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第30話 厄介な令嬢

 ダンス終えた二人は会場の端へと移動する。今回は目立つことはなさそうだ。


「飲み物を取ってくる」

「はい、お願いします」


 ルーペアトが行くと迷ってしまう可能性があるため、リヴェスが行ってくれた。

 その間、ルーペアトはいつも通り会場内を観察する。


(三日前より飾りが豪華になってる…)


 人が多いせいでわかりにくいが、確かに準備に来た時よりも装飾が増えていた。三日前の時点でもう終わったと思えるほど飾られていたが、そうではなかったようだ。

 やはり国一番の祝い事なだけあって、相当お金も使われるのだと改めて実感する。


(ヴィズィオネアは建国祭とかなかったな。私が知らないだけかもしれないけど)


 ルーペアトは前線で戦う兵士ではあったが、国の中心部に住んでいたわけではない。比較的端の方だったからこそ、ハインツまで馬も馬車も使わずに来れたわけだ。

 それほど端に住んでいたから、例え中央都で建国祭をしていても知らないだろう。ハインツでもそうだったように。


 とはいえ、ヴィズィオネアには大きなパーティーを開けるほどのお金があるとも思えないが。それにいつも国同士の争いばかりで祝い事をしてる暇もないだろう。

 終戦した時は開いたかもしれないが、それでも小さなパーティーな気がする。


 そんなことを考えながら会場を見渡していれば、右の方から令嬢の声が聞こえて来た。


「―何よ、その粗末な格好は。せっかくのパーティーで汚いもの見せないでよ!」


(…何?)


 令嬢が大きな声で怒鳴っているが、周りの人は全く気にしていない様子。聞こえていないのか、聞こえないふりをしているのか、どちらにしろ無視する大人も罵倒する令嬢にも腹が立つ。

 おめでたい日にその雰囲気を壊しているのは明らかに罵倒している令嬢の方なのに。


 言われっぱなしの令嬢は静かに俯いてしまっている。多分、相手より身分が低いとかで逆らえないのだろう。

 それと相手が持っているワインの入ったグラスも気になる。もしかしたら掛けられてしまうかもしれない。

 その前に助けに入ろうと、ルーペアトは令嬢の元へ向かう。


「汚いのはあなたの方じゃないですか?」

「はあ?誰よあんた!」


(知られてないのは意外だった…)


 かなり有名人になったと思っていたが、そうではなかったようだ。それは個人的には嬉しいが、縁談を避けたいリヴェスにとっては良くないだろうか。

 とはいえ名乗るつもりはないが。


「教えるまでもないですね」

「生意気な…!それほど下なご身分ってことかしら?」

「私の服を見てもそう思います?」

「あんたの服なんて真っ黒で不吉じゃない!こんなパーティーに着て来る服じゃないわ。あんたもそこの女と一緒でこの場に相応しくないわよ。早く出て行った方が良いんじゃない?」


 令嬢はルーペアトの正体に気づくこともなく、ひたすらに罵倒し嘲笑っている。自分より下の人間だと思える自信は一体どこから来ているのやら。


 そもそも服を見てと言ったのは色だけではなく、服に散りばめられた宝石も見て欲しかったのだが。服の色を不吉と言われたことで、リヴェスを悪く言われたみたいに感じて余計に苛立ってきてしまった。


「あなたのように人を馬鹿にして見下す人の方が、このめでたい場に相応しくないですよ。あなたが出て行かれては?」

「ふざけないでよ!何で私が出て行かないといけないのよ!それに、あんた最初私に汚いと言ったわよね?そんなこと言って良いと思ってるの!?」

「先にあなたが彼女に対して汚らわしいと言ったでしょ」

「事実だもの」


(この人はどうやってここまで育ったの?両親はどんな敎育してるの…本当に…)


