第22話 想いの籠った衣装
それから数日の間、お互い顔を合わせることが少ないまま準備だけが進んでいき、リヴェスはあの話をする機会を失ってしまっていた。
その中ルーペアトは貴族の名を全て覚え終わり、今日は衣装の最終調整をする日だ。形の出来た衣装をようやく見れるのがとても楽しみで、朝からそわそわして仕立て屋を待っていた。
(どんな仕上がりかな…)
扉を叩く音が聞こえ、ルーペアトはすぐに立ち上がって扉に近づく。開ければハンナと衣装を持った女性の仕立て屋の姿が見え、中へと通した。
「初めまして、ルーペアト様。今回は衣装担当を任せて頂きこの上なく光栄に思います」
「今日はよろしくお願いします」
「早速、出来たものはこちらになります」
「わあぁ…!」
そう言って仕立て屋が箱から取り出した衣装はとても素敵なものだった。
衣装の上半身から下半身にかけて、レース生地が黒と藍のグラデーションになっており、裾や所々に金糸で星座などの刺繍が施され、光輝くダイヤモンドに綺麗な緑のエメラルド、そしてリヴェスの瞳に似た深い紅色の宝石はレッドジルコンと言うらしい。それらの宝石が細かく散りばめられていて、本当に満天の星空を見ている様だ。
「これを私が着るのね…」
「はい。とてもお似合いになると思いますよ」
こんな素敵な衣装が本当に自分に似合うのかと不安になる。ドレスを着慣れていない元剣士が上手く着こなせるだろうかと、服に着られてしまうのではないと思ってしまう。
「お嬢様、絶対に似合いますから早く試着しましょう」
「う、うん…」
ハンナも早く衣装を着たルーペアトが見たいのか、急かして衣装を丁寧に着せ始めた。
あっという間に着させられたルーペアトは鏡で自分の姿を見て、改めて衣装の素晴らしさを痛感する。ルーペアトに似合う衣装はどんなものか考えてくれたハンナのセンスの良さと、提案通りの衣装を作り上げた仕立て屋の腕も本当に素晴らしい。
(こんなにも想いの籠った衣装を着られて、私は幸せ者だな…)
自分が幸せになっていい存在ではないとよくわかっているが、それでも幸せを感じずにはいられなかった。
「本当に良い衣装が出来ましたね。考えた甲斐があります」
「私もお客様が喜ばれる衣装を作れて良かったです」
「二人のおかげだよ。ありがとう」
それから制作中の話や細かい部分を聞きながら衣装の調整をしていく。それが終れば衣装は完成となる。
衣装に関する話を聞いていく中で、ルーペアトはあることに気付く。
(この衣装…絶対高いよね…?)
どうやら刺繍に使われた金糸には本物の金が混じっているらしく、その上三種類の宝石が細かくてもたくさん散りばめられているんだ、高くないわけがないだろう。
「ねえ、ハンナ…」
「どうされましたか?」
「この衣装ってどのくらいするの…?」
「それは気にしないで下さい。建国祭の準備をしてくれたお礼として受け取って欲しいと、リヴェス様から仰せつかっていますので」
「お礼にしては高過ぎるんじゃ…」
「安心して下さい。ロダリオ家にとってこのくらいの出費は何てことありません」
「そうかもしれないけど…!」
金額を言わないということはそれほど値を張ると言っているようなものだ。言われても言われなくても、高い衣装を贈られることに申し訳なさを感じるのは変わらないのだが。
ロダリオ家にとっては高くないかもしれないけど、平民だったルーペアトからしてみればとんでもない金額のはずだ。きっと十年は働かなくても過ごせるのではないだろうか。
「調整したことでもうお嬢様しか着られない衣装ですから、諦めて素直に受け取って下さい」
「うぅ……。着た後は大事に保管しておきます…」
「はい、そうして下さい」
調整も終わり、仕立て屋が帰ろうとしたところで丁度扉が開かれ、入れ替わりでジェイが入って来る。
「丁度終わったところでしたか。あ!それが出来た衣装ですね!凄く似合ってますよ!これはリヴェスも喜ぶな」
「ありがとうございます。見せに行った方が良いですか?」
「「行かないで下さい」」
「えぇ??」
リヴェスも喜ぶと言うから見せに行った方が良いかと思って提案したのに、ジェイとハンナに止められてしまった。
ルーペアトには今の提案の何が良くなかったのか全く見当もつかない。
「当日のお楽しみにするべきですよ!」
「そうです。今見せるのは勿体ないですから」
「そ、そっか…」
二人の言い分は納得のいくものだった。
(普通は当日まで見せないのか…)
それから服を着替えて、衣装は当日まで衣装室で大事に保管しておく。着替え終わって自室に戻ると、まだジェイは部屋に残っていた。
「そういえば、ジェイは何か別の用があって来たんですか?」
「はい。ルーペアト様この後時間はありますか?」
「大丈夫ですけど…」
今日の予定は衣装の調整だけだったし、それも早く終わったからこの後はどうしようかと思っていたところだ。
だから時間はいくらでもあるのだが、ジェイの表情が少し深刻そうに暗かったため、それが気に掛った。
「では心の準備が出来たら執務室に向かって下さい」
「心の準備?」
「リヴェスの過去について大事な話があります。ルーペアト様にとって負担になるお話です。それでも良ければ、向かって下さい」
(リヴェスの過去…)
それを聞いてルーペアトの拳に力が入る。
前からリヴェスと話していて、リヴェスもルーペアトと同様に過去が暗いことは気づいていたし、過去のことを詳しく聞きづらかった。
これまでリヴェスに関することで耳にしてきた会話の背景には一体何があったのか。それが明かされると同時に、リヴェスの両親やロダリオ公爵になった経緯も知ることになる気がする。
ジェイも暗い表情をしたままだし、何を話されるのか察したであろうハンナも押し黙ってしまい、緊張した空気に包まれていた。
二人の様子からしてリヴェスも相当な覚悟を持ってルーペアトになら話しても良いと呼んだのだろう。でも負担になるから聞きたくなければ来なくていいと。
(どうしてそこまで私の気持ちを優先するの…?)
契約結婚をしたからこそ、話さなければならないはずだ。それならルーペアトの今後のことは気にせず話してくれればいいものを、リヴェスは絶対にそうしない。
始まりは契約でいつかは別れる関係だけれど、今はリヴェスのことをもっと知りたいと思っている。
だったらルーペアトの取るべき行動はただ一つ。
「…行きます。どんな話でも受け止めます、負担にはさせないし後悔もしません」
「ありがとうございます。…リヴェスをよろしくお願い致します」
「私からもお願いします。お嬢様ならリヴェス様を光に導いてくれると信じています」
「はい。行って来ます」
そうしてルーペアトは気を引き締めて、リヴェスの待つ執務室へと足を進めて行った。
読んで頂きありがとうございました!
いよいよ次話でリヴェスの過去が明らかになります!
次回は月曜7時となります。




