくなっていくルーペアトの姿を見つめていた。

読んで頂きありがとうございました!


次回は火曜7時となります。

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