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第26話 陛下と初対面

 会場に着いてからは、休む間もないほど準備に追われた。

 ルーペアトがこれまで参加した夜会の会場を遥かに上回る広さで、さすが建国祭パーティーを開く会場だ。

 皇室主催のパーティーなだけある。維持費や食費、準備に掛かるお金は多額だろう。


 準備中は会場を行ったり来たりして、周囲を見渡したりしていたが、陛下と思える人物は居なかった。

 会ったことがないのもあるが、上手く変装しているようだ。リヴェスが話していた相手を観察しても、親しそうに話す様子もなく検討もつかない。


(…とにかく今は準備に集中しないと)


 挨拶をする時がいつ来るのかわからないが、とりあえずその時が来るまで他のことを考えるのは止め、やるべき仕事に打ち込む。


 準備が半分くらい進んだところで、リヴェスがルーペアトの元にやって来た。


「休憩にしよう」

「はい」


 そうして連れられたのは広い客室で、既にお菓子などが用意されていた。

 休憩する時間はあらかじめ決まっていたのだろう、準備が早い。


「兄上を呼んでくる、待っていてくれ」

「わかりました」


 椅子に座ったルーペアトは部屋を出て行くリヴェスを見送った。


(とうとう陛下と……)


 落ち着いていたはずの鼓動が緊張でどんどん速くなっていく。

 馬車でリヴェスが言ってくれたことを思い出しながら、深呼吸を繰り返して大丈夫だと自分に言い聞かせる。


 少し経って扉を叩く音が聞こえ扉が開き、ルーペアトは勢いよく立ち上がった。

 姿を目にして驚いたのは、服は確かに普通の服なのに対し、髪は空色で目は橙色ということは変装を解いている。

 そしてリヴェスの兄だからわかってはいたが、やはり陛下も顔立ちが良い。


「紹介する、俺の妻だ」

「お初にお目にかかります、この度リヴェスの妻となりました、ルーペアトです。これからよろしくお願い致します」

「そんなに畏まらなくて大丈夫だよ、君の義兄になるわけだし。こちらこそよろしくね」


 今にも緊張で身体が震えそうだ。それでも挨拶はちゃんと出来て本当に心から安堵した。

 陛下は想像していた以上に明るい人に見える。外交も得意そうだ。


「とりあえず座ろうか」


 陛下の促しで、ルーペアトの横にリヴェスが座り、向かいに陛下が着席した。

 正面に陛下が居るのも、中々に緊張するものだ。前を向けば目が合い、その度に心臓が飛び出しそうなほどに跳ねる。


「リヴェスの妻にやっと会えて嬉しいよ。もう少し先になるかと思っていたけど、会えて良かった」

「私も陛下に会えてとても光栄に思います…」


 やっと会えて嬉しいと、ルーペアトにとっても嬉しい言葉をもらい、歓喜と緊張で声も震えそうだし、上手く笑えない。


「陛下かー…、僕はお義兄さんと呼んで欲しいな。それか愛称でハルトでも」


(お義兄さん…?陛下を…お義兄さん呼び…!?)


 すぐに家族として認められていることに凄く驚いた。その上愛称で呼ぶことの許可まで出るとは。

 常に人を疑って生きていかなければならない皇帝という立場の人が、弟の婚約者だからという理由でそんなにあっさりと信じていいものなのか。

 それほどティハルトとリヴェスの間に強固な絆と信頼があるのだろうり

 

「兄上、ルーはかなり緊張しているから、そんなにぐいぐい行くと困らせる」

「そうだね、嬉しくてつい。リヴェスが頑なに兄さんともハルトとも呼んでくれないから…」

「兄上を軽々しく呼べない」

「昔は今よりもっと口調も砕けてたのに」

「これでも砕けて話しているだろう?」


 仲の良い兄弟の会話にルーペアトは思わず「ふふっ」と小さな笑い声が漏れた。

 その後二人に凝視され、自分が笑ってしまったことを自覚して、口を右手で覆い恥ずかしくて赤くなってしまう。


「笑った…!リヴェス!笑ったよ!?」

「ルーが声を出して笑うのは珍しいな」

「それは大袈裟じゃないですか…?」


 と言いつつも、確かに言われてみれば両親を亡くしてから声を出して笑うのは滅多になかったかもしれない。

 それでも二人の、特にティハルトの反応は大袈裟過ぎると思うが。


「というか、今日は君に挨拶するために時間を作ったのに、リヴェスとばかり話してしまってごめんね」

「そんな…!聞いていて楽しいのでもっと聞きたいです」


 ルーペアトは二人の話を聞いていた時、ヴィズィオネアで両親と過ごしていたことを思い出していた。

 家族というものを久しぶりに感じて、楽しかったあの頃と重なったのだ。


「そう?じゃあ君に良い話があって、リヴェスの名前は僕が付けたんだけど、当時凄く嬉しそうにしてて可愛かったんだよ」

「そうだったんですね。その時のリヴェスを見てみたかったです」

「僕の部屋に子供の頃の肖像画があるから今度見せるよ」

「いつそんなの描いてたんだ?恥ずかしいからやめてくれ…」


 表情は困っている様子でありながら、リヴェスの耳はしっかり赤く染まっていた。

 それほど見られるのが恥ずかしいのだろうが、ルーペアトは子供の頃のリヴェスに興味がある。単純に見てみたい好奇心もあるが、もっとリヴェスを知れるきっかけになると思ったからだ。


 その後もリヴェスの話や建国祭について話していれば、あっという間に休憩時間も終わりを迎えてしまった。


「契約結婚の妻なのに、こんなに良くして下さりありがとうございました。とても楽しかったです」

「契約でも君は自らリヴェスとの結婚を望んでくれた、僕はそれがとても嬉しいんだ。リヴェスを必要とする人が現れたことが。だからありがとう」


 今日、二人と話していてルーペアトは気づいたことがある。それを口に出すか迷ったが、結局言うことにした。


「…二人は兄弟なだけあって似ていますね」


 そう言えば二人は呆然としてしまい、おかしなことを言ってしまったかと不安になる。


(やっぱり言わない方が良かった…?)


 血が繋がっているから似ているのは当たり前なのに、似ていると言うのは不躾だったかもしれない。


「俺と兄上は髪色も目の色も違うから似ていないとしか言われなかったのに、ルーにはそう見えるんだな」

「そう見えるなら嬉しいよ」


 確かに容姿だけを見れば誰もが似ていないと言うだろう。性格も両親を手に掛けることがなければ似ていたかもしれない。

 それでも根本的なところは似ている。特に優しさが。

 ルーペアトが自分を卑下することがあっても、二人は絶対に肯定してくれた。常に相手を気遣う気持ちも、兄弟を家族を想い合う気持ちだって同じくらいの優しさを持っている。


「リヴェス…本当にこれほど良い相手が見つかって良かったね」

「本当に…俺もそう思う」


(思ったことを口にしただけなのに、何故か凄く褒められてる…?)


 結婚に関して二人だけの事情があるのか、嬉しいと思ってくれていること以外上手くわからなかった。


「別れが惜しいな…。次は建国祭当日だね」

「はい、当日もよろしくお願いします」


 ルーペアトもまだたくさん話したいくらいだが、まだ準備が残っているし、ティハルトも忙しいだろう。


 深くお辞儀をして、リヴェスと客室を出て行った。

読んで頂きありがとうございました!


次回は木曜7時となります。

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