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第16話 商会の男

『ねえ、その方に会わせてくれない?それならあなたについて行ってあげる』

「そうか、じゃあ会わせてやるよ」


 男はルーペアトの提案を受け入れ、商会に案内してくれることになった。

 ルーペアトは剣を鞘に仕舞い、男について行きながら話を進める。


「その子は解放してあげて」

「それは出来ねぇ。こいつは上玉だからな」

「じゃあせめて私に連れて行かせて。逃さないから」

「仕方ねぇな、わかったよ」


 男は少女の服から手を離し、ルーペアトに勢い良く押しつけた。

 ルーペアトはしっかりと受け止め、男達に見えないよう少女に微笑んだ。


「お姉ちゃん…」

「大丈夫、私が守るから」


 少女は今にも泣き出しそうな顔をしていたが、落ち着いてはいる。大人しくさえしていれば、男達も何も言ってはこないだろう。

 歳は十歳くらいだろうか。それなのに泣き出さないのは強い子だなとルーペアトは思った。

 突然大柄な男に連れ去られて、家族とも離れてしまったというのに。


(絶対に家族の元に帰すからね)


 ルーペアトは少女と手を繋ぎ歩き始めた。

 今少女は傍にいるし剣も振りやすい。ここで男達を片づけて少女を逃がすことは出来るが、逃がした先に男の仲間がいる可能性がある。

 拠点がこの付近のようだし、見張りがいてもおかしくない。

 それならルーペアトの傍において、安全が確保されるまで守っていた方が良いだろう。


 更に暗い裏路地を進んで行き、ルーペアトはもう中央都のどの辺りにいるのかもわからない。


「着いたぞ」


 そうして目の前に現れた商会は普通の店構えで、一件裏仕事をしているようには見えなかった。

 しかし、中へと入れば薄暗く不気味だ。匂いも良くなく不愉快だし、所々掃除が行き届いていない部分があって清潔感もない。


「ここがあの方の居る場所だ。無礼を働くんじゃねぇぞ」

「わかってる」


 案内された部屋に入れば、そこは綺麗に掃除がされていて気になる匂いもない。

 辺りを見渡せば新聞が何冊か置かれている。


(もしかして新聞も作ってる?)


 そうなら望んでいる情報が手に入りそうなのだが、そう簡単には教えてくれないだろう。

 部屋の奥へと進んで行けば、ポツンと一つだけ置かれた椅子に一人の男が座っていた。

 目元だけを覆う黒い仮面を着けているが、髪は薄紫色だしルーペアトよりは上だが若そうだ。


「こんにちは。お客さんかな?珍しいね、令嬢が訪ねて来るなんて」


 男はルーペアトの姿を見るなり、妖しい微笑みを浮かべながら話掛けて来た。


「色んな情報を持ってるっていう話を聞いて、あなたに聞きたいことがあるの」

「ここは普通の商会じゃない。対価は大きいよ」

「例えば?」

「それは聞きたい情報によりますね」


(具体例はあげないと…。対価が払えるものだと良いんだけど)


 ここまで連れて来てもらった男がルーペアトに気づいたくらいだ、きっとこの商会長もルーペアトの正体に気づいている。

 リヴェスに関わる対価を要求されてもおかしくない。もしそうなった場合はこの商会と人ごと潰すしかないだろう。


「ここは新聞も作ってるの?」

「ええ、ハインツ一番の情報屋と言っても過言ではないうちの新聞は、どの店よりも的確で早い」


 早いならハインツにヴィズィオネアの英雄の話を広めたのはこの商会かもしれない。

 問題はその情報を誰から聞いたのか、というところだが。


「聞きたいのはヴィズィオネアの英雄に関する情報よ。あなたが英雄の新聞を書いたなら、知っていることも情報源も話してほしい」

「これはこれは…、そんなことを令嬢が聞いてくるとは思いませんでした」


 大抵はある貴族の秘密とか、それこそ暗殺の依頼をするのだろうが、そんな情報は要らない。

 ルーペアトが望むのは英雄の情報、それだけだ。


「そうですね…情報源はかなり身分の上の方ですから、名前はお教え出来かねるかな」

「つまり私よりは上ってことね?」

「そうなりますかね」


 それなら大公か皇族になるわけだが、この国の人物ではないはずだ。

 ハインツの貴族がそんな早く隣国の情報を得られるとは思えない。ハインツの人間が現場を見ていたならまだあり得るが、そんなことないだろう。

 だからヴィズィオネア側が話を流したわけだが、身分が高くて簡単に教えられる人物といえば、ヴィズィオネアの皇族の可能性が高い。


「知ってるのはそれだけ?」

「英雄は居なくなってしまいましたからね。僕も情報を教えてくれた客に英雄を連れて来ることまで依頼されてますから」


 それを聞いてルーペアトは絶対に英雄であることは知られてはいけないと気を引き締める。

 しかし英雄の話を三年経った今聞きに来る令嬢がいるのは不思議だろう。


「そう。じゃああなたは私に何を望むの?」

「それはもちろん、彼…ロダリオ公爵をここに呼んで下さい」


(やっぱりそうだよね…)


 リヴェスは正しいことをしているのに、こんなにも恨みを持たれているなんて。

 情報は得たし、後はこの商会をどうやって潰すかだ。ハンナが人を呼びに行っているし、リヴェスが来るのも時間の問題だ。


 それまでは時間稼ぎをしたり、何か策を考えなければ。


「私の侍女が既にリヴェスに伝えていると思います。なので時が経てばここに来られるはずです」

「そうですか。では、それまで僕と楽しくお話しましょう?」

「楽しくお話出来るとは思いませんが」


 ルーペアトとしては英雄に関する以外に話したいこともないのだが。色々と聞き出されてルーペアトの事情を知られるのもごめんだ。


 それとなく嘘をつきながら上手く躱すしかない。


「あなたは英雄に興味があるのですね。瞳も同じ色ですし、親近感でも湧いたのですか?」

「私の住んでいた地域では聞かなかったから気になったの」

「気になるのなら僕と一緒に英雄を探しませんか?」

「手を組むってこと?」

「そうです」


(探している英雄なら目の前にいるけどね)


 本人とその英雄を探しては、絶対に見つけることが出来ないというのに。

 きっと商会長も英雄は赤髪だと思っているはずだし。


「それは断る。そこまで知りたいとは思わないから」

「そうですか。…ところで、知っていますか?金色の髪はヴィズィオネアの皇族の髪色なんですよ」

読んで頂きありがとうございました!


次回は土曜7時となります。

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