第17話 甘過ぎませんか?
17話の序盤が16話に移行しています。
1月23日前に16話を読まれ、17話をまだ読まれて居ない方は再度16話を読むことで話が繋がります。
『―金色の髪はヴィズィオネアの皇族の髪色なんですよ』
(どういうこと?ヴィズィオネアで金髪は皇族以外に生まれないの?)
ヴィズィオネアに居た頃、周りに金髪が珍しいとは言われたが、誰にも皇族の色だとは言われなかった。
加えてルーペアトは本当の両親を知らないものの、育ててくれた両親は平民だ。
それに皇族だったならどうしてルーペアトを探さないのか、という疑問がある。隠し子だから預けたというのは違う気がするのだ。
もしそうなら、育ての両親がルーペアトは捨てられたわけではないと言うのもおかしいし、本当の両親が生きているかわからないと言うのもおかしい。育ての両親が嘘をつくとは思えないし、髪色は偶然ではないだろうか。
「それは知らなかったわ。ハインツには居るでしょ?」
「ええ、居ますね。あなたの他にも」
それを聞いてルーペアトは安心した。
(良かった…。じゃあハインツに居てもヴィズィオネアの人間だと疑われない)
ハインツに金髪の人は何人か見かけている。だからハインツに居る限りは大丈夫なはずだ。
生まれは証明出来ないが、今はロダリオ公爵夫人だから、例えヴィズィオネアに行ったとして皇族と同じとは思われないだろう。
「僕は英雄が赤髪ではないのかもしれないと思っています」
「どうして?」
「返り血の可能性があると思いまして」
それは間違っていない。そこまで考えられるということは商会長は頭が回る人なんだろう。
だからこそ情報収集をして提供する仕事や裏の仕事をしているのだろうが。
「だから赤髪以外の人も探しているんです」
「へえー、それじゃあ探すのは大変だね。水色の瞳の人を全員あたることになるでしょ」
「そうですね、性別も不明ですから」
一応ルーペアトと一緒に戦っていた仲間なら、話を聞いてルーペアトかもしれないと考えなくはないと思う。
でもヴィズィオネアでは赤髪だと広まっているから、誰もルーペアトに気づくことが出来ない。
「念の為聞いておきますが、あなたはではありませんよね?」
「違いますよ。私は令嬢です、剣を振るえるわけがないでしょう」
「では、その腰に携えた剣は何です?」
見えていないはずの剣の存在に気づかれてしまった。はったりかもしれないが、剣を扱う人なら外套の膨らみで何となくわかってしまうのだろうか。
「これは護身用です。持っているだけで脅しになるでしょ。リヴェスに渡されたんです」
正確にはリヴェスに許可を貰って持ち歩いている、だが。
「さすがロダリオ公爵。そこまで気が回るとはね」
商会長はリヴェスに詳しいようだ。それでもリヴェスに関する話はリヴェス本人から聞きたいし、リヴェスの話はあまりしてほしくない。
「あなたは随分と大切にされているようだ。無理矢理な結婚じゃないだけあるね」
「夜会で初めて出会って意気投合したので」
これも正確に言うと利害が一致したからだし、そもそも無理矢理な結婚どころか契約結婚だ。
嘘をつきながら会話を続けるのも疲れてきた。そろそろ誰か来てくれると助かる。
と、丁度思い始めた頃に扉の外から走ってくる足音が聞こえて来た。
扉が勢い良く開き、男が息を切らしながら話をする。
「っ会長!はぁ…ロダリオ公爵が…現れました!」
「来ましたか」
(これで大きな問題なく帰れそう)
そう思い、ルーペアトは腰を下ろし少女に優しく話し掛ける。
「疲れたでしょ?もうお家に帰れるから安心してね」
「…うん」
ルーペアトは腰を上げてリヴェスがここに入って来るのを待った。
以外にもリヴェスは焦った様子で中に入って来る。
「ルー!無事だったんだな」
「それは…もちろん」
自ら首を突っ込んだんだ。怪我をするようなことには首を突っ込んだりしない。
大丈夫だという確信があったからここまでついて来たのに。
「久しぶりですね、ロダリオ公爵」
「よくも彼女を連れて行ってくれたな」
「違いますよ。彼女は望んで来たんです」
「…そうなのか?」
視線をルーペアトに向けたリヴェスに対して顔を背け、「まあ…はい」と返事をした。
少女を助けるために男に話し掛けたとはいえ、ここまで来たことはさすがに怒られそうだ。
「彼女もそう言ってるでしょう?」
「はぁ……。ルー、先に外に出ていてくれるか?」
「わかりました」
