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第31話 初めての友達

 リヴェスから飲み物を受け取ったが、リヴェスは何か考えているようだった。


「…二人で話して来たらどうだ?」

「え?」

「是非話したいです!」


 ルーペアトはリヴェスがウィノラと話して来たらどうか、と言った理由がわからず混乱する。

 ウィノラが話したそうにしていたから提案したわけではないだろう。ならばウィノラと話すことで、ルーペアトが得することがあるということを示唆しているのかもしれない。


「…そうですね、私も話したいです。でもその間リヴェスはどうするんですか?」

「俺は陛下の所に行って来る。暫くしたら迎えに行くから」

「わかりました」


 リヴェスが社交界が苦手だから、一人にするのは心配だったがティハルトの所へ行くなら安心だ。

 きっと話したいこともあるのだろう。


「行きましょう」

「はい!」


 ルーペアトはウィノラを連れ、会場の外にある庭へと出て来た。

 花もたくさん咲いていて、明るい庭園は令嬢が二人で話していても危なくなさそうだ。もし、誰かが近づいて来てもルーペアトが居るからウィノラが怪我をすることもない。


「本当に助けて頂きありがとうございました。助けてくれたのはルーペアト様が初めてです」

「そんなに誰も庇ってくれなかったのですか?」

「はい、私は平民出身の成り上がり貴族なんです」


(平民出身の…)


 頻繁に悪く言われていた理由は元々平民だったから、ということで間違いないだろう。

 しかし、それでも確かリオポルダは男爵家だったはずだ。ウィノラよりも下の家門がたくさん居るだろうに、皆して上の者に逆らうのがそれほど怖かったのだろうか。


 怖いものがないルーペアトにはその気持ちはわからない。


「私がロダリオ公爵夫人であるルーペアト様とお話出来るなんて…夢のようです!」

「私も平民出身ですよ」

「えっ!!そうだったんですか!?」


 平民だったのに、始めから貴族の生まれだと思われるのは悪い気がして、自分も同じことを伝えれば、ウィノラは大きな声で反応してしまうほど驚いていた。


 ルーペアトが平民出身なのを中央都に住んでいれば誰でも知っていると思っていたが、案外夜会でも身分について言われることがない。それはきっとリヴェスが守ってくれているからな気がした。


「こんなことを言って良いのかわかりませんが、ルーペアト様と一緒で嬉しいです」

「私も平民出身なのが自分だけだと思っていたから、今日会えて良かった」


 そう口にした時に一つの考えが頭に浮かんだ。リヴェスがウィノラと話すのを勧めて来たのは、ウィノラがルーペアトと同じ出身なのをわかっていたからではないだろうか。

 社交界で他家との繋がりは作っておくべきだと聞く。だからこそリヴェスはルーペアトとウィノラを繋げてくれようとした。


 同じ出身なら貴族生まれの令嬢よりも話が合うし、気兼ねなく話すことも出来るかもしれないから。

 あの短い沈黙の中でリヴェスは色々考えてくれていたのだろう。


「私、ルーペアト様とお友達になりたいです…!」

「友達?」

「はい!」


 ルーペアトはウィノラの予想外の言葉に目を丸くした。友達になりたいだなんて初めて言われたのだ。

 幼い頃から兵士かつ女児だったルーペアトの周りには、歳の離れた男しか居なかった。友達よりも上司と呼ぶべきもので、友達になりたいと言って来る人だって居るわけない。

 街で知り合った人達だって友達ではないのだから。


 自分の過去を振り返ってみれば友達を作る機会はなかったし、特別ほしいと思ってもいなかった。

 でも、なりたいと思ってくれたなら、その気持ちに応えたい。


「じゃあこれからは友達としてよろしくね。私のことはルーで良いし、敬語も要らないから。ありのままのウィノラで居て」

「はい!…じゃなくて、うん!わかった!」


 嬉しそうに笑うウィノラが凄く眩しく見えた。純粋無垢でとても庇護欲が駆り立てられる子だ。


「ルーは信頼出来るから、これからもっと仲良くなって何でも話せる仲になりたいな!」


(何でも話せる仲…)


 ルーペアトは息を詰まらせた。

 友達になったなら、そしてもっと仲良くなるためには、言いづらくても言った方が良いだろう。


「…ごめん、私はウィノラと同じくらいの信頼を返せない」


 元からすぐに人を信用する性格ではなかったが、やはりあれ以降より一層人のことを信用出来なくなっている。

 今はリヴェス側の人達しか信用していない。リヴェスが信頼している相手はルーペアトも信頼出来るが、そうではないとなると信用に値する人間かどうか、判断するまでルーペアトは時間が掛かる。

 リヴェスが話すのを勧めたくらいだから信用しても良いのかもしれないが、後でリヴェスに確認はしておきたい。


「気にしないで!私が勝手に信頼しているだけで、まだ今日が初めてだし、これから話せる機会はあると思うから…!」

「ありがとう」


 がっかりさせてしまったらどうしようかと不安だったから、ウィノラに落ち込んだような様子がなくて安心した。


「今度、私の幼馴染も紹介したいな」

「幼馴染が居るんだ」

「うん!薄紫色の髪が凄く綺麗なの」

「そっか、会ってみたいな」


(薄紫色の髪?見たことがあるような…)


 ルーペアトは最近、薄紫色の髪の人を見た気がした。それがどこだったか思い出せない。

 建国祭の準備で色んな人に会っていたせいか、最近会った人の浮かぶ数が多くて頭の中で混ざってしまっている。


(…まあ紹介してくれるならそのうちわかるよね)


 それからも平民だった頃の話をして、初めての友達との会話を楽しんだ。

 リヴェスが迎えに来るまでの時間があっという間に訪れ、ウィノラを見送り今度手紙を書くことを約束した。


「色々話せたか?」

「はい、おかげさまで。ありがとうございました」

「それなら良かった」


 二人になり、屋敷に帰るため馬車の元へ向かい始めた。

 そこでルーペアトは気になったことを聞く。


「リヴェスはウィノラが平民だったことを知ってて、話すのを勧めてきたんですか?」

「ああ、話が合うと思って。それに、これから夜会で俺が傍に居られない時、友人がいれば心強いかと思ってな」

「そこまで考えてくれてたんですね」

「これは夫としての役目だからな」


 リヴェスがルーペアトのことを想ってくれていて嬉しいはずなのに、夫としての役目という言葉に何故か胸が痛んだ。

読んで頂きありがとうございました!


次回は木曜7時となります。

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