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第34話 騎士達から憧れの眼差し

 寝台から出て着替え終わり、朝食を食べる頃にはもうリヴェスは居なかった。

 いつもより早く目が覚めたにも関わらず居ないのは珍しい。仕事が忙しいのだと思うが、建国パーティーは昨日だったというのに。次の日もゆっくり出来ないなんて、とても大事な仕事なのだろう。


(久しぶりに一人で食べると寂しいな…)


 ここに来てからリヴェスと一緒に食事を取ることが多かったから、当然一人になってしまうとより寂しく感じる。

 デヴィン伯爵家に居た時は毎日一人だったから、大丈夫だと思っていたが、もうすっかり誰かと食べることに慣れてしまっていた。 


 寂しさを紛らわせるため、急ぎめに食べながら今日何をするか考える。

 建国祭が終わったことで、暫くはするべきことはないし、これまで通り庭の手入れをするくらいだ。でもそれは毎日していることだし、何か新しいことを初めてみたい。


 本来、公爵夫人がしなければいけない務めをするとしても、今のルーペアトがリヴェスよりも上手く出来る自信がない。

 結局考えてみても出来そうなことは何もなかった。


(庭の手入れが終わったら、体でも動かそうかな…)


 食事を終えたルーペアトはハンナを連れ、庭へと向かった。


 一ヶ月以上前に植えたブルースターは、芽が出て少し葉もついて来ている。早ければ後三ヶ月後には花が開くだろう。


「楽しみだな」


 そのまま部屋に飾るのも良いし、ドライフラワーや押し花にしても良いだろう。

 母が大好きだったブルースターが見れるのが楽しみで仕方ない。早く時が過ぎて欲しいような、過ぎて欲しくないような。

 でも今の生活はあっという間に終わってしまう気がする。リヴェスの提案のお陰で、着々と資金は貯まって来ているのだ。ブルースターが開花する頃には資金が貯まっていてもおかしくない。


(凄く惜しいな……)


 この生活をいつまでも続けていたい気持ちはあるが、それは契約に反するしリヴェスに迷惑を掛けてしまう。

 リヴェスは受け入れてくれているが、やっぱり平民の自分は相応しくないとルーペアトは考えていた。


(…体を動かしにいこう)


 このままだとずっとそればっかり考えて気分がもっと落ちてしまいそうだから、集中出来る運動をした方が良い。


「ハンナ、ここに訓練場ってある?」

「訓練場…ですか?…ありますが、行かれるんですか?」

「うん、体を動かしたいから」

「わかりました、案内します」


 訓練場があるか聞いたことを意外にも驚かれたから、ルーペアトも少し困惑した。

 ルーペアトが剣を扱えることを知っているのだから、訓練場を聞いても全く不思議ではないと思うのだが。そんなにおかしかっただろうか。


 疑問が浮かんだが、案内してくれるようだし気にしないでおこうと、考えたことを忘れハンナについて行く。

 訓練場に行けば騎士達が訓練しているところだった。訓練場に来たルーペアトにいち早く気づいたのはジェイだ。


「ルーペアト様!訓練場に来られたんですね!」

「うん、体を動かしたくて。木刀を貸して欲しいんだけど」

「おお!ルーペアト様の素振りを見れるということですか!?」

「え?まあ、見てても面白くはないと思うんだけど…」


 ジェイの言葉に他の騎士達もルーペアトの方へ視線を向けて来たが、何故かその視線が嬉しそうな輝きが見える。


(ん?何でこんなに注目されてるの?)


 普通、令嬢が体を動かすために木刀を貸して欲しいなんて言っていたら、不思議に思うのではないだろうか。

 それなのにどうしてそんなに嬉しそうな顔をしているのか、全くわからない。


「そんなことありませんよ。言ったじゃないですか、ルーペアト様と手合わせしてみたいと」

「言ってたけど、それはジェイの話で他の騎士は違うでしょ?」

「皆、夜会でルーペアト様が暗殺者を一人で片づけたことに感銘を受けたのですよ」

「そ、それで?」

「はい!」


 ルーペアトの言葉にジェイが笑顔で返答しては、後ろで騎士達も目を輝かせて頷いている。


(何か…恥ずかしいんだけど…)


 ハンナが驚いていたのはこうなることをわかっていたのだろうか。

 でもそれくらいなら教えてくれそうだしと、結局答えは浮かばない。


「私は手合わせするのは大丈夫だけど…」


 そう言いながらハンナの方へ目を向けると、難しい表情をしていた。これは許可して良いのか悩んでいる様子だ。

 多分、リヴェスに危ないことをさせないように言われているのだと思うが、同時にルーペアトがしたいことはさせるように言われていて葛藤していると思われる。


「手合わせするならリヴェスが帰ってからの方が良いですね」

「そうですね。ではそれまで体を温めておきます」


 ジェイから木刀を受け取ったルーペアトは、騎士達が訓練しているところから少し離れて素振りを始める。

 父に教えてもらったことを思い出しながら剣を振っていれば、横からの視線が凄く気になった。


 騎士達が見ているのもそうだが、すぐ近くに居るハンナもルーペアトを凝視している。


「そんなに気になる?」

「はい。私よりも才能がありますね。努力の賜物とも言うべきでしょうか」

「あ、ありがとう」


 ハンナが剣を扱っているところは見たことがないけれども、そっちが本業のようだしハンナもかなりの腕前であるに違いない。

 それなのに褒められるのは、嬉しいけど照れくさくもある。


「いつから剣術を教えてもらってたんですか?」

「八歳の時からお父さんに教わったの」

「ということは十年ですか」

「そうだね。ハンナの方が長そうだけど」

「私は十五年です」

「今何歳だっけ?」

「二十です」

「五歳から…」


 剣を扱い始める年齢の早さに驚き過ぎて、全然言葉にならなかった。

 ハンナも平民育ちだし、その年齢から剣を持たなければいけない環境だったのだろう。ハインツでもそういう環境の中で育つ人も居るのだと思いながらも、今リヴェスの下に居ることを考えたら、その環境から救い出したのはリヴェスな気がする。


「……やっぱりハインツは良い国だね。リヴェスもお義兄さんも良い人だし」

「本当にそう思います」


 そう言ったハンナの表情は柔らかかった。

 ハインツで生まれ育った人達は幸せだろうなと、ルーペアトは羨ましく思う。

読んで頂きありがとうございました!


次回は木曜7時となります。

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