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第3話 やっぱり悪だった

 デヴィン夫人の養子になることが決まってから、手続きが終わった後に仕事探しを始めていたのだが、伯爵家の養子になったからと令嬢としての嗜みを身につけるように言われた。

 新しいことを学べるのは楽しくて苦というとはなかったし、夫人も優しく接してくれ現状は良い感じだと言える。

 しかし、目的だった仕事探しはあまり出来ていない。

 養子になると決めたからには文句を言うつもりはないが、仕事探しを邪魔されているような気がしてならなかった。


 数ヶ月経ち、ようやく仕事が見つかった。

 元々出来そうだなと思っていた、料亭で働く仕事だ。よく両親と一緒に料理をしていたから得意な方だとは思っている。

 この店で一人で生きていけるお金が貯まるほど働ければいいのだが、夫人に何か言われたりしないか心配だし、勉強ばかりに時間を割かなければいけなくて中々働きにいけないのが次の問題点だ。

 少しずつお金は貯まっていくだろうけど、この調子だと資金が貯まるのはいつになることやら。


 お金が貯まらない問題に加え、見張りと言わざるを得ない専属の侍女まで就けられてしまった。


「ミアです!よろしくお願いします、お嬢様!」

「…よろしく」


(歳は私とあまり変わらない…。でも夫人にとって扱いやすい駒だね)


 純真無垢なこのように見えるが従順で素直な人ほど扱いやすい。第一印象としては脅されたらすぐに頷いてしまいそうな人、という印象だ。

 信用しないことは勿論のこと、情が移る様なことも避けなければ。

 侍女を就けられてからは夫人と会って話すことも少なくなり、まさに侍女が夫人の代わりと言った状況だった。侍女がルーペアトの行動を逐一報告しているのだろう。


 そうして養子になってから一年が経とうとしていた頃、突然夫人の子供がもうすぐ生まれると聞かされた。

 日を増すごとに会う機会が減っていたのはそういうことだったのかと腑に落ちる。


(まだ資金が貯まってないんだけどな…)


 もうすぐ生まれるということは、ルーペアトが仕事を見つけた頃には子供が出来たことを分かっていたはずだ。それを直前まで隠していたとは…、嫌な予感する。


(夫人は悪、かな…)


 ルーペアトは出来るだけ早くこの家に見切りをつけようと考え、気づかれないよう緻密に計画を立てて過ごした。

 部屋では常に侍女が居て紙に書くことが出来ないため、仕事の休憩中にこっそりと。


 血の繋がっていない義理の妹が出来、思っていた通りにこれまでの生活が一変した。

 夫人とは一切会うことはなくなり、まだ途中だったのに教育も終わってしまったのだ。就いていた先生はまだ幼いのに、もう義妹に就いているのだとか。

 このままでは義理でも姉だからと、あれこれさせられるに違いない。


(今の状態で何を教えるの?)


 ルーペアトに残った気持ちは呆れだけだった。こうなる気がしていただけあって、がっかりする様なことは一切ない。

 居なくても良かったのだが、侍女のミアは私に就いたままらしい。身の回りのお世話と言いつつ、やっぱり見張りのためだろう。

 義妹が生まれてから良かったことと言えば、仕事に行ける時間が増えたことだ。

 これにより、半年後にはここを出られるかもしれないと思って、真面目に働き続けて半年――


 今日も仕事を終えて帰って来たところ、部屋からミアの叫び声が聞こえた。


「きゃあぁぁー!!」


 聞こえてからすぐに走り出し、急いで部屋に向かった。そして目に飛び込んで来たのは、割れた窓ガラスと走り去って行く男。

 ルーペアトは状況を素早く理解した。『誰か』にお金を盗まれたと…


 その『誰か』もきっと、夫人の知り合いだろう。


「大丈夫だった?」

「はい…、でもお嬢様のお金が…」

「気にしなくていいよ」


(追いかければ余裕で捕まえられるけれど、自分の出来ることは最低限隠しておかないと…。お金は惜しいけど)


 捕まえてしまえば、夫人は更に不満を募らせるだろうし、兵士だったことを知られていても腕が良いことまで知られてしまえば、ルーペアトまで良い駒にされてしまう。

 幸いにも全額部屋に置いていたわけではないから、盗まれたと言えども三分の一くらいだ。

 少し心もとないが、もう家を出てもいいかと考え始めた。出る機会は窺わないといけないが。


 屋敷で夫人に暴言を浴びせられながらも準備は着々と進んで行き、十八歳の成人になる頃にようやく家を出られそうだった。

 後はこっそりと抜け出すだけなのだが、その前に成人になってしまったことで夫人に夜会に出るように言われ出ることに。

 また何か仕掛けてくるに違いないし、資金も誰にも見つからないところに隠しておかなければ。


 行ったことのない夜会自体はとても楽しみなのだが、夫人がルーペアトの悪い噂を広めていたりしないかが心配だ。

 令嬢たちは噂が好きだと聞いたし、社交界では噂なんてすぐに広まってしまうから気をつけるよう教えられた。


(まあ、どんな噂でも対処のしようはある)


 夫人はルーペアトのことを甘く見ている節があるから、今回も夫人の計画通りには進まないだろう。


 そして夜会の日が近づいてきて、ルーペアトはあることに気づいた。


(そういえば、服がない…)


 夜会に出ることを強制されたからドレスの一つくらい安価なものでも古いものでも渡して来ると思っていたが、前日になってもそんな様子は一つもなかった。

 これは資金を使って買うしかない。


(ドレスなんて買ったことないし着たこともないのに…)


 自分に何が似合うのかなんてわかるわけがない。

 くわしい人に聞くと言ったって、この屋敷にルーペアトの味方は居ないし、返って似合わないドレスをおすすめされそうだ。


(店の皆に聞いてこようかな)


 そう思い立ち、仕事に行くふりをして街に出かけていった。

 店の人達は屋敷の人と違って優しく接してくれる。身内の居ないルーペアトにとって大切な存在だ。


「いらっしゃい!あれ?今日は仕事じゃないだろう?」

「そうなんだけど、実は今度夜会に出席しないといけなくてね、ドレスを買わないとなんだけど自分に似合うのがわからないから皆の意見を聞きたくて」

「それはめでたいじゃないか!ルーに似合うドレス、ねぇ…」


 明るく活気ある店主のおばさんはルーペアトの質問に真面目に考えている様子だった。

 他の店の人達や、ルーペアトをよく知っている常連の人達も一緒になって考えてくれているが、すぐに意見は出て来ない。


「難しい質問だったかな…?」

「いやぁ、ルーなら何でも似合いそうだと思ってね」

「…?そうかな?」

「髪も綺麗な金髪だし、どんな色でも映えるだろうよ」


(金髪ならどんな色でも映えるか…)


 他の人を参考したくても、ハインツで金髪は滅多に見かけないから参考にすることが出来ない。

 何となく頭で想像してみるが、似合うの基準もわからず結局振り出しに戻ってしまう。


「でもやっぱりあれだな!ルーには青が一番似合う」

「そうだねぇ!目の色と同じ色を選ぶといいよ。皆、大抵目の色や相手の色に合わせるからね」

「そうなんだ。じゃあ青色にするよ、ありがとう」


 店の皆から楽しんで来てねと、声を掛けられながらルーペアトは店を後に服屋に向かい、青色であまり目立った装飾のないドレスを選んだ。

 装飾品や靴は服屋でおすすめしてもらった中で安価ものを選び、出費は出来るだけ抑えつつ何とか準備を整えた。

読んで頂きありがとうございました!


本日はもう1話投稿されていますので、第4話も続けて読むことが出来ます^^

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