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第18話 言えないこと

 部屋を出て行ったルーペアトを見送ったリヴェスは、再度商会長を見据え話し出す。


「さっきここに来たのはルーの意志だと言ったな?」

「ええ、そうですよ。僕に会わせてくれるなら、とここに来ることを選んだのは彼女です。まあ、その代わり少女を彼女に引き渡しましたが」


(ルーが少女を危険な目に遭わせるようなことはしない。だが…)


 リヴェスはハンナから話を聞いた騎士から詳しい状況を教えてもらっており、その時のことを思い出す。

 数人の男が一人の少女を連れて行こうとしていたところを、ルーペアトが見過ごせないと助けに行ったそうだ。ルーペアトが男を手に掛けなかったのは、少女に剣や血を見せないためだったと思う。

 しかし、そうしなくとも逃げても良かったのではないかと思ってしまった。状況を見ていたわけではないし、言葉ではわからないところもある、逃げることが出来なかった状況だったのかもしれない。


 でもルーペアトが男について行くことを選んだから、少女を守りやすくなったわけだ。

 だからルーペアトの取った選択が一番良かっただろう。


「一体何を聞いたんだ」

「僕からは特に聞いていませんよ。彼女が色々と聞いて来たんです」

「ルーが?」

「ヴィズィオネアの英雄が気になるようですね」


(また英雄か…)


 ルーペアトが英雄をかなり気にしているのはハンナの報告もあったし、リヴェスもそれには気づいていた。

 こんなでも商会長は様々な情報を持っている、英雄について詳しいのではないかとルーペアトが聞きたくなるのもわかる。

 それでもやっぱり、ただ知らなかったから英雄が気になっているとはどうも思えない。


「彼女、英雄と同じ色の瞳をしてますよね。本人は否定していましたが、僕は可能性あると思っています。あなたはどう思います?」

「…ルーは英雄ではない」


(その疑問を持つものをこれ以上増やしてはいけない)


 リヴェスやその部下以外に知られては、よりルーペアトが危険に曝されてしまう。


「でも彼女がデヴィン伯爵家の養子になったのは、英雄が現れた時期と同じですよね?」

「偶然だ。ルーは孤児だった。お前も孤児一人一人の情報は持っていないだろう、だから知らないだけだ」

「そうですね。彼女がその前はどこで何をしていたかは全くわかりません」


 ルーペアトがデヴィン伯爵家の養子になる前のことはリヴェスでも知らないのだから、商会長が知っているはずもない。

 そもそも、商会長がルーペアトの出身を知ることは本人から聞かない限り不可能だ。


「それより、あなたは随分彼女が大切なようですね?」

「ルーにこれ以上手を出したら許さないからな」

「怖いですね。僕はあなたの秘密を隠してあげているのに」

「それはお互い様だ」

「彼女、知らなさそうでしたね。あなたの正体。伝えなくて良いんですか?」

「お前には関係ないだろう」


 商会長には秘密を知られているが、逆にリヴェスは商会長の命を握っている。

 今は決定的な証拠がないから捕らえていないだけだ。それに、リヴェスが商会長に手を下しても責められる者はいない。

 それが仕事であり、リヴェスともう一人だけが持つ権限だ。


「忠告はしたからな」


 そう言ってリヴェスは部屋を出て商会から出た。もうその頃には少女は母親と帰ったのか姿は見えず、ルーペアトはハンナとジェイと話している。


(…ルーは英雄の何が気になるんだ)


 長年の戦争を終戦に導いた赤髪で水色の瞳の英雄。それ以外で知りたい情報が何なのか、それが全くわからない。


 気になったリヴェスは帰りの馬車で、ルーペアトに過去の話を聞くことにした。


「ルーはデヴィン伯爵家の養子になる前は何をしていたんだ?」

「私は…家族と暮らしていました」

「家族はもう…居ないのか」

「…はい」


 十五歳の孤児でこの見目なら平民には見えないし、貴族が養子に欲しがるのはわかる。

 剣が扱えるからか、マナーも綺麗で器用そうだ。それに平民の割には勉学に優れている。

 孤児院で学んだのか両親に教えてもらったのかわからないが、これほど教養があればデヴィン伯爵家よりも上貴族の養子にも全然迎えられただろうに。


「こんなことを聞いて悪いが、何故両親は亡くなったんだ?」


(どうしよう…、ハインツで戦死はしないし…)