大きな溜息をついたリヴェスはルーペアトに外へ行くよう促した後、商会長と面倒な顔を浮かべながら話をしているのが去り際に見えた。
商会長が捕まっていないということは、上手く躱されでもしているのだろう。例えば人を攫ったのは男が勝手にしただけで指示していないとか。男が命じられたと言わない限り証拠もない。
(面倒なやり取りをさせてしまったのは申し訳ないな…)
後でリヴェスに誠心誠意謝っておかなければ。
今日は色々と迷惑を掛け過ぎてしまった。こんなに大事になるとは思わなかったし、早めに少女を抱きかかえてでも商会から出るべきだっただろうか。
とは言っても、そんなことを考えてももう遅い。
外に出てくればリヴェスの部下の他に、ジェイとハンナそして少女の母親らしき人が居た。
「ママ!」
「良かった…本当に良かった…!」
少女は母親を見つけ、ルーペアトの手を離れ母親に駆けて行き熱い抱擁を交わした。
それを見てルーペアトはちゃんと母親の元に帰せて安堵する。
ルーペアトが商会長と話している間、ずっと立たせたままなのが可哀想だったが、引き離されて連れて行かれる可能性もあった。そうなっていれば少女に傷がついたかもしれないし、方法がどうあれ守れていたなら良かった。
「本当にありがとうございました!」
「お姉ちゃんありがとう!」
「うん。今度からは気をつけてね」
母親と少女が頭を下げお礼をした後、少女はルーペアトに手を振りながら笑顔で家へと帰って行った。
母親と帰る、それが少し羨ましく思う。ルーペアトには迎えに来てくれる両親が居ないから。
本当はあの日、戦争が終わったら両親に頑張ったねって、褒めて温かく迎えて欲しかったのに。
(もう私も大人なのにね…)
今でも両親を羨望する気持ちがあるのは、あの日のことにルーペアトが囚われているからだろう。
それにはいつ解放されるのか。
「…ルーペアト様。大丈夫ですか、ってルーペアト様剣持ってるし大丈夫ですよね?」
「怪我は全くないです」
ジェイが最初ルーペアトの名前を呼ぶ時、少し辛そうに呼んでいたのはルーペアトが孤児だから、親子を見ている気持ちを察したのだろうか。
その後の確認は励ますように冗談を混じえて明るく聞いてくれたし、そういうことだろう。
「怪我がなくて本当に良かったです」
「…ごめん、ハンナ」
止めてくれたのを聞かずに行ったから当たり前だが、ハンナは少し怒っているようだった。
それからジェイとハンナと話していれば、商会からリヴェスが首を押さえながら出て来た。
商会長と話すのがそれほど大変だったのだろう。
「今回は迷惑を掛けてしまい申し訳ありません」
「無事だったから良い。それにあの子を怖がらせず安全に帰すには最善だったと思う」
もしかするとルーペアトが商会に来たのを少女のためだと思っているかもしれない。
リヴェスの言う通り、少女を怖がらせることなく安全に帰すなら、良い方法だった。男を始末していれば血を見た少女がトラウマになってしまう可能性もあったし、人質として怪我を負わされないであろうルーペアトの傍に置いておけば少女も害されない、というわけだ。
それにしても、リヴェスはルーペアトに甘過ぎではないだろうか。本気で怒ってもおかしくない一件なのに、今回もこれまでもリヴェスはルーペアトに怒ることもなく、責めたりもしない。
(むしろ怒ってくれないと罪悪感が凄い…)
英雄についてもっと情報が欲しかったからついて行ったのに。
「ロダリオ公爵夫人だからと色々言われただろう。悪い、俺のせいだ」
「いやいや、リヴェスが謝る必要はないですからね?!そもそもリヴェスは正しい仕事をしているし、悪事をする男達が悪いですから!」
確かにロダリオ公爵夫人だから始末すればリヴェスの良い顔が見られるとか言っていたけど、一応命を狙われたことに関してリヴェスは悪くないし、首を突っ込んだルーペアトが悪い。
だから謝られてルーペアトは思わず慌てて否定した。
「今までもそうだったんだ。俺が恨まれているから婚約者も狙われて…、不安にさせないようにルーに黙っていた」
「普通そうすべきですからリヴェスが気にする必要は全くないです」
令嬢が命が脅かされるのが嫌で破談にしたのはわかったが、リヴェス自身に問題は全くないのでは。
というか、こんなに優しいのに何故社交界で良くない噂しか聞かないのか。
読んで頂きありがとうございました!
次回は火曜7時となります。