第37話 疑問は確信に
皇宮に着いたリヴェスはすぐにティハルトの元に向かった。
何の連絡もなくいきなり訪ねて来たものだから、執務室の扉を開けばティハルトは驚いて椅子から立ち上がる。
「どうしたの?!」
「今すぐに皇宮の書庫に行きたいんだ」
「それは構わないけど何で急に?」
「ルーが…ヴィズィオネアの英雄かもしれない…。だから、ハインツ出身なのか調べたいんだ」
「……わかった。僕も手伝うよ」
リヴェスはすぐに書庫にティハルトと向かいながら、ルーペアトが英雄で皇族かもしれないと考えた
経緯を説明した。
他国にも詳しいティハルトもその意見に賛同してくれ、ルーペアトが英雄である可能性が高くなっていく。
書庫は皇宮地下の隠し部屋にあった。初めて中に入ると、外から見ただけでは想像も出来ない程のかなりの広さだ。
ハインツに関することの書物は全てここにある。
「ここで待ってて」
「わかった」
ティハルトは書類を取りに行き、リヴェスは部屋にあった椅子に座る。
初めて来たリヴェスはどこに何があるかわからないため、大人しくここで待っていることしか出来ない。
その間、リヴェスは自分と葛藤していた。
(…ルーも知らないことを俺が先に知っても良いのだろうか。でも知らないと守れないんだよな……)
同じ様なことを考えては悩み続け、最後はもうここまで来たのだからと決心した。
どんな結果が出ても、これまでと変わらず接することを。
暫くしてティハルトがたくさんの書類を持って来て、リヴェスの目の前にあった机が書類の山で埋まってしまった。
「かなりの量あるな…」
「十八年前に生まれた者の名簿とヴィズィオネアの皇族の家系図を持って来たよ。ありがたいことにハインツは大国だからね、名簿だけでも何十万人居るし多いのは仕方ないね」
「これは大変だな。忙しいのに手伝って貰って悪い…」
「忙しいのはお互い様でしょ?それに、こうやって兄弟で共同作業するのも楽しいからさ」
「ありがとう」
「よし、探そう!」
二人は書類の山から一つ手に取り、端から端まで見ていく。ここにも、こっちにもないと、ひたすら書類と向き合って数時間。
ついに夜明けが来てしまった。
「…これが最後だよ」
最後の一枚は二人で同時に見る。
その結果、十八年前の名簿にルーペアトの名前も、同じ見目をした者も書かれて居なかった。
「居ない…のか」
「うん、そうだね…」
ルーペアトを育てた両親の話を聞いた感じ、国に黙っていたなんてこともなさそうだ。
孤児だから生まれた時はわからなかったとしても、引き取った時に書類を提出すれば良かったのだから。
「後はヴィズィオネアの家系図だね」
そう言いながらティハルトは家系図の載った頁を開き、椅子から立ち上がって凝視する。
見てみれば、明らかにおかしな点があった。
(どういうことだ…?)
ヴィズィオネアで現在即位している皇帝と皇后、そしてその息子の皇太子が二十歳。そこまでは何もおかしな点はない。
しかし、皇后には妹が居る。その妹の夫までは名が載っているというのに、子供の名前がない。
それは本当に居ないからなのか、隠しているからなのか。
リヴェスは考えるために、再び椅子に腰を下ろした。
「皇族の見た目まではわからないか?」
「それなら別の頁に載ってると思う」
ティハルトは本を手に取って頁をめくり、所定の頁を開いて指を指しリヴェスに見せた。
加えて書いてあることを簡潔に説明する。
「ここだね。んー、ヴィズィオネアは皇后の方が皇族の血筋みたいだ。皇帝は皇族の証である金髪を持ってない」
皇帝は金髪ではなく茶髪、そして瞳が紫であることから、ルーペアトの父親である可能性はない。
皇后はもちろん金髪で、瞳は桃色。その妹も全く同じ。
「だから妹の夫が水色の瞳だったら…」
「ルーの両親、ということか…」
二人は息を呑んでゆっくりと次の頁を開く。
そして、疑問は確信へと変わった。
夫の見た目は黒髪、そして水色の瞳――
リヴェスは大きな溜息を吐いて下を向いた。
(これは…間違いないだろうな…)
「びっくりだね…。まさか皇族だったなんて」
「ハインツに来てまで探すわけだ。しかもその考えは正しい」
捕えた偽商人は英雄がハインツに居るかもしれない、と聞いたと言っていた。だからハインツに商人と偽って探しに来たと。
誰が最初にハインツに居ると考えたのかわからないが、ヴィズィオネアの皇室は英雄が皇族の人間だと気づいているかもしれない。
ルーペアトが見つかるのも時間の問題だろう。
(…出来る限りのことはしよう)
事が落ち着くまではルーペアトを社交界に出すわけにはいかない。街を出歩くにしても変装してもらわなければいけなくなるだろう。
それをどう説明するかは追々考えるとして、とりあえず何事もなかったように屋敷に帰らなければ。
「助かったよ、ありがとう。俺は一度屋敷に戻る。どうするか決めたらまた来る」
「…あんまり一人で抱え込まないでね」
「大丈夫、今は一人じゃないからな。ハルトも屋敷の皆も居るから」
「そっか、良かった」
ティハルトに見送られ、リヴェスは皇宮を出た。急いで屋敷に戻ったリヴェスはすぐにジェイとハンナを呼び出し、ルーペアトに関して会議を開く。わかったことを説明し、これからどうしていくのかを決める。
その会議は暫く続き朝の内には決められず、また夜に会議することに。
リヴェスが皇宮に行って帰って来て、会議をしている間、ルーペアトはぐっすりと眠っていた。
自分がヴィズィオネアの皇族だとも知らずに。
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これからも投稿頑張って参りますね!
次回は木曜7時となります。