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第21話 全てを話すには

 その頃、リヴェスは別の場所で建国祭の準備をしていた。

 リヴェスが事前にしなければいけない仕事は陛下の通る道の安全性を確かめるのと、パーティー会場の点検や危険な所や侵入を許すような場所がないか確認すること。そして当日のために、それらの警備を担当する人を分担することだ。

 今回はルーペアトが居るため、リヴェスも初めて表に出ることになっている。その分、準備は完璧にしておかなければならない。

 その上でリヴェスは他に手伝うことがあった。これは頼まれてしているのではなく、自ら手伝いに行っている。


「これはここでいいか?」

「いいよ。ありがとう」


 リヴェスが運んで来た物の置き場を確認するために声を掛けたのは、癖のあるふわふわした柔らかい空色の髪と、トパーズの様な橙色の瞳の青年だ。

 背はリヴェスよりも少し高く、歳も六つ上だが気さくに話せる珍しい人物である。


「今回も手伝いに来て良かったの?今回は良い結婚相手を迎えたって聞いたけど…」

「だからこそルーには家のことを頼んでる」

「リヴェスが信頼してるの珍しい…。僕も会いたいけど、リヴェスの心の準備が整うまで待ってるよ」

「建国祭中にはルーに言わないとなと思っているし、会わせたいとは思ってるんだがな…」


(ルーにとってこの契約結婚が負担になってほしくないんだよな…)


 ルーペアトが契約を交わす時に元は平民だったということを明かしてくれたのに、リヴェスは自分の秘密を明かさなかった。その時に言っておけば良かったのかもしれないが、話していたらルーペアトは絶対に気負ってしまっただろう。

 それにまだ会って間もなかったルーペアトに簡単に話せるようなことではなかったのもある。


 いつかは言わなければいけないことではあるし契約してから日が経った今、言っても良いほどルーペアトを信頼しているが、とにかく負担になってほしくない気持ちが強くて、本当のことを言い出せずにいた。


「僕のことを話すには両親のことも言わないといけないからね…、後は生まれのこともかな」

「ルーは両親を事故で亡くしてるんだ」

「それはまた……言いづらい」


 いきなり全てを話すにはあまりにも重すぎる内容だ。

 自分の両親を殺した話から、リヴェスの生まれの話、そして話していた青年の話。

 そんな話を急にされたら困惑するだろう。しかし、話同士の関係性が強いため一話題毎に話すのも無理なのだ。


「僕のことを色々省いて話すだけなら何とか…いや、無理かぁ…」

「関係性はすぐに言えても、会ってから正体に気づかれるのは早そうだな」

「うん…パーティーで会っちゃうし」

「パーティーで挨拶する前までには話さないとな」


 そうしないと、会場でいきなり初対面の男を紹介されこんな関係です、なんて言われても困るだろうから。事前に説明しておくのは大切だ。


「事前に話しても実際会ったら驚かれそうだね。僕ら似てないし…」

「…本当に、なんでだろうな」


 二人は会話をしながらも着々と建国祭の準備を進めていった。

 基本的には毎年の繰り返しで、年々準備にも慣れてきて楽になったが、リヴェスには新たに心の準備が増えたわけだ。

 噂は気にしなくても、色々と陰で言われるのは煩わしい。言われても仕方がない部分もあるが、見た目を悪く言われるのは一番不快にさせる。


 好きでこの見た目に生まれたわけでもないし、珍しいとは言え黒髪で深紅眼の何が悪いのか。

 自分がその立場になった時のことを考えてほしいものだ。


(まあ…この見た目に助けられたこともあるが)


 リヴェスも昔は自分がこの見た目で生まれたことが辛い時期もあったが、中には見た目で判断しない人も居るとわかって、その気持ちも少しずつ薄れて来ている。


「よし!今日はこのくらいにしよう。リヴェスも早く奥さんの元に帰らないとね」


 青年がからかうようにリヴェスに対してにやにやと笑みを浮かべる。


「契約結婚だからな」

「でも彼女のこと凄く大切にしてるでしょ、良い影響を受けてるんだね。最近のリヴェスは明るくなったよ」


 恥ずかしくなって契約結婚だと冷たく返したつもりだったのに、その後に図星を指されてしまった。

 今までの婚約者を大切にしてなかったわけではないが、ルーペアトをかなり大切にしているのは事実だ。


 ルーペアトがリヴェスにとって大切な存在であると同時に、良い方向に導いてくれる存在だった。

 それに気づかれるとは思いもしなかったが。


「…ルーには感謝しかないな」

「それは僕も思う。だから頑張れ!」

「他人事だな……」

「この世で一番リヴェスの幸せを願ってるから。次手伝いに来る時は惚気話の一つくらい欲しいな」

「……じゃあな」

「またねー」


 目を細めジトリと冷たい目線を送るリヴェスに対して、青年は全く気にしていないようにひらひらと手を振って部屋を出て行くリヴェスを見送った。


 リヴェスは馬車揺られて帰りながらルーペアトのことを頭に浮かべる。

 いつ話をするのか迷っているのだ。


(今日はさすがに…ルーも準備で疲れてるよな)


 準備を始めたばかりだからやることも考えることも多くて大変だろうから、そこにリヴェスの事情まで加えられたら脳が疲弊してしまう。

 頼んだことに対して真剣に取り組んで頑張ってくれているだろうし、その妨げになってはいけない。


 ルーペアトは自分が役に立てている自信がなかったようだが、リヴェスからすれば本当に助かっている。

 最初の目的だった結婚の催促から逃れるためと、すぐに破談になってしまう問題の解决。そこに手が回っていなかった屋敷の管理までしてもらっているのだ。助かっていないわけがない。


 リヴェスにとって良いことばかりで、ルーペアトを自分の事情に巻き込んでしまうことが本当に申し訳なかった。

 本当のことを話して、これまで普通に接してくれているルーペアトが離れてしまうかもしれないと考えると、辛くて仕方がない。

 今まで何度破談になろうと、「またか…」と素直に受け入れ諦めの気持ちが強かったのにも関わらず、ルーペアトに契約をすぐ破棄されるのがこんなに嫌だと思うことになるとは思わなかった。


(まだ居なくならないでくれ……)


 そう馬車の中で一人、切実に願っていた。



読んで頂きありがとうございました!


次回は金曜7時となります。

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