 ルーペアトは怒りを通り越して呆れてしまった。この令嬢には何を言っても駄目なようだ。

 自分が正しいと絶対的な自信を持っていて、他人の意見を聞き入れようともしない。


「事実なら何でも言って良いと…。なら言わせてもらいますが、人は見た目より中身です。あなたは見た目を着飾って美しくなっても、その性格と言葉使いは汚いし酷いですね」

「また汚いと言ったわね!!」

「あなたが汚いと言われるのがそれほど嫌なら、彼女だって嫌なはずです。だから謝って下さい」


 令嬢も怒っているのか身体を震わせていた。

 こんなに言い争っていても未だに誰も気に留めない。これが社交界というものなのだろうか。


(そろそろリヴェスも帰って来るだろうし話をつけないと)


「間違ったことを言ってないもの、謝らないわ」

「では謝れと命令すべきですか?」

「は、はあ…?」

「…あ、あの…私は大丈夫ですから…」


 小さく声をあげたのはルーペアトが庇っている令嬢だ。瑠璃色の髪に茶色の瞳の令嬢で服も青色。とても似合っているが、自信がなさそうにしているからか、大人しくて暗い印象になってしまっているのはある。

 決して粗末でも汚らわしくもない。


「あなたが良いなら私も構わないけど…本当に大丈夫?」

「はい…いつものことなので…」

「いつものことだと我慢するのは良くないですよ。そうして苦しむのは自分ですから」

「そう、ですよね…」


 令嬢はかなり縮こまってしまっていた。

 いつものことと言うくらい頻繁に言われているのは辛いだろう。しかも味方は誰も居ないようだし。


「〜っ!いいから早く出て行きなさいよ!!」

「まだ居たんですか?彼女が謝罪はいいと言ったのだから早くこの場から去られては?」

「うるさいわね!だったら出て行かざるを得なくしてやるわ!!」


 そう言って令嬢は思っていた通り、グラスをこちらに向けワインを掛けて来た。

 が、勿論そんなワインくらいルーペアトは手でも弾き飛ばせる。結局ワインは二人に掛かることなく、床が汚れることになった。


「は…え?確かに掛け…」


 令嬢はルーペアトの速過ぎた動きを追えず、状況を理解出来ないようだ。


「人に掛けるのは良くないですよ。事が大きくならない内に去った方が身のためでは?」


 さすがにもう去ってくれると思ったのだが、まだ困惑しているのか中々去ってくれない。

 仕方なく名乗ろうとしたところで、ルーペアトと令嬢の間に一人入って来た。


「剣に付いた血を振り払う様な手捌きだったな」

「はは…見られてたんですね」


 そんな会話をしながら目の前に視線を向ければ、令嬢は驚きに目を大きく見開いていた。

 リヴェスの姿を見てようやくルーペアトの正体に気づいたようだ。


「え…ロダリオ…公爵様…?ってことは…」

「気づくの遅いですよ」

「し、失礼しますわ…!!」


 顔色を変えて急いで去って行った。失礼な態度だったことに謝罪することなく、一目散に逃げて行くとは。

 あんなに自信満々だったのに、呆気ない。


「やっと静かになりましたね」

「ああ、かなり厄介な令嬢だったな」

「この先突っ掛かって来ることがないと良いけど…」


 令嬢が居なくなるのを見届けた後、振り返って微笑みを付ける。


「もう大丈夫ですよ」

「助けて頂き本当にありがとうございます…!私はウィノラ・リオポルダです。このご恩は一生忘れません!」

「気にしていないで、私が勝手にしたことですから」


 ルーペアト自身が腹を立て首を突っ込んだだけだから、そこまで感謝されるべきではないし申し訳ない。

 もう英雄や恩人にはなりたくないのに。

読んで頂きありがとうございました!


次回は火曜7時となります。


体調の方は良くなりました!元々喘息持ちだった為に咳が残っていますが、支障が出るほどではなくなったので、これでようやく集中して執筆出来るようになります^^


寒くなったり暖かくなったりと寒暖差が激しいので、皆様も体調に気をつけてお過ごし下さいね!

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