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第28話 ハインツ建国祭

 目が覚めたら自室の寝台の上だったことに驚き急いで謝罪したりと、残りの日数も慌ただしく準備に追われる日々を送った。


 そして建国祭当日になり、まずはティハルトが街の大通りを通って国民に挨拶していく。その間リヴェスは護衛に当たる。

 ルーペアトは建国祭が初めてだからと、街を楽しんで来るこちを提案され、ハンナと共に街へ出掛けることにした。


 帽子を被り、素朴な服を着て貴族だとわからないように変装もする。それと相変わらず街に騎士がたくさん配置されていても、剣は携えていく。


「凄い…!前よりも街が輝いて見える」


 通りにあるお店や家に飾りつけがしてあり、街全体がハインツの建国をお祝いしている。

 それだけではなく、国民のたくさん笑顔が生まれていた。


(私も嬉しいな)


 まだハインツに来てから三年だが、愛国心というものは勿論持っている。

 ヴィズィオネアは両親と過ごした場所であると同時に失った場所でもあるため、今はハインツの方が好きだと言っても過言ではない。

 子供が戦場に出なくて良いこのハインツの環境も、国民にとってはとても嬉しいだろう。


 大国なのもあるが、やはりティハルトの統制力と、それを影で支えるリヴェスが居るからこそ成り立っているのだ。

 二人は凄いなと改めて関心させられる。


 街並みをを楽しみながら歩いていれば、一人の店主に声を掛けられた。


「そこのお嬢ちゃん、桃はどうだい?今日は無料だぞ!」


 そう言われ店主が手に持っていた綺麗に色付いた桃に目をやる。

 ルーペアトはそれを見ながら両親のことをぼんやりと思い出す。


(…お父さんは桃が好きだったな)


 よく母に桃を切ってもらっていたのを覚えている。柔らかい食感に口に広がる甘い香りと味がルーペアトも大好きだった。もう暫く食べていないが。


「どうした?無料だぞ?家のは美味しいから今買わないと損するぞ!」


 黙って桃を見つめていて、店主の声でようやく我に返った。

 そして一つ気になることを質問する。


「無料で大丈夫なんですか?」

「何だお嬢ちゃん、お金の心配をしてくれてんのか?それなら大丈夫だ、建国祭の日には国から特別手当が出るからな!」

「そうなんですね」


 それを聞いてなんとなく、ティハルトが一人で使い切れない私的財産を配っているような気がした。

 建国祭を行うお金も、パーティーで使われたお金も全て皇室が出費していたからきっとそうだ。


「じゃあ二つ頂いて良いですか?」

「勿論だ、はいよ!」

「ありがとうございます」


 ルーペアトは紙袋に入った桃を受け取り、手を振って店から離れた。

 それから珍しく、ハンナから話し掛けて来る。


「それはリヴェス様と食べられるのですか?」

「うん、そうしようと思って買ったけど…、もしかしてリヴェスは苦手だった?」

「いいえ、リヴェス様は桃を好んで食べられます。ただ、知ってて買われたのかと思って聞いただけです」

「それなら良かった」


(リヴェスも桃好きなんだ…)


 自分と好みが同じで何だか嬉しい気持ちになった。でもまだまだリヴェスのことを知れていないのだと痛感する。

 ルーペアトがあまり自分の好みを言わない分、話題を出さないからかリヴェスの好みも知らない。


(今度色々聞かないと)


 庭に植える花も今はブルースターしかないが、今後はリヴェスの好きな花をたくさん植えて行きたい。

 ルーペアトが管理しているとはいえ、リヴェスの庭なわけだしルーペアトはいずれ去ってしまうのだから、自分の好きな花を植えるのは一つで十分だ。


 それからも街を見て回り少し買い物をして昼を過ぎた頃、屋敷に戻ってパーティーの準備を始める。

 衣装を着て、お化粧もして髪を整えるだけで、すっかり夕方になったしまった。


 準備が終わったルーペアトは屋敷を出て、外で待っている仕事終わりのリヴェスと合流する。

 この衣装を着た状態でリヴェスに会うのは初めてで、どう思われるのかと緊張してきた。


(大丈夫かな…、皆褒めてくれたし大丈夫だよね…?)


 ルーペアトは恐る恐る屋敷の扉を開け姿を現した。

 そうすればすぐ目の前にリヴェスが居たことにより、更に緊張して身体が強張ってしまう。


「あ…えっと…どうですか…?」


 リヴェスが口を開いたまま呆然と立っており、ルーペアトはどこか変だったのかと不安になる。

 もしくは黒と紅を取り入れたのが駄目だったのか。


「悪い…綺麗過ぎて見惚れていた」

「見惚れ…?!」

「俺の色も上手く取り入れてくれたんだな。凄く嬉しく思う」


 そう言ってリヴェスは顔を逸らしてしまったが、顔は片手で抑えつつも耳が赤く染まっていて、照れているからだとすぐにわかった。


「ありがとうございます。私もそう言って頂けて嬉しいです。リヴェスの色は絶対に入れたかったので…」

「俺は無理して入れなくて良いと伝えたが、ルーなら入れてくれるような気がしていた。ありがとな」


 向けられた笑顔にルーペアトの心臓が強く跳ねた。きっとルーペアトの顔もリヴェスと同じく赤くなっていることだろう。


「…行こうか」

「はい、初めてなので楽しみです」


 二人で馬車まで歩き始めたところ、静かにリヴェスが何かを呟いた。


「他の男に見せたくないな…」

「どうしました?」

「いや、何でもない」


 小さかった呟きは隣に居たルーペアトの耳にすら届かなった。

 馬車に乗り込んで会場に向かうまでの間、ルーペアトは昼間街であったことをリヴェスに話す。


「今日街で桃を頂いたんです。帰ったら一緒に食べませんか?」

「そうしよう。そういえば俺が桃を好きなのは話したか?」

「いえ、私が好きだったので頂いたんですけど、その後ハンナがリヴェスも好きだと教えてくれて」

「そうだったのか。俺と一緒だな」


 一緒というその言葉に何だか胸が温かくなる。


 それからも会話は続き、特別手当はやっぱりティハルトの私財だったとか、昼間リヴェスが護衛していた時に見たものだったりと、会場に着くまで会話が途切れることはなかった。


読んで頂きありがとうございました!


次回は水曜7時となります。

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