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第35話 手合わせの勝敗

 騎士達からの視線を気にしながらも、ルーペアトは素振りを続ける。

 気づけば夕方が近くなってきた頃だった。良い運動になったと、そろそろ終わろうとしたところで声を掛けられる。


「訓練場に居ると聞いて驚いた」

「リヴェスおかえりなさい。驚きますか?」

「ああ、俺達の前で堂々と剣を振るとは思わなくて」


 確かに夫人の事件までは隠していたし、それ以降は剣を振る機会がなかった。

 今は隠す必要はないが、昔のように毎日訓練をしないといけないわけでもなかったため、そこまで進んでしようとは思っていなかったのだ。ただ、今朝父に教えてもらっていた時のことを夢に見たから。それだけの理由でここに来た。


「私が剣を扱えるのは知ってるじゃないですか」

「そうだが、腕前がどのくらいかはちゃんと知らないからな」


 言われてみればリヴェスの前で剣を振ったのは二度目だろうか。一度、夫人を襲おうとした暗殺者を目の前で気絶させたくらいだ。

 剣の腕前を知られるくらいは別に大したことではないはず。ルーペアトの腕前をどう見られたとしても、ヴィズィオネアの英雄と結びつけることは不可能に近いから。


「ジェイが私と手合わせしたいと―」

「リヴェス!帰ったんですね!」

「…どうした?」


 ルーペアトが話していた途中で、リヴェスが帰って来ていたことに気づいたジェイがこちらに凄い勢いで走って来た。

 その様子にはリヴェスも不思議そうな目でジェイを見ている。


「ルーペアト様と手合わせすることの許可をもらいたくて」

「……ルーは良いのか?」

「はい、私は大丈夫ですよ」

「はぁ…そうか、わかった。許可する」

「ありがとうございます!」


 許可が出たことで、ジェイは嬉しそうに拳を握り締めて両手を掲げている。

 手合わせするだけで喜んでくれるのならお安い御用だ。


 勝敗のつけ方は簡単で木刀が落ちる又は折れるか、急所に当てれば勝ちとなる。何か制限を設けるかと聞かれたが、何も要らないと答えた。剣捌きやジェイの強さをそのまま感じたいからだ。

 ルーペアトとジェイは距離を開け、近くでリヴェスとハンナが見守る中、深呼吸をして木刀を構える。


「始め!」


 リヴェスの始まりの掛け声で二人は同時に動き出す。一気に距離を詰め、まずは木刀同士ぶつけ合い重さを量る。


(やっぱり重いな…)


 さすがハインツの裏を束ねるロダリオ家の騎士だ。これまで戦って来た兵士や暗殺者とは違う。

 とても木刀を弾いて飛ばすのは無理だ。力で勝つのは不可能に近い。

 木刀を横から当てて折るか、速さで勝つしかないだろう。しかし、それはジェイも気づいているはずだ。

 だからそうさせないように動いて来ると思われる。


 リヴェスは真剣な表情で戦っている二人を少し心配そうに見つめていた。それは怪我をするかもしれないという心配ではなく、疲労の面だ。

 二人の実力は互角で良い勝負をしている。どっちが勝つのか全く予想出来ない。決着までかなりの時間を要する気がしていた。


 二人は木刀を合わせつつ、間に技を入れてみるがどちらも上手く躱されてしまう。

 木刀同士が当たる音を聞きながら、訓練場に居た騎士達は皆自分の訓練はそっちのけで、釘付けだった。


(どうしようかな…)


 中々決まらない戦いにルーペアトはどう勝ちに行くか悩んでいた。地面は平らで周りに隠れられるような物もない。剣術だけで勝たなければいけないわけだが、困ったものだ。

 このままでは体力で負けてしまうだろう。体力の限界が来る前に決めなければいけない。

 ルーペアトは次の一振りに懸けることにした。


 その一振りは見事にジェイの首元まで刃先を向けることに成功する。しかし、ルーペアトも脇腹辺りに刃が向けらていた。

 勝負は引き分けだ。


「…ありがとうございました」

「こちらこそありがとうございました!いやぁ、やっぱりルーペアト様はお強いですね。もっと頑張らないとルーペアト様を守るだなんて言えません」

「そんなことは…」


 ジェイはルーペアトを守れるくらい強くなるために、これからもっと鍛錬するみたいだが、ルーペアトとしてはこのくらい自分の身も守れる術は持っていると、ある意味証明出来たことになる。

 心配してくれているのに申し訳ないが、これでリヴェスが護衛をつけようとする時に断りやすい。


「本当に良い勝負だった」


 そう言いながらリヴェスが拍手をすれば、見ていた騎士達も二人に盛大な拍手を送った。何だがもどかしくて恥ずかしい気持ちになる。

 勝っていればその拍手はかなり嬉しかったのだろうが、引き分けだったわけだ、素直に喜べない自分が居た。

 だけどそれを表情に出したりはしない。


「ルーペアト様の努力の賜物だと思いますが、才能もありますよね。実は家系が剣士の血筋だったりするんですかね?」

「それはないんじゃないかな。もしそうなら……あ、いや、そうかもしれないですね」


 危うく兵士だったことを言ってしまうところだった。

 ルーペアトの本当の父親が剣の才能があったなら、絶対にヴィズィオネアの兵士として戦っていたはずだ。だが、ルーペアトは兵士だった頃、似た容姿の人は誰一人見ていない。

 ということは兵士ではないか、生きていないかのどちらかだろう。


「今話すのはこれくらいにして戻ろう。もう疲れただろう」

「…そうですね」


 ルーペアトが本当の父親について考えていたところ、リヴェスが話を切り上げた。

 父親がわからないルーペアトのことをリヴェスは気をつかってくれたようだ。お陰で深く考え過ぎずに済んで良かった。


 屋敷に戻ってから食事を取って休憩をしたが、久しぶりにこんなに体を動かしたからか急に疲れが襲って来た。

 ここまで疲れるのは兵士だった時以来だ。思い出したくなくても、自然とその時のことが頭に浮かんでしまう。

 ルーペアトは頭を横に振って思考を止めた。


(…楽しいことを考えよう)


 別のことを考えるために、ルーペアトはウィノラに約束していた手紙を書くことにした。手紙を書くのは初めてだが、没頭出来てとても良い。

 どんなことを書けば良いのかよくわからないが、ウィノラが喜んでくれると嬉しい。

読んで頂きありがとうございました!


次回は日曜7時となります。

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