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第27話 あなただけの

 二人はティハルトとの会話を振り返りながら、準備を再開するため会場に戻って行く。


「今日は陛下とお話し出来て楽しかったです」

「それなら良かった」


 兄弟の仲睦まじい話を聞くのは楽しかったし、兄弟というものが少し羨ましく思う。

 ルーペアトにも義妹が存在するが、血は繋がっていないし話したこともない。預けられた身のだ、きっと一人っ子だろう。

 両親が預けた理由によっては居るのかもしれないが、例え居たとしてもハインツには居ないだろうし、ヴィズィオネアに行ったとて会えるわけがない。


「ルー…呼びづらいとわかっているが、兄上のことを兄さんと呼ぶことを俺からもお願いしたい」

「リヴェスは呼ばないんですか?」

「俺は兄上を心の底から尊敬している。…本当は兄上と呼ぶことすら烏滸がましい」


 リヴェスがそう思うのは、もう皇室の一員ではないからということに加え、自分が出来損ないだからだ。

 両親の色を受け継がず、幼少期はまともな教育を受けていない。そんな自分が、父親に似た容姿を持ち才色兼備なティハルトと同じ皇族で兄弟だと謳うのは、ティハルトの顔に泥を塗るようなものだ。

 だから本当は兄上ではなく、尊敬の念を込めて皇帝陛下と呼ぶべきだとわかっている。それでも兄上と呼んでいるのは、幼かった自分の我儘だ。


「そんなことはないと思います。それなら私の方がもっと烏滸がましいです。身分のない孤児で、礼儀作法もちゃんとなっていない、契約で成り立った妻。リヴェスは血が繋がっているけど、私は何の繋がりもないし、本来なら人生の中で会うこともなかった方です。私は陛下に顔を合わせられるほど正しく生きてもいませんから」


 リヴェスが烏滸がましく思う理由の一つに両親を手に掛けたことも含まれるだろう。それから、その後ティハルトは表の仕事を、リヴェスは裏の仕事をしていたと言っていた。

 それはつまり、リヴェスはティハルトに逆らう者、罪を犯した者を数知れず殺めて来たということ。


 ならルーペアトだって同じ。両親を殺された悲しみから敵国の兵士を全て殺した上に、ハインツに来てから自分の命を守るために暗殺者だって殺した。リヴェスの部下だって守れなかったし、ルーペアトが殺したのも同然だ。


 それでも、どれだけ後ろめたくて、ティハルトの弟と名乗るのが相応しくなくても、血が繋がっているというその事実さえあれば呼ぶ資格がある。

 でもルーペアトは違う。今はリヴェスと結婚しているからティハルトの義妹であったとしても、契約が終われば関係はなくなる。そしてその後は会うこともない。

 

「それは……」


 リヴェスは辛そうな表情で拳を強く握り締めていた。それはルーペアトの過去を想ってのことだろう。

 ヴィズィオネアでの出来事は知らなくても、ハインツに来てからの暗殺者のことは知っているし、剣が扱えるという時点で勘の良いリヴェスはルーペアトの過去を想像出来るはずだ。


「…それでも俺はルーにそう呼んで欲しい」


 命令出来る立場なのにいつもお願いだから、その優しさにはルーペアトも困ってしまう。

 兵士だった頃も、デヴィン伯爵家に居た頃も、常に命令されて生きて来たから命令してくれたら深く考えることもなく、楽に受け入れることが出来るのに。


 ここでその願いを断っても、リヴェスはルーペアトの意見を尊重してくれるから、これ以上願って来ることはなくなるだろう。

 でも、それでは駄目だ。


(リヴェスが私の願いを叶えてくれるから、私もリヴェスの願いを叶えたい)


 そう思うのは叶えてくれたお返しではない。これまでの恩を抜きにしても、心から叶えたいと思った。


「わかりました、私はお義兄さんと呼ばせて頂きます。でもその代わり、リヴェスも呼び方を変えましょう。リヴェスは愛称で呼ぶのが良いと思います」

「いや、俺は…―」

「お義兄さんを愛称で呼んであげられるのは、リヴェスしか居ないんですよ。血縁者であるリヴェスだけが。だからこれは、私からのお願いです」


 リヴェスはルーペアトの言葉に目を見張った。


 これもお願いで、呼ぶか呼ばないかの決定権はリヴェスにある。でも、ルーペアトはわかっている、リヴェスが断らないことを。


(…卑怯でごめんなさい)


 リヴェスに例えばお金が欲しいと言えばくれるだろうし、家が欲しいと言えば建ててくれるだろう。そのくらいリヴェスがルーペアトに対して何故か甘いことは知っていた。

 

「…そうだな、ルーだけに呼ぶことを強いるのは違う。出来る限り愛称で呼ぶことに尽力する」

「はい、一緒に頑張りましょう」


 二人は微笑み合った後、軽い足取りで再び会場へ足を運ぶ。

 こうしてティハルトに対する呼び方を二人は改めることにし、会場に着いてからはお互いに準備を進めていく。


 夕方になる頃には残っていた半分も終わり、会場で準備すべきことは全て終わった。


(やっと終わった…!リヴェスのところに行かないと)


 身体は確かに疲れているが、疲れよりも今は達成感を感じる。大変だったけど、任されたことを最後まで成し遂げることが出来て本当に良かった。

 後は少しの打ち合わせをして、当日を待つだけだ。


「お疲れ様です、終わりました」

「お疲れ、俺も丁度終わったところだ。帰ろう」

「帰りは挨拶しなくて大丈夫ですか?」

「ああ、会場に居ることは伏せているから」

「そうなんですね、わかりました」


 準備を終え会場を出た二人は、馬車に乗り込み屋敷へと向かう。

 その道中でルーペアトは自分が思っていたよりも身体が疲れていたのか、眠気に襲われる。


(眠るわけには……)


 うとうとして瞬きを繰り返しながら馬車に揺られていれば、リヴェスの優しい声が聞こえた。


「肩を貸そうか?」

「…リヴェスの方が…疲れているでしょ…。だから頑張って…起きて…ます」

「我慢するのは良くないぞ」


 そう言って向かいに座っていたリヴェスは席を立ち、横に座ってルーペアトの頭を肩に乗せた。

 申し訳ないと頭を上げようとするも、眠気が強いルーペアトは押さえられている少しの力にすら抵抗出来ない。


「自分だけ寝るのが申し訳ないなら、俺もこのまま寝る。だから寝てくれ」

「はい…」

「おやすみ」

「おやすみ…なさい…」


 身体が密着していてリヴェスの体温が伝わり、それが温かくてすぐ眠りについてしまった。


(寝れる気がしない…)


 そんな中リヴェスは、ルーペアトの体温を感じる度に鼓動が速く波打ってしまうため、意識しないように他のことを考えて意識を逸らすのに必死だった。

 

読んで頂きありがとうございました!


次回は日曜7時となります。

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