 ルーペアトはリヴェスの質問にどう答えるか悩んだ。

 数十年も前から戦争が起きていないハインツで戦死はあり得ないし、両親が騎士だったわけでもない。そもそもハインツでは平民の男が皆兵士になることもないのだから。


 だからといって殺されたと言ってしまえば、リヴェスは自分を責めてしまうかもしれない。

 殺人など悪事を起こした人間を捕らえ裁くのがリヴェスの仕事だからだ。


 両親が亡くなった理由を説明するには、嘘をつくしかないだろう。


「……事故で亡くなりました」

「そうか…」


(事故か…突然両親が亡くなったと知って辛かっただろうな)


 馬車の空気が重くなってしまったため、リヴェスは少しでも明るくしようとルーペアトの両親との良い思い出話を聞くことにした。


「幸せだったか?」

「はい。…実は両親と言っても血は繋がっていないんです。でも、両親は私を大事に愛情を注いで育ててくれました」

「伯爵家の前も養子だったのか」

「そうです。私は産まれてすぐ引き取られたので」

「本当の両親はどうしたんだ?」

「わかりません」


(なら、尚更ルーペアトの過去を知ることは難しいな)


 そのことに少し安堵した。ずっと孤児だったのなら情報を得ることは難しい。

 ルーペアトが隠されて産まれたことを考えると、出産に付き合った人物も特定が出来ないからだ。


「捨てられたわけではないんです。ただどんな人だったのかは全く知りません」

「生きているかもしれないし、生きていないかもしれないのか」

「はい」


(ルーは何故預けられたんだ?)


 話を聞く限り、育てられないからや不義の子だとかそういったことではないだろう。

 育ての両親がルーペアトに血が繋がっていないことを話したなら、捨てられたわけではないというのも嘘ではなさそうだ。

 ならば、理由があって預けるしかなかった、というのが正しいかもしれない。


「そういえば、リヴェスの両親も居ないんですか?褒賞で屋敷を貰ったとジェイに聞いたので」

「…ああ、居ない」

「貴族ではあったんですよね?」

「いや…貴族ではない」

「そうだったんですか」


 ジェイがリヴェスに聞いたら答えてくれると言っていたが、リヴェスは目を逸らしてしまったし、これ以上は答えてくれなさそうだった。


(貴族じゃないなら平民だったのかな?だから元々平民だった私でも良かったとか…?)


「すまない」

「え?どうして謝るんですか?」


 ルーペアトが考えごとをしていれば、突然リヴェスが謝って来て意味がわからず困惑する。


「ルーに両親が亡くなった理由を聞いておいて、俺は説明出来ないからだ」

「全然大丈夫ですよ。それほど複雑ということですよね?」

「それもある、が。心の準備が出来なくてな…」

「話したくなければ話さなくても良いんですよ。でも、話したいのなら話せるまで待ちますから」

「…ああ」


(結構辛い思い出なのかな。私みたいに…)


 ルーペアトはリヴェスが自分と同じ境遇なのかと思っていたところ、リヴェスは真逆のことを考えていた。


(やはりルーは俺と似ている様で全く違う)


 ルーペアトは両親に愛されて育っている。両親のことが大好きだったはすだ。両親を亡くしてそれは酷く悲しんだことだろう。そして、同じく両親が居ないリヴェスに同情してくれているかもしれない。

 だが、リヴェスの両親が居ない理由を知ったら、ルーペアトはリヴェスを軽蔑するだろう。


 ルーペアトが大切で手放したくなかったものを、リヴェスは簡単に手放した。

 最も残酷な方法で―



(……俺は両親を殺した)

読んで頂きありがとうございました!


両親を殺されたルーペアトと両親を殺したリヴェス…


次回は木曜7時となります。

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