第41話 指示した黒幕
ウィノラはノーヴァと別れた後、来た道を戻り商会の傭兵達と合流しに行く。
「皆お待たせ」
「ウィノラちゃん、良かった大丈夫そうだね」
「うん。今は自分の出来ることをしないとだから、あれこれ考えても仕方ないでしょ!」
本当はルーペアトに申し訳なくて罪悪感に押し潰されてしまいそうだが、それを今深く考えたりはせず、その気持ちに知らぬふりをしている。
弱気になっていたら守りたいものが守れなくなってしまうから、こういう時こそ自分を奮い立たせて強気でいなくては。
「急いでリヴェス様のところに向かうよ」
「「了解!」」
ノーヴァと幼馴染のウィノラは商会に関わっている人達とも、昔からの付き合いで仲が良い。ウィノラの言うことも聞いてくれるし、いつもはお金でしか動かない傭兵達もウィノラのためならと動いてくれるのだ。
ウィノラは商会に属しているわけではないが、ノーヴァの次に偉い人物と言っても過言ではない。
そんな傭兵達と共に馬に乗って、仕事をしているだろうリヴェスの元に行って一件の説明をしに行く。リヴェスと合流してからルーペアトの元へ行く頃にはもう全て片付いているはずだ。
(ルーペアト様が無事でいられますように…!)
森からリヴェスの元まで一時間もの時間を要した。ウィノラが下りた所より更に奥まで馬車は走って行ったから、ルーペアトとはかなり距離があるだろう。
リヴェスを見つけたウィノラは、すぐに馬から下りて走って行く。
「リヴェス様!」
「どうしてお前がここに居るんだ?」
「事情は行きながら話します、後で罰もちゃんと受けますから!とにかく私と一緒にルーペアト様のところに行きましょう!」
それを聞いてリヴェスは何があったのか察した。
(リオポルダ男爵令嬢が脅されて、ルーが連れて行かれたのか)
「事情はわかった。すぐに向かうぞ」
「はい!」
丁度ここでの仕事は終わって帰るところだった。例え終わっていなくても仕事を放ってルーペアトを優先するが。
ルーペアトが英雄だとわかっていても、心配なのは変わらない。とにかく無事であることを願うばかりだ。
リヴェスも馬に乗って向かおうと準備をしていた時、行く手を阻む者が現れた。
「行かせないぞ」
そう言って現れたのは金髪で紫色の瞳の青年だった。
ウィノラは彼を見て、あの日の事が頭を過る。
「あ!あなたはあの男と一緒に居た…!どうしてここに…」
「入れ替わっている可能性を考えて後をつけさせていたが、堂々と裏切っているとはな…。余程命が惜しくないと」
「私は最初からルーペアト様の味方なので!」
ウィノラが強く出れば、青年は顔を歪めていた。何か気に入らないらしい。
裏切っていたから、というのは違いそうだ。
「ルーペアトっていうのか……、ますます気に入らない」
そう言って腹立たしそうに舌打ちをしていた。ルーペアトの名前が気に入らないみたいだ。
(ルーの名前の意味は光り輝く名声…か。英雄に相応しい名だな)
リヴェスは青年が誰だかわかっていた。
金髪で紫色の瞳ということは、ヴィズィオネア現皇帝の息子、ミラン皇太子だ。
ルーペアトが英雄になってしまい、皇族であることも知られてしまったら自分の立場が危うくなることを察し、ルーペアトをどうにかしようと考えているのだろう。
「ミラン皇太子殿下、ハインツには一体どのような要件でしょう」
「お前は俺が誰かわかるのか」
「えぇっ!?皇太子殿下…?」
ウィノラは全く今の状況がわからなかった。ミランがルーペアトを連れて来るよう指示を出した人ということはわかったが、どこの皇太子なのかすら知らない。
「ヴィズィオネアの皇族の象徴である金髪をお持ちなので」
「そうだな。それよりルーペアトを俺に渡せ」
「何故でしょう?」
「あいつはヴィズィオネアの英雄だからだ。俺がもらうべきだろう?」
リヴェスにとってその言葉はかなり不快なものだった。ヴィズィオネアの英雄だから俺の物だと言う様に、ルーペアトを物扱いしているのが気に食わない。
「彼女は俺の妻です。もうヴィズィオネアの人間ではありません」
「そうか、お前がロダリオか」
どうやらミランはリヴェスがルーペアトと結婚している相手だと気づいていなかったようだ。
だが結婚していることは知った上で渡すよう言っているなら、それはつまり離婚しろということだろう。
「お前公爵だろ、あいつよりもっと良い相手が居るんじゃないか。そうだ、俺が探してやろうか?」
「俺は彼女以外を妻にするつもりはない」
そう、リヴェスは契約が終わった後も誰とも結婚するつもりはない。
でもそれだけじゃなく、契約であっても妻でいて欲しいと思うのはルーペアトただ一人だけだからだ。ルーペアトの平穏な未来を守るためにも、絶対に渡すわけにはいかない。
「じゃあ無理矢理奪うしかなさそうだ。お前が居なくなればあいつは一人になって、何の後ろ盾もなくなる」
「ハインツと戦争でも起こす気か?」
「ここは国の端、気づかれないだろ」
さすがにリヴェスが皇族の人間であることは知らないようだ。ハインツの皇帝に気づかれないと思っていてももう遅い。身分を捨てたとはいえ、これは皇太子同士の戦いだ。
「そっちがその気なら本気でいかせてもらう。英雄の居ない弱小国に大国との差を思い知らせてやる」
「何だと?よくも馬鹿にしやがったな…!」
英雄は一人で国を勝利に導いた者だ。つまりこれまでの戦争もずっとルーペアトに頼り切って戦っていたのだろう。
その英雄が居ない今、ヴィズィオネアの騎士の力なんて高が知れている。
「リオポルダ男爵令嬢は隠れていろ。ジェイはハルトに伝えに行け」
「わ、わかりました…!」
「それじゃあリヴェスは一人に…」
「良いから行け!」
「…っ!はい」
リヴェスの指示通り、ウィノラは傭兵達の後ろに身を隠す。
ジェイはリヴェスを置いて行くことに困惑していたが気迫に圧倒され、背を向け馬に乗り皇宮へと向かった。
「行かせるんだな。あれは一番の部下なんじゃないのか?」
「だから何だ。別に問題ない」
「お前、気に障るやつだな」
「お互い様だ」
どちらも構えた剣が激しくぶつかり合う。その一撃でリヴェスは感じた。ミランの一振りがそれほど重くないことを。
身長や身体つきなど、明らかな体格さがあるため、力はリヴェスが圧倒的に強い。負けることはないだろう。
問題なのは、騎士と戦っている傭兵だ。傭兵は金で雇われて戦う兵士で雇われ兵とも言われる。戦闘においてまともに教育を受けていない傭兵が、戦争を繰り返していたヴィズィオネアの騎士に勝てるかがわからない。
仕事だからとリヴェスは部下をあまり連れておらず、小人の精鋭でどこまで傭兵を援護出来るかが鍵になる。
(ルーがここに来る前にこいつを退けないとな…)
ミランとルーペアトを絶対に会わせてはいけない。そうでないと、ルーペアトは自分が皇族だということを知ってしまう。
それだけは何があっても避けたいのだ。
読んで頂きありがとうございました!
リヴェスはミランがルーペアトの名前が気に入っていない様子を見て、絶対に愛称は教えないと頑なに彼女呼びをしています^^
次回は日曜7時となります。




