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第33話 昔の夢

 屋敷に戻って来たルーペアトは連日の準備による疲れが出たのか、湯浴みを済ませた後すぐに眠りについてしまった。

 眠っている間、ルーペアトは幼い頃の夢を見る。


 八歳のルーペアトは、庭で剣の素振りをしていた父を見つめていた。いつも優しく愛情の籠もった目で見つめてくれる父の、初めて見る真剣な表情に釘付けになる。

 剣を振るっている姿がとても凛々しくかっこよかった。


『お父さんかっこいい!』

『ありがとう』

『私もやってみたい!』


 国の方針で六歳からは学業に専念しなければならない。だからルーペアトは毎日勉強に明け暮れる日々が続いていた。

 そんな日々に飽き飽きしていたわけだが、父の姿に憧れて剣術に興味を持ったのだ。


『う~ん、危ないからどうしようかな…』

『危なくない剣使うよ!最近勉強ばかりでつまらないの…』

『…じゃあ素振りしてみようか』

『うん!』


 両親のどちらもルーペアトに甘かったため、ルーペアトがしたいと言えば悩みはしても叶えてくれる。

 だから今回も、素振りなら危なくないからと父は了承してくれた。


 持って来た木刀を使って、父に言われた通りに剣を振る。始めは上から下に剣を振り下ろすだけの素振りだったが、ルーペアトは父のように横や斜めにも振ってみた。


(楽しい…!)


 やってみたら思っていた通り、剣を振るうのが楽しく思えた。

 それからもっともっと、と父に縋り勉強の合間を縫って剣術を教わる。戦場に出たりで、家にあまり居ない父と過ごす数少ない時間だった。

 父が帰って来ない日は一人で練習し、帰って来た時に成長した姿を見せる。

 これが日課になっていた。


 そんな時だった。ルーペアトが教わっていたところを軍人に見られたのは。


『お前、女なのに中々筋が良いな』

『ほんと?嬉しいな』

『前例はないが、どうだ?兵士になる気はないか?』

『え?』


 剣術を褒められたことは素直に嬉しかった。だが、まさか兵士に勧誘されるとは思っておらず、状況が理解出来ない。

 軍人の言うように女の兵士はこれまでで一人も居らず、戦うのは男の役目だった。だからこそ、戦場に出ることはないし、自分の身が守れるくらいになれば良いなと思いながら、娯楽としても楽しんで教わっていたのだ。


『戦場は危険です!娘はまだ八歳ですよ!?』

『才能があるし、生きていけると思うが?』


 困惑しているルーペアトを前に、父は戦場には行かせまいと軍人と言い争い始めた。


『兵士は男の役目です』

『別に法で決められていないだろう』

『だからといって兵士にするなんて…』

『その才能を野放しにしておくのは勿体ない。お前も娘に才能があるから教えていたんじゃないのか?』


 その質問にルーペアトは二人の会話に割って入った。


『違うの!私が教えて欲しいって無理を言ったの!』

『ルー…』

『なら、才能があることには気づいていたんじゃないか?』

『……』


 父は核心を突かれたのか黙ってしまった。

 そんな父の姿と軍人に勧誘されたことを考えて、ルーペアトは自分に才能があったことに気づく。

 だから兵士になりたいというわけではない。何故なら、両親が悲しむことをわかっていたからだ。


『…私は兵士には―』

『また来る。その時は良い返事が聞けることを願ってるよ』


 ルーペアトが断ろうとした時、軍人は父の肩に手を置いて耳元で何か呟いていた。

 その時父は唇を噛み、何か堪えている様に見える。軍人が去ってから、ルーペアトは父の袖を掴んで呼んだ。


『…お父さん?』

『ルー、……ごめんな』


 父は今にも泣き出しそうな顔でルーペアトを抱き締めた。そこでルーペアトは察する。自分は兵士にならなければいけないと。

 父は兵士であり、相手は軍人だ。さっきの呟きは脅しも同然だったのかもしれない。上の者には逆らえない、だから父はルーペアトに対して謝ったのだろう。


 そこで何か気づいたのか、家から母が出て来て二人の姿に驚きを見せる。


『何かあったの?』

『…ルーが、兵士に勧誘された』

『っそんな!』

『出来る限りは抗議する。だけど……望みは薄いかもしれない』


 両親は娘が危険な場所に行き、自分達よりも早く命を落とす可能性があることを懸念していた。

 そんなことになるのは嫌だと、あれから両親は軍に必死に抗議するも、結局ルーペアトは兵士になってしまったのだ。


 すぐに戦場に出されたルーペアトは、初めて人を殺める場面に遭遇した。兵士とはそういうものだと痛感し、一気に足がすくみ身体が強張る。

 しかし、殺さなければ自分が死んでしまう。でも殺したくない。その二つの気持ちがルーペアトの脳に絡みついていた。


 考えた結果、ルーペアトは出来るだけ殺さない方法を選んだ。急所を避け、動けなくする程度に攻撃をする。その相手は拘束して捕虜に出来るため、上官に何か言われることはなかった。


 だから、ルーペアトが初めて人を殺めたのは両親を失った時だった――



「っは!」


 ルーペアトは飛び起き、顔に触れれば涙を流していることに気づいた。


「昔の…夢…」


 目を覚ましていなければ、両親を失った瞬間まで夢に見るところだった。

 それほどあの頃が恋しいということだろうか。


(剣の才能か…)


 それは生きていくためには確かに必要だった。でなければ一人で生きていくことも、送られて来た暗殺者を葬ることも出来なかったわけだ。

 例えルーペアトが兵士にならなかったとしても、両親が亡くなる未来は変わらない。ただ、もっと剣の腕が良ければ両親を救えたかもしれなかった。


(本当に才能なんてあるのかな)


 女性の中で才能があるのはわかる。けれど、ヴィズィオネアの兵士と比べてもルーペアトに才能があると言えるのだろうか。

 女が男より剣術に優れていることなんて滅多にないだろう。身体の大きさや筋肉量が違うというのに。

 それなのに何故あの軍人はルーペアトを兵士に勧誘したのか。

 それが今考えると不思議で仕方ない。

読んで頂きありがとうございました!


次回は火曜7時となります。